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ドラゴンさん、わりとつおい

〚漆黒竜〛は、防衛都市でもない限り確実に村、町、都を落とす。

たった1匹でそこにある命を奪い、喰らう。それが〚都落とし〛。そして〚漆黒竜〛。

夜の闇を連想させる漆黒で光沢のある鱗が巨体を覆い、形で言えば前足のあるワイバーンといいうあたりだ。


そして、本来〚漆黒竜〛はこんな小さな村は襲わないはずだが、俺は襲う理由を知っていた。


〖…初期設定、あれしかないだろうな。〗


俺はこの時初めて"初期設定"を思い出す。


〖小さな村で生まれた少年は、幸せに暮らしていた。しかしある日そこに〚漆黒竜〛が現れ、村の住民のほとんどが死んでしまった。少年もまた死にかけたが、そこに〚魔皇〛が現れ、その少年を救った。〗


…つまり、この村は俺のせいで滅ぶ、ということになるのか?



…そんなの許せるかよ。


俺が〚漆黒竜〛に襲われる設定を許可したのは、ゲームでは元々存在しない村で育ったことになっていたからだ。

まさか生まれるところからさせられるとは思ってもいなかった。


だから、発案者が会社の奴だろうが関係ない。俺はこの村を護る。死んでから生き返れるかは不明だが、とりあえず〚漆黒竜〛を引き付ければそれでいい。


「...ムスカリ...まさか」


ネリネは俺が何をしようとしているか分かったらしい。が、もう遅い。

俺は町の外に走りながらスキル[挑発][デコイ][対象隠蔽][対象狂化]を発動する。

〚漆黒竜〛は村を見失い、さらに目の前のガキ…つまり俺がヘイトをかっさらう上に思考が停止し、俺に向かって襲い掛かった。


「さあ来いよ漆黒竜!てめぇなんか怖かねぇ!」


俺の速度は完全に5歳児のものではない。それもそのはず、レベルもスキルもβテストのものほぼそのままなのだ。

あとは体がどれだけ持つかだが…


俺は自分のステータス画面を開くと、ため息をつく。


そこに書いてあった数値は、5歳児ではないが、それだけだった。〚漆黒竜〛に勝つには程遠く、一撃でも喰らえば確実に死ぬ。

5歳児がベースなのでレベルやスキルも本領発揮には程遠いのだ。


グギャァァァァァ!!


〚漆黒竜〛は吠えながら、俺を食おうとする。

その口が徐々に近づき、俺に触れようとして瞬間、俺はそこに落ちていた木の棒を拾い上げて、投げる。


[竜殺投槍キルドレイク]ッ!!」


飛んでいく木の棒は光を帯び、〚漆黒竜〛の牙を折り、口内を傷つける。

[竜殺投槍キルドレイク]は竜系統に対してダメージ倍率+固定ダメージを与えるスキルで、木の枝でも固定ダメージは通るということだ。


グアアアァァァァァ⁉


まさか反撃されるとは思っていなかったのだろう、大きくのけ反り、俺を"餌"ではなく"敵"と認識した。


〖奴のHPは今の俺のMPをすべて使って削り切れるかどうかだが…やるしかないか〗


俺は〚漆黒竜〛を正面に見据え、小石を拾う。

〚漆黒竜〛もまた、俺を正面に見据える。


グギィガァァァァ!!


先に動いたのは〚漆黒竜〛だった。空高く飛び上がり、急降下してくる。


〖急降下?しかし、この動きは…〗


俺は念のため[物理軽減結界]を張り、手に持つ小石を握りしめる。


と、そこで急降下していた〚漆黒竜〛は降下を止め、口から黒い息を吐きだす。


〖やっぱりブレスか!〗


グバアァァァァ!!


〚漆黒竜〛は口を大きく開け、高密度に圧縮された闇[漆黒吐息]を放つ。



だが、想定通りだ。

[物理軽減結界]は物理以外には効果がない上、[漆黒吐息]のバフ解除効果により消滅する。

しかし、消滅しないバフもある。


「[対吐息(ブレス)反射結界]!!」


俺の前には透明な壁が出来上がり、そこに容赦なく[漆黒吐息]が降りかかる。

するとその壁は[漆黒吐息]を吸収し、完全に消滅させた。


グルゥォォォ…?


自分のブレスに自信があったのか、〚漆黒竜〛はそこで隙を見せる。

その瞬間


キラッ☆


何もない場所…正確にはブレスが消えた場所が光る、と同時に()()()()ブレスが現れ、〚漆黒竜〛を飲み込む。


グルゥゥゥガァァァァ!?


