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理想の彼氏を作成中

 誰だって理想の異性が欲しいと思う事はあるだろう。

 もしもこんな風だったらいいのに、という願い。

 ある者は創作物にそれを求め、そしてある者はひと時の夢のためにお金を支払うのだろう。

 男には男の、女には女の理想となる異性が存在する。

 それを、同性から見るとどのように見えるのかは別として、一度くらいは誰でも考えたことはあるのではないだろうか?

 理想の異性の存在を。

 そしてこれは、理想の異性がいないのであれば作ればいいじゃないという、無茶な理由から付き合い始めたとある男女のお話である。


 ああもう、苛立つ。

 すごく苛立つ。

 嫌い、嫌い、大嫌い。

 風早姫花は心の中で激しくあの不愉快な存在について毒づいた。

 つややかな黒い黒髪に白い肌、人形の様だとよく言われるが、そんな見た目に生まれてきたのは姫花の責任ではない。

 この用紙が男性には魅力的に見えるようだし、学年でいい地位という成績の良さも男には、自分は優れた女を連れているという自慢になるようだ。

 くだらない男のプライドに翻弄されてしまった自分が、今はなにより姫花自身が許せない。

 何故、あんな男に時間を使ってしまったのか。

 その後悔が姫花の中で幾度となく反芻され、それに対しての怒りがこみあげてくる。

 ちなみにどうして今これほどまでに姫花が怒りに震えているのかというと、つい先ほど、新しい彼氏を振った所だったからだ。

 いつも見慣れたリノリウムの廊下、そしてロッカーが並ぶそこを大股に歩きながら姫花は小さく一言呟いた。

「もう少しまともなのがいないかしら」

 その一言に集約されるような先ほどの出来事。

 姫花は彼氏を振って、現在歩いている最中だった。

 不愉快極まりないあの出来事を思い出しながら、ようやくゆっくりと歩きながら姫花は廊下を進み始める。

 初めはぎょっとしたようにこの学校の生徒たちが歩いているのに気付くも、怒りでいっぱいだった姫花は取り繕う気力すらなかったのだけれど、今はどうにか無表情にはなれているはずだ。

「何が、見かけが好みだったから付き合っているだけ、よ。二股かけやがって」

 先ほど屋上でその元彼氏とデートをしている時に、ばったりと会ってしまったのだ。

 そう、先ほど振った彼氏の彼女に。

 姫花と違って可愛らしい雰囲気の少女だった。

 クラスも部活も何もかもが別だったので名前は知らないし、そんな少女がいたことすらも姫花は知らない。

 でもそのあたりの話はどうでもいい。

 問題なのはその後。

 その時の元彼氏の、その可愛らしい彼女への言い訳は……姫花を傷つけた。

 それこそ、二股かけた別の彼女と一緒に、その彼氏に二人ががりで頬を平手打ちする程度に。

 頬に赤い手形があるままその男は授業に出るのか、そのまま保健室に転がり込むのかは知らないが、嘲笑の対象になればいいと思う。

 しかし、とそこで姫花は呟いた。

「変な男を今回も引っ掛かったわ」

 確かに、姫花も面食いだが、こうも碌な彼氏が見つからないと、やり方を変えねばならない。

 だがこれ以上探して、うまく姫花は自分の好ましいと思えるような理想の男子を手に入れられるのだろうか?

