勝利っ…圧倒的勝利っ…?
[漆玄崩廻]
俺の目の前のウィンドウに大きく表示されたその文字は、〚漆黒竜〛の技を示すものだった。
俺の今の状態は
PNプレイヤーネーム:村人(person)A
CN:ムスカリ
HP:452/5051
MP:2646/4585
付与:部位欠損
物理攻撃力:35
物理防御力:26
魔力:43
俊敏:6(部位欠損)
こんなところだ。
HPとMPは多少高いが、他が酷い。
HPとMPもβテスト時のスキルが残っているため底上げされた程度で、正直弱いと思う。
…まあ、このHPであれは耐えられないだろう。
そもそも今いる〚漆黒竜〛は同種の中では防御が弱い部類に入るのに対し、俺はなかなかダメージが入っていない。
右腕に込めた力…もといMPがすべて石に流れ込んだことを確認し、MPを確認する。
MP:21/4585
それを確認したとき、世界が回って見えた。
〖MP欠乏によって起こる眩暈か…〗
右手に握る石がピシピシと内部からひび割れているのを感じる。
〖ここまでMP込めたんだから、うまくいってくれよ…〗
視界がなんとか安定する。が、〚漆黒竜〛の[漆玄崩廻]も同時に完成する。
グゥゥゥ…グルガアァァァァァァ!!
そして奴は[漆玄崩廻]を放つ。
それに合わせて俺も石を全力で放り投げ、唱える。
「[投擲]そしてッ[絶対反照魔法陣]!!」
[投擲]:MP20消費・投げたものがある程度狙い道理に飛ぶ
その石が瞬く間に[漆玄崩廻]に飲み込まれる。
その先には〚漆黒竜〛が嗤う。
それは絶対的な勝者の余裕であり
それは圧倒的な種族の本能であり
それは決定的な"油断"となった。
[漆玄崩廻]が〚漆黒竜〛に向かっていく。
グルォッッ…
[絶対反照魔法陣]:MP任意消費・物体への付与魔法。発動時、その場に消費MPF/100にて全攻撃判定を発動者に返還する
ズドオォォォォォ…
空中にて〚漆黒竜〛が炸裂し、爆ぜる。
いうなれば「汚い花火」だろうか。
だが、俺のMPは残り1、もうまともに周りを確認することもできない。
「........こ.」
誰かの…懐かしい声が聞こえる。
「ど....スカリ...」
ああ、意識が遠のく…このままここに居たら、流石に死ぬかもな…
「ムスカリ...どこ?」
ああ、この声は。
俺は声に反応し、目を開ける。
その目に映ったのは、空に出来た空間の歪み。
破壊され蹂躙された木々
そして
「ムスカリ!!」
銀色の髪の少女がこちらに走ってきた。
その顔には恐怖や悲壮、そして喜びと幸せ。
走ってきた少女…ネリネはそのままの勢いで俺に飛び込み、泣いていた。
「グスッ...ムスカリ...ムスカリ...」
感情を吐き出し、泣いているネリネの頭を撫でながら、痛みに耐える。
「ヒグッ...ムスカリ...いたく...ないの?」
落ち着いてきたネリネが上目遣いで聞いてくる。
「痛いけど、まずは戻らないとな。…手伝ってくれるか?」
「...うん」
ネリネに肩を貸してもらい、歩く。
俺は片足…脛から先が無くなった方を引き摺りながら歩くと、そこに血の道が出来上がる。
〖同じ年の少女に支えられて歩くのは…恥ずかしいな…〗
まあ村に戻ればこの足だから仕方ないと思われるだろう。
…
……
………
そこそこ村から離れていたものの、何とか村まで到着s…
そこでネリネが足を止める。
その体は震えていた。
痛みで俯いていた俺が顔を上げると、そこには〚漆黒竜〛がいた。
「…は?」
先ほどとは比べ物にならない巨大な〚漆黒竜〛が、村を襲い、壊していた。