[対吐息(ブレス)反射結界]は接触したブレスを無効化、その後反転させた属性で反射させるものだ。

ブレスを使うということはその属性の性質を強く持つもので、背反した属性には弱いことが多い。

だからこそ強力な攻撃に対して有効だが、当然デメリットもある。


「…マジかよ、MP削られすぎだろ」


ダメージは無効化されるが、使用時に消費分+反射時の威力に比例した消費となっている。

この体で使えるMPは


「あと[竜殺投槍キルドレイク]4回と[対吐息(ブレス)反射結界]か[物理軽減結界]どちらか1回ってとこか…無駄遣いするんじゃなかったな」


[竜殺投槍キルドレイク]の消費MPは250、[対吐息(ブレス)反射結界]と[物理軽減結界]は50+αという所だ。

数字にすると俺の最大MPは約4500、消費が250+50+(50+約1500)となっている。


「MP全部を[竜殺投槍キルドレイク]に使えたらワンチャン…でも、絶対攻撃は来るからな…」


ここで大事なのは、βテストと同じく復活できるかだ。

だが、設定では"神に祈りを捧げることでその神が気に入れば蘇生させられる"ということだったはずだ。

使用的には最後に行った神殿と教会がリスポーン地点だったが…俺はまだ行っていない。

ということはキャラロスか?

しかし、それだと理不尽すぎる…



…あれ?他の奴らって普通に町から始まってるんじゃないか?

『|Lost Paradise≪ロストパラダイス≫』5人以外普通に始まってる…ありうる。


ならば俺のやるべきことは最初の街に行ってリスポーン地点を確保することだろう。

そしてこの大量のスキルや魔法で俺Tueeeeeするのだ。


βテストよりもいろんなことが出来るはずなのだから、キャラロスは痛い。


ならこんな村放っておいて最初の街に!


「行けるわけねえだろぅが!![竜殺投槍キルドレイク]っ!!」


俺はもう一度木の枝を投げ、それが〚漆黒竜〛の腹に突き刺さる。


グルゥグォォォ!!


大体24倍だとしてもログアウト→セーブ(神殿or教会)してない→キャラロスで5年確定とか俺以外無理があるだろ!

1日=24日

15日=360日

75日=5年




…うん、やっぱおかしい!


今更だけどちょっとした浦島だよこれ!

めっちゃ浦島だよな

浦島じゃね?

浦島

浦島にしy



まあ、俺だからいいんだが…この村教会どころか神すら知られてないし!

信仰?ナニソレオイシイノ?だからな!


グルゥゥガアアァァァ‼


と、俺が考え込んでいる間あちらも警戒して様子見していたようだ。

さすがに[竜殺投槍キルドレイク]は効いているのがHPバーを見るとわかる。

奴のHPは残り3分の2、ブレスの反射はMP効率的には悪いので、[竜殺投槍キルドレイク]連打したいところだが…


グルルルルゥゥゥ…グガァァァ‼


〖また突撃してきやがるから、[竜殺投槍キルドレイク]当てておくか。〗


俺は手ごろな小枝を拾い、投げる。


[竜殺投槍キルドレイク]ッ‼」


しかし、そこで予想外の事態が起きた。

俺の[竜殺投槍キルドレイク]に当たりながら、〚漆黒竜〛は怯まずに突っ込んできたのだ。


「なぁぐふがぁっ‼」


突進を受けた俺は弾き飛ばされ、木々を薙ぎ倒し大木に衝突して止まる。


〖まさか、βテストと違って怯み無効ありの攻撃か…〗


βテストで〚漆黒竜〛を狩る際は能力上昇バフでごり押して怯みハメが最適解だったのだが…まさか修正されるとは。


〖俺のHPは…残り1割!あぶねえな!〗


だが休んでいられる程甘くもない。〚漆黒竜〛はすぐそこまで来ている。

俺は立ち上がろうとして…立ち上がれなかった。


()()()()()()()いた。



それと同時に鋭い痛みが走る。


〖このゲームには部位欠損は無いはず!だが、足は千切れて血が…っっっ!!〗


それはリアルな痛みで、とても()()()があった。


〖まさかこれは…いや、流石にありえない…だが…ッ‼〗


バサッ…バサッ…


俺が見上げると、そこには〚漆黒竜〛が嗤っていた。

あれは勝利を確信したものの笑みだ。

実際近づいた時に[竜殺投槍キルドレイク]1撃当てるのが限界だ。

…当然それで倒せるわけないが。


〚漆黒竜〛が口を開け、そこに闇が集まり始める。

それは圧縮され、周囲の空間が捻じ曲がる。


〖部位欠損は予想外だが…これしかないか〗


俺は右腕に力を込め、近くにあった石を拾う。

木に寄りかかって座り、今度は石に力を流し込む。


〖チャンスはあの攻撃を放った瞬間、そこで確実に仕留める。〗


〚漆黒竜〛の口に生成された漆黒の玉…その表面は蠢き、波打つ。

それは世界の法則すら歪め変化させる[漆玄崩廻]

βテストには存在しない、〚漆黒竜〛の切り札だった。

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