 物語のような恋を望んでいるわけではないと、姫花は自分自身のことについて思う。

 けれど好ましいとか理想と言える部分が一つでもないならば、その男性と恋人になる必要があるのだろうかとも思う。

 もっとも良い所があったとしても先ほどの男のような二股をかけて、見苦しい言い訳をするような男には用はないが。

 だが、次はあんな思いをしたくはない。

 ではどうしようと姫花は考える。そして。

「いい事を思いついたわ」

 そこで、姫花はあることを思いついて、にやりと笑ったのだった。


 和田野悠は、いつものように数少ない友人である鈴木直樹と一緒に屋上でお昼の焼きソバパンを食べていた。

 本当は、いつもは母がお弁当を作ってくれていたのだけれど、今日は風邪で寝込んでしまったのだ。

 帰りに常備していた風邪薬がなくなってしまったので一つ購入してこないと行けないと悠は考えていた。

 というわけで本日の昼食は、炭水化物と炭水化物の抗いきれない魅力が力を合わせて魅力を放つ焼きそばパンと、パック詰めのコーヒー牛乳だ。

 授業が終わって、急いで席を立ち売店に買いに行ったかいがあって、今日は気に入ったものが手に入れることが出来たのだ。

 ちなみに一緒に食べている友人である鈴木直樹もまた同じコーヒー牛乳だけを購入していた。

 そんな二人はいつものように片手にコーヒー牛乳を飲みながら、適当な話を振る。

「それで、あの、隣の女子校の彼女はどうなったんだ?」

 そう悠は聞くと、直樹が得意げに笑った。

 こ、この余裕、まさか……と悠が旋律を覚えていると、直樹が胸を張った。

「ふふふ、昨日キスをしました!」

 衝撃の告白。

 まさか、キスだと?

 手をつなぐではなく、キス。

 そこまでこの友人は自分の前を進んでいたのかと悠は衝撃を受ける。

 だが、と悠はすぐに気づいた。

 彼が本当のことを言っているとは限らない。

 このお年頃は複雑で、つい、大げさに言ってしまいがちなのだ。

 だからそうに違いないとひがむように悠は思いながら問いかける。

「なんだと……嘘だろ? というか許さん!」

 最後の方が悠の本音だった。

 だがその嫉妬の言葉すらも、直樹は優越感しか感じなかったらしい。

 機嫌よさそうにコーヒー牛乳を一口吸って飲み干してから、ドヤ顔で直樹は言う。

「もてる男は辛いね~」

「……ついこの前まで、俺と同じ彼女がいない非モテ男だったというのに……」

 呻くように悠は呟くしかない。

 陰キャラになっていないかなどと気にしつつも、アニメやゲーム、漫画の話やら、どの漫画がエロかったかなどを気兼ねなく話しながら、男女で手をつないで帰っていくその姿を目撃して、彼女が欲しいよなと話していた仲だった。

 そしてその彼女はどんな子がいいのか、といった話になり、髪の長い子がいいとか、可愛い子とか、優しい子、といった話をしていたら好きな漫画のキャラの話にすり替わっていたはずなのだ。

 つまり、僕の嫁は二次元であったはずなのだ。

 なのに、スマホの画面から理想の嫁が出てきたがごとく、彼女という存在自体が未確認生物である存在を手に入れ、この直樹は悠よりも何歩も前へと進んでいたのである。

 果たして、このような差をつけられて僕は挽回できるのだろうかと悠は不安を覚えていた。

 そこで、自分の立ち位置での余裕からだろう、直樹が悠に向かってこんな助言をした。

「運命は何処に転がっているか分らないものさ。というか親切はするものだな……」

「確か、雨が降っているときに傘を貸してあげたんだっけか」

「たまたま折り畳みの傘を持っていたからさ、貸してあげたんだ、彼女に。それで付き合い始めて、彼女……大人しいし優しいし、可愛いし、というかどんどん可愛くなってくるし、この前貰ったクッキー美味しかったな……」

 そんな幸せそうな直樹に、悠は羨ましすぎて切ない思いがよぎる。

 悠だって彼女が欲しい。

 二次元に嫁がいるといってもそれは現実の彼女とは違う。

 けれどどう作ればいいのかわからないのだ。

 女の子に話しかけるだけで緊張するし、自分自身が地味な自覚もある。

 内向的なので、友人もこの直樹しかいない。

 もっとリア充で、体育会系の部活に入れば自分は変われるような気もするが、興味があるものの部活に入りたいがためにそちらは選択できない。

 それこそどこからともなく美少女が降ってきて、不思議な冒険でも始まったり特別な力に目覚めたらな~、とは思う。

 あり得ないとは分かっているが。

 そんな風に悠が悩んでいると、

「でも、クッキーは直樹が作ったのも上手かったな。男の手作りクッキーか……」

「ああ、妹にバレンタインデーのチョコのお返しに、クッキー作れとせがまれて作ったやつな。あまったから一緒に食べたんだよな。だが不満ならばもう持ってこないぞ」

「え? いや、そういうわけではないです。おいしかったので機会があればぜひ」

「素直でよろしい。でも女の子、甘い物が好きだからプレゼントすれば喜ぶんじゃね?」

「誰に?」

 そう、悠が返す。

 実際に誰に渡すのだ。

 性別女性で言うなら最近あまり相手にしてくれなくなった気がする妹と母、あと夏休みに実家に言った時に会ったおばあちゃんだろうか?

