念願の スキル を 手に入れたぞ
今回も長くなってしまった…
「おっ…と」
転移魔法陣によって俺たちが送られたのは冒険者の街【キキョウ】近くの森だった。
「ここは…ゲームなら序盤のステ上げポイントの【隣林の森】か」
【隣林の森】は虫系や獣系のエネミーが多く、それらはHPが低いので狩りやすいのだ。
それゆえにβテストでは適当に範囲攻撃して移動、を繰り返して宿屋で回復の繰り返しでステータスを…っと話が逸れたな。
「ネリネ、ローズ、歩けるか?」
「...うん...大丈夫...」
「問題ありませんわ。」
「そか、なら行くぞ。」
…
……
………
俺たちは数分しか歩いてないのだが、既に街に到着していた。
転移した場所がこれだけ近いとは思っていなかったので嬉しい誤算である。
ネリネとローズは目立つので"隠形のローブ"で気配を普通の人間と同等、つまり一般人AとBになっている。
これなら多少怪しまれても「なんだ一般人か」を思ってくれるらしい。異常な行動を起こした場合は効果が切れるらしいが、問題ないだろう。
「…む?」
門に近づくとそこには衛兵NPCがおり、こちらを見て不思議そうに唸る。
衛兵NPCはその全てが全身鎧によって隠されており、声で男と判別できるものの個性という概念を投げ捨てた存在だ。
だが嘘を見抜くことに長けているため、俺は素直に話すことにした。
「すみません、冒険者になりたいと思い、こちらを訪れたのですが…」
「ん、ああ冒険者戦他亜への訪問者か。身分を証明できるものはあるか?」
身分の証明というのはあったらいいな程度の微妙な物である。
いちおう俺は準備したが。
「身分を証明出来るかはわかりませんが、こちらでよろしいですか?」
「ふむ…ん!?」
俺が取り出した物を見て、衛兵は驚愕しているが、当然だろう。
「"魔皇"の直筆の手紙だと…印も偽物ではないようだな…だが…すまない、まずは戦他亜に来てくれないか?」
「ええ、登録も済ませるつもりでしたからいいですよ。そうだよな?」
俺は後ろに居るネリネとローズに問いかける。
「...うん...」
「大丈夫です……わ」
ローブによって印象も変わるので、ローズは語尾が聞こえず無個性な人間になっていた。
ちなみに"隠形のローブ"は知名度がとても低いため衛兵も普通の旅人のように見えている。
「それじゃあ案内するぞ。…こっちだ」
衛兵に連れられて街へ入る。
街は人が溢れ、活気があった。
レンガ造りの街並みに走り回る元気な子供。
市場ではおばちゃんと売り手の戦争が起こり、猫が魚を銜えて走っていく。
衛兵は歩きながらこちらへ振り向く。
「どうだ、いい街だろ?」
「ええ、やはり【キキョウ】は平和ですね」
「帝国も宗国も見た目や技術はいいんだが、人の優しさはこっちが数段上だからな」
「ほんとうにそうですよね」
「俺はこの街の衛兵なことに誇りをもってるぜ」
衛兵はその後もこの街の観光スポットやオススメの宿を教えてくれた。
…まあほとんどがβテストで知ってるんだけどな。
「ついたぞ、ここが"冒険者戦他亜"だ」
それは木製の横に広い二階建ての建物で、その門を鎧やローブを装備した人達が通ってゆく。
俺たちは衛兵に連れられてその門をくぐった。
その建物の内部はこれまた木製の丸テーブルと丸椅子を沢山置いてある、酒場のような雰囲気だった。
実際に依頼を達成したのか上機嫌で酒を飲む者もいる。
衛兵は一番近いカウンターに行き、
「長はいるか?」
と聞く。すると
「今呼んできますね」
そう言って青色の髪の受付嬢は奥へと入っていった。
受付嬢というのは名前の通り全てが女性NPCであり、なおかつ美人である。
NPCとしての好感度も設定されているため、多くのプレイヤーが好感度稼ぎを試し、血の涙を飲んだとか。
その理由は受付嬢のみ普通のNPCと好感度の上げ方が違うからなのだが…
と、奥から歩いてくる男がいた。
【キキョウ】の戦他亜長のNPCである。
その見た目は海賊や山賊でも納得できる筋肉と髭だが、なかなかにいいキャラなので男性NPCランキングでは毎回トップにいた。
「私が長の…ってなんだステイブか」
「なんだって酷くね?こちとら緊急事態なんだがな」
「長にタメ口で話すのはなんとかならないのか?」
