ツナグモノ
今、俺は真っ暗な世界にいる。
いや、帰ってきたというべきか。
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『ログアウト が追加されました』
そのメッセージに、俺たちは一瞬停止した。
「...ムスカリ...どうした...の?...」
「…っああ、そうだな、なんでも無い。」
「...?」
俺は深呼吸をして落ち着く。
「あ、アルさん!これで無事に帰れるんですわ!」
「落ち着けローズ。」
「むしろ!アルファさんはなんで落ち着いているんですか!」
「えっと…ログアウトってもともとあっただろ?」
「「「!?」」」
俺のセリフに対してスズランとミズキとルリは驚いた様子で詰め寄ってくる。
「それなら…帰れたのでは無いでしょうか?」
「いやいや、ゲーム通りだと神殿か教会いかないとキャラロスするだろ?」
「でもそれって?現実よりゲーム優先したってことじゃん?」
「ああ、そうだけど?」
「いやいやおかしいでしょ!そこまでしますか!」
「ていうか?驚かないってことはもしかして残念姫もじゃん?」
「そうですわね…って誰が残念姫ですの!」
「え、えっと…結局お二人は戻れたけれど戻らなかった…ということですか?」
そう言われても…
「だってなぁ…現実はあんまり動けないし…」
「...現実...?」
「気にするな。俺に取ってはこっちが現実みたいなもんだからな。」
「...???」
「えっと…どういうことですの?」
「気 に す る な ?(怒)」
「アッハイソウデスワネ」
…
……
………
「…ローズも行ったか」
「...ムスカリ...さっきの...人たち...どこ...いった...の?」
「〚ログアウト〛ってスキルで一時的に別の世界へ行ったんだ」
「...別の...世界...」
あの後話し合った結果俺とネリネはここに残り、他がログアウトするという結果に落ち着いた。
だが、ネリネは…なんというか動きが不自然だ。
「あんまり楽しい所じゃないけどな」
「...ムスカリは」
「?」
「...ムスカリ...は...いいの...?」
「…いいって、何がだ?」
「...行かなくて...いいの...?」
「さっきも言っただろ?俺に取ってはこっちの方が「でも」
ネリネは一度目を閉じて深呼吸をする。
そして言った。
「...待ってる...人とか...いない...の...?」
「…いないな」
「...嘘...」
「嘘じゃない」
「...嘘」
「…」
「...ムスカリ...」
「なんだ?」
「...ムスカリ...も...〚ログアウト〛...して...?」
「…そしたら、こっちにどれくらいで戻れるかわからないぞ。それに本当に戻ってこれるかもわからない。」
「...でも...ローズ...行った...よ...?」
「そりゃ理論上戻ってこれるからな。それにあいつらは俺とは違う」
「...それも...嘘...」
「それは…なんでまた嘘だと思うんだ?」
「...だって...」
「...ムスカリ...無理...すると...わかる...から」
まさか、ネリネにそれを言われるとは思わなかった。
俺は確かに少し意地を張っていたかもしれない。
だが、それはネリネを一人にしたくないからだ。
NPCとはいえ、一応こっちで10年以上も一緒にいたのだ。
…まあ、この感じだと何言っても無駄だろうけど。
「…はぁぁ…そうだな。ちょっと無理してたかもしれない。」
そう言って俺はネリネの頭を撫でる。
ネリネは気持ちよさそうにしてそれを受け入れる。
「それじゃあ、行ってくるな」
「...ん」
そして俺はログアウトし、現実へと戻った。
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VRを終了した俺は、体を起こそうとする。
だが、腕にうまく力が入らずに起き上がることすらできなかった。
相変わらず…もう何年も俺はここを動いていない。