 確かに全員喜んでくれる気がする。

 などと悠が考えていると、直樹はふっと優しげな表情になった。

「……悪かった。所で、今年のバレンタインのチョコは悠は幾つだ? 俺は、今年は彼女からも貰えて、二個だ」

「奇遇だな。僕も二個だ」

 そう悠が答えた瞬間、カッと何かを悟ったように直樹が大きく目を見開いた。

 ああ、勘違いしているなと悠が思っているとそこで直樹が楽しそうに、身を乗り出すようにして笑いながら話しかけてきた。

「実は悠にも彼女が!」

「期待をさせて悪いが……母と妹」

 その言葉に、直樹は、身を乗り出す姿勢からいつものように座る。

 そして分かっているよというかのように数回頷いてから悠をフォローした。 

「……大丈夫だ。きっと悠にはそのうち素敵な彼女ができるって」

「そうだよな」

 そう希望的観測を口に出しつつ、悠は、僕の青春は何処にあるんだろうと心の中で深々と嘆く。

 下を向いていると悲しい気持ちになりそうだったので悠は空を仰いだ。

 空は晴れていて何処までも青くて、きっとその空の下には悠の未来の恋人が歩いていると思いたい。

 そう思いつつも行動を起こすだけの勇気がまだない悠は、ぽつりとつぶやいた。

「どうせなら、彼女にして下さいって言って来る可愛い女の子が来ないかな……」

「そんな存在、いるわけないだろう。夢を見るな。それよりも気になる子とかいないのか?」

 直樹に正論を言われて、けれどこういった時の正論ほど苛立つものはないと思いながらも悠は、素直に気になる女の子を答えた。

「隣のクラスの、姫花ちゃんかな……」

「……止めておけ。あの女は苦労する」

 そんなことを言い出した友人の直樹に悠は、何か悪い噂でも知っているのかと聞こうと思うも、すぐに理由に気づいた。

「可愛いし活動的だし……僕には高嶺の花だよな」

 と、悠が呟いた瞬間、屋上の扉が大きな音を立てて開かれた。

「……見つけたわ! 和田野悠!」

 現れたのは、先ほど悠がいいな、と言っていた風早姫花だった。


 突如現れた憧れの女の子は、悠の目の前にやってきたかと思うと、悠の前にやってきた。

 突然の出来事に悠は焦る。

「な、何するんですか!」

 そう非難の声を上げる悠に、姫花は冷たく睨む。

 嫌がっているのではなく混乱しているだけねと、瞬時に表情から読み取った姫花は一言告げた。

「言うことを聞け」

「……はい」

 悠は素直に頷いてしまう。

 別にマゾ的な嗜好があるというわけではなく、機嫌の悪い人間に言い返しても、こちらも怒鳴り返すしかないと知っているからだ。

 ただ、どんなに憧れの人間であっても、目の前にこのように表れるとしり込みしてしまうと悠は思う。

 つまり、凄みのある姫花に、百年の恋から冷めたような感覚に陥いっていた。

 悠はどうしてこうなったと思う。

 確かにお昼休みというささやかな時間を、屋上で日の光の中で堪能していたのはいい。

 友人の直樹に彼女が出来てキスまで進んだという、うらやまけしからん話がされて、他に何を話したのか今はよく思い出せない。

 そこへ、酷く怒った鬼のような形相の姫花が登場したのだ。

 いつもの可愛い高嶺の花ではない彼女の様子よりも、怒りの形相に目が行ってしまう悠。

 そんな悠の前に彼女は仁王立ちになってこう言ったのだ。

「貴方、ちょっと来て」

「え? でもご飯……」

「問答無用!」

「うわああああああ」

 スカートの内側から取り出した縄。

 一瞬何かが見えるんじゃないかと期待してしまった悠は、気がつくと投げ縄でぐるぐるまきにされた。

 あまりの器用さに悠はその才能に感服するといった、現実逃避をする。

 けれど夢の中に逃げたくても現実は待ってくれないので、悠は思い切って聞いてみた。