「元PTメンバーにタメで悪いか?」
「表面上は必要だろう。」
「そうですか。こちらがお呼びした件です」
「あ、やっぱりやめてくりゅっしゃあ!?」
衛兵って長と元PTメンバーなのか…と2人の会話を聞いていると、長が急に奇声を発した。
「ステイブ、これは…?」
「あちらの3人の持ってきたものです。」
「敬語やめい。…で、彼らは何をしに来たんだ?」
「冒険者登録らしい」
「そうか、とりあえず呼ばないとな」
「おうわかった」
一通り話が付いたのか衛兵がこちらを見る。
「とりあえず来てくれるか?手紙についても聞きたいからな。」
「わかった。いくぞ2人とも」
ちなみに冒険者たちはここで起きていることなど気にせずにワイワイ騒いでいた。
…
……
………
「それで、この手紙は本人から直接受け取ったのか?」
奥の部屋に通された俺たち…いや、俺がまず聞かれたのはこれだった。
「はい、内容を確認して頂ければよろしいかと。」
先ほど自己紹介をした際に俺の名前は教えているので、彼らにも手紙の内容が理解できるだろう。
ちなみに長の名前はクゥという。潰滅的に似合わないが運営だから仕方ない…
「ふむ…『冒険者の街【キキョウ】の戦他亜長へ』か…」
手紙にはこう書いてある
『そちらに儂の拾った孤児2人と娘を送る
冒険者になり人探しがしたいようなので
手伝って欲しい。
それぞれの名前はムスカリ・ネリネ・
ローズという。
儂の娘はローズじゃ。
恐らくお主らを軽く倒せる程の実力はある
ので、無理はしない方が身のためぞ。
___魔族の皇 魔皇より 』
その手紙を読んだ長は俺たちを見て、ため息をつく。
「内容は理解した。ええと…ムスカリ君をリーダーとしたPTでいいか?」
「ああ、それで登録してください。」
「おうけぃ…っと」
長は手元の用紙に必要事項を記入していく。
βテストならばロード時間だと思われたが、リアリティの追求だったのかもな。
「とりあえず、これで完了だな。カードを作るのに職スキルの習得が必要なんだが、準備はいいか?」
カードというのはこれから先冒険者として活動する際に必要なもので、所謂身分証だ。
準備というのはどの職スキルを取るか決まっているか?ということだ。
「俺は大丈夫だが、ネリネとローズは?」
「...大丈夫...」
「大丈夫です……わ」
「ならこいつを握ってくれ」
俺達に一人一つ渡されたそれは、虹色に輝くビー玉だった。
これを握ることで一旦自分の持つスキルと称号をすべて表示し、その後選択した職スキルを習得できる使い捨てアイテムで名前を【職安玉】という。
俺がそいつを握ったとき、スキルが表示されていく。
ムスカリ
所持スキル
〚超級魔法〛〚超級剣技〛〚神殺技〛
〚竜殺技〛〚獣殺技〛〚インベントリ〛
〚Apocalypse〛〚Judgement〛〚失楽園〛
〚箱庭〛〚森羅万象〛〚万能言語〛
称号
〚竜殺し〛〚王〛〚ハーレム予備軍〛
〚限界突破:HP〛〚限界突破:MP〛
〚習得者〛〚研究者〛〚熟練者〛
〚時渡〛〚剣豪〛〚賢者〛〚孤児〛
〚『Lost Paradise』〛
長は口を開けてポカーンとしている。
まあ、俺も流石に15歳のものでは無いと思うが…
ちなみに称号は3つまでセットでき、ステータス補正や特殊能力がある。
〚漆黒竜〛と戦闘したときは課金称号の2つと〚時渡〛しかなかった。
課金称号は
〚限界突破:HP〛
金こそが正義。
HP+5000
〚限界突破:MP〛
金こそが仁義。
MP+4500
となっていて、サービス開始時に課金してスタートダッシュ、ということが出来る。
ちなみに〚時渡〛だが
〚時渡〛
時を超え時空を歪めた者への称号
習得スキル一部引き継ぎ
セットしても効果は無いが、最初から[竜殺投槍]が使えたのは〚竜殺技〛を引き継いだおかげである。
ちなみに〚超級●●〛は魔皇の所で鍛えて入手した。
万能言語は最初から入手していた。
他全て引き継いだものである。〚時渡〛様様っすわー
「…ええと、職スキルの習得は少し待ってくれ」
そう言って俺のスキルを長は写していた。
その後取得した職スキルは
〚テイマー〛
エネミーと共生関係を築くことが出来る
俺がβテストで最も愛用したスキルを取り、ネリネとローズの習得を待つのだった。