現実の俺は"ゲームと同じで"片足、そして目を失っていた。
息を吐くと装置によって「シュコー」という音がする。
今…いや、俺は昔から病院にいた。
「目が覚めたかα」
低く重い声が俺にかけられ、口に当てていた装置が外れる。
「久しぶりだな、親父」
「現実で3年、VRでその24倍過ごして出てきた言葉が「久しぶり」とは。やはり俺の息子だな。」
俺は姿を見ることが出来ないが、現実の姿をそっくり映すVRにおいてその容姿は知っている。
俺と同じ銀髪で、不衛生な髭がある。
だが顔はそれほど悪くなく、何故か健康的な印象を醸し出していた。
体格的にもぱっと見一般人なのだが、これでもVRの生みの親である。
VR自体は研究していたのだが、完成させたのは医療的な用途が主だった。
その理由は…恥ずかしいことに俺のせいだ。
幼いころに紛争地でゴロツキに連れていかれそうだった少女…のちにβという名前で義妹となったのだが、その少女を助ける際うっかりグレネードに当たったのだ。
そもそも紛争地に行く時点で変かもしれないが、俺が社会勉強として行きたいと言ったのだ。
それから俺に対してまずは脳にICチップを埋め込んでVR空間で盲目車椅子の生活に慣れ、現実でも少しくらいは移動できるようになった。
まあ他の患者にしてみれば目を包帯で隠した片足しかない車椅子の少年が病院内を動き回るのは恐ろしかっただろう。
それに気づいた俺はほとんど部屋を出なくなった。
それが3年前…それから俺はずっと様々なVRゲームをしていた。
βとも合わなくなったし、今ではちょっとした浦島気分だ。
「親父、今ちょっと部屋出ても大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。今車椅子を準備する」
そして左斜め前3メートル先で車椅子を動かす音が聞こえ、俺の体が宙に浮く。
「本当にお前は軽いな。…寝ていることしかさせてやれないからな。」
「VRではこれでもしっかりしてるんだぜ?体も心もな。」
「そうか…【After Ragnarøk】は確かβテストが終わったんだったな」
「ああ、そんでやっと正式リリースかとおもったんだが…」
転生とか言ってもわけわからねえよなぁ…
「そうだな、まさか"緊急メンテナンスで結局今日中は出来ない"らしいな。楽しみだっただろうが…明日からは出来るだろう。」
…緊急メンテナンス?なんだそれは。
それについて聞こうかと思ったが、俺の体が車椅子に収まると共に親父が離れていく音がする。
「じゃあ久しぶりにβ呼んでくるから、少し待っててくれ。」
そう言って俺の病室を出て行った。
さて、暇だ。
まあ別に暇でもいいんだけどな。どちらにしろ【After Ragnarøk】は出来ないらしいし。
「気を効かせてやったのだ、感謝してほしいくらいなのだがな。」
その言葉は少なくとも俺の耳ではどこから聞こえてきたかわからなかった。
だが、それが誰の声かはわかる。
「persona…っ!?」
「ふむ、声だけで誰かわかるというのは優秀だな。だが同時に勿体ないとも思えるが。」
「…何しに来たんだ?」
「まあそう敵意をむき出しにするものではない。長生きの秘訣は平常心であるからな。」
「…お前は何者なんだ?」
「神…などと言えば納得するのか?」
「無理だな。神は存在しない。非科学的だ。」
「存在はするが…まあいい。神ではないからな。」
「なら一体何なんだ?」
「そうだな…あえて言うなら」
そこで一度間を開け、言い放つ。
「"繋ぐ者"…だろうな。」
この時代においてはαという名前は変ではありません。
この時代は苗字が無く、名前は自由度が増しています。
その背景は岸 騎士竜王や、佐藤 男殿などのキラキラネームが社会において悪影響を及ぼすので政治家が「いっそ苗字無くせばいいんじゃね?」と発案するとまさかの全員一致で公布。
ちなみにその時代の政治家は半分以上が鈴木 竜騎士を筆頭とした超☆キラキラ☆ネームでした。
_ _ _裏設定より