嘘だと思うだろ?マジなんだぜここ…
「飽きた」
【After Ragnarøk】からログアウトした俺はそう思っていた。
βテストでは正式サービス開始を待ち望んでいたが、まず十年以上も無駄にした。
そりゃあ数年くらいは楽しんでいた。が、魔皇と共にステータスを上げていた時に聞いてしまったのだ。
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ある日の夕方。
なんとなく部屋を出て歩いていた時に、魔皇とその側近が何かを話していた。
つい気になった俺は角に隠れて気配を消していたのだが…
「魔皇様、もうあの子はこの世界の災厄とも言える程になっていますが、それでもまだ強くするのですか?」
「災厄?まだまだ子供じゃろうて。」
「普通の子供は竜を片手で殺せませんよ!」
「しかし、ムスカリ君は強くなりたいみたいなのでな。」
「魔皇様…しかし、私にはもう彼が恐ろしいのです。」
「ふむ…確かにその気持ちは理解できるが、儂にとって彼は自分の子のようなものじゃからな…」
「…ですが、これ以上強くなる意味はあるのですか?」
「確かにな、戦い方によっては【ノワール】も倒せる程になってしもうたしのう」
この会話を聞いて、俺は落胆した。
目標としてあった【ノワール】を倒せると知ってしまい、俺はこれ以上楽しむことが無くなってしまったからだ。
俺は【After Ragnarøk】ならずっと楽しく出来ると思っていた。
だが、実際はもうこれ以上やりこむことが無くなっていたのだ。
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…始まりは確かに純粋な気持ちだったのかもしれない。
ネリネ等のNPCも普通の人間と同じように感じていた。
だが
俺は
もう、この世界に興味が無くなってしまった。
人間というのは不思議な生き物で、目に見える目標が無ければやる気が出ないことが多い。
それでもまだログアウトしなかったのは、仲間を会ったりテイマーを習得すれば昔のようなワクワク感が戻るのではないかと思っていたからだ。
それでも、ダメだった。
そして、【After Ragnarøk】がデスゲームのような何かになった時、personaの言葉を思い出した。
"元の世界と此方を繋げ。"
なんとなくだが、この言葉に従ってみようと思った。
一応妹であるβに死んでほしくなかったのもある。
なので、メールはしておいたから今頃ログアウトしているだろう。
personaが俺に渡していたスキル〚ログアウト〛
その唯一の使用用途〚ワームホール〛を俺は宿屋で使用した。
その効果は、〚触れると現実に戻るトラップの設置〛
それを使ってログアウトし、今に至る。
正直、することが無かった。
楽しいと思えることも、何も。
「其れは良くないな」
唐突に聞こえる声、だが驚きはしない。
「唯一神が何の用だ?また勧誘か?」
何処から聞こえたかもわからない声に、俺は酸素マスクを外しながら答える。
「もう勧誘の必要はない。なぜなら、この世界は一つになるからだ」
「…?」
「理解できない、といった様子だな。だが、知る必要もない。なぜなら」
そこまで言った時、俺の胸あたりが温かくなる。
「貴様はここで死に、混ざり合う世界に行くのだからな。」
俺がゆっくりと手を動かすと、胸あたりでべっとりとした感触があった。
そして、俺は何も考えられなくなっていった…
…
……
………
病院の一室、そこには一人の人間がいた。
目の前の物が死体になったのを確認すると、呟く。
「はあぁ…この喋り方つかれるわ」
その人間は、偽りだった。
「とりあえず、これでやっとHappy endに出来るな」
その人間は、喜んでいた。
「しかし、2回も転生させて、なんかすまねえな」
その人間は、哀しんでいた。
「だがまあ、こっちとあっちを混ぜちまえば気にする必要もないよな」
その人間は、楽しんでいた。
「次こそは…成功させないとな」
その人間は、怒っていた。
「そうだな、ちょっと時間戻したり死者蘇生したりしてやろ」
「別にいいよな、一応俺が唯一神ってことになってるんだし」
そして、その人間は消えた。
その世界も、消えた。
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目を開けると、知っている顔があった。
そして、俺は既視感があった。
「ほらほら、ままでちゅよー」
「ムスカリ、とうさんだぞー」
俺の顔を覗き込むようにしている2人…夫婦はそう言った。
「どうしたのムスカリ、元気がないわね?」
「俺に任せろ、ほら高い高ーい」
…俺はこの状況を知っているが少しだけおかしい。
まだぼんやりとしか見えないが、現実の両親がいる気がする。
というか顔的にそうだと思う。
いや、俺も前に見たのが相当前なので間違ってるかもしれないけどさ。
…でも、一つ言わせてほしい。
ゲームだと思うだろ?現実なんだぜここ…
次回から次章です