「あの、これは……うぎゃあ」

 そのまま無言で、悠は姫花にひきづられて、屋上を後にする。

 残された直樹はしばしどうしようかと迷ってから、

「……事が終わってから見に行くか」

 と、自分が巻き込まれないようにそう呟いて、コーヒー牛乳をすすったのだった。


 人気のある、教室に連れ込まれて悠。

 人の目があるところに連れてこられたので、多分そこまでひどいことにはならないだろうと悠は楽観的な推測をして、凍り付いていた。

 そうでもしないとこの、今までに経験したことのない状況で不安で仕方がなかったからだ。

 その教室の人達は、一体何が始まるんだろうという興味津々に悠のことを見ているが、それ以上は何もする気がないらしい。

 人間いざというときは意外に薄情なものだと悠は身をもって経験していると、そこで悠の目の前に姫花がやってきた。

 そしてある宣言をされてた。

「私の彼氏になりなさい!」

「は?」

「私、分ったの。私好みの彼氏が、全然いない事に!」

「は、はあ」

 間の抜けた返事をする悠。

 実際それくらいしか出来ない。

 だって悠は、いまだ何が起こっているのかわからないのだから。

 そんな悠に姫花は、大きく頷く。

「だから私は、貴方を理想の彼氏にする事に決めたわ!」

「は? え? 何で」

「観察した限り性格が好みだから!」

「あの……何時から僕を観察していたのでしょうか」

 そんな前から見られていたとは思わず、悠はどきどきしていると、

「入学当時から。その時からこの学校の彼氏候補リストを作り上げておいたのよ」

 どうやらそのリストの中に、幸運にも悠の名前があったらしい。

 それを聞きながら悠はその言葉に少し期待を持って聞いた。

「そんな頃から……でも、理想の彼氏?」

「そう。だから性格で今度は選んで、私の好みにする事に決めたの!」

「は、はあ。それで俺は姫花さんの彼氏になるのでしょうか」

「なって欲しい。返事は?」

「はい!」

 予想外の展開だがこれで彼女が出来るのならそれはそれでいい。

 と、いうわけで姫花と悠は打算的な恋人関係へとなったのだった。


 とりあえずはこれから授業になるという事で、縄を解いてもらって悠は教室に戻ってきた。

 そして何が起きたのかといった野次馬根性丸出しの直樹が、楽しそうに待っていたので自慢もかねて、何があったのかを悠は話す。

 事の次第を聞いた悠の友達である直樹は口を大きく開いた。

「なんだよそれ」

「いやでもまあ、こういった出会いもあるかなと」

「……悠がそれで良いなら問題ないだろうが、うーん」

 そんな風に直樹は悩むも、これからの事を考えると、悠は少しは楽しみだった。


 所変わって悠の教室から少し離れた廊下にて。

「まったく、いきなり元彼が新しい彼氏をぼこぼこにしようとするとは思わなかったわ」

 事前に、姫花はその情報を得て、この二股男を闇討ちしたのだ。

 そして痛い目にあいたくなかったら二度と私に関わらない事ねと、囁いておいた。

 これで大丈夫。

「さてと。これからまたひと頑張りだわ」

 そう姫花は背伸びをしたのだった。


 こうして、その日は風邪薬を近くの薬局で購入してから、悠は自分の母親に彼女が出来たかもと報告した。

「悠に彼女が!」

 飛び起きた母だがすぐに倒れたので、悠はおかゆを作って食事をしてもらい、風邪薬を飲みように渡した。

 ほかにも、悠は本日の夕食を一通り作る。

 と言っても簡単なもので、茄子のみそ炒めやら何やらだ。

 そして妹が帰ってきてから食事を食べて、そしてそのあといくらか体調がよくなった母に再び悠は会いに行くと、こういわれた。

「明日はお弁当作るからね」

「え、えっと、明日は彼女のお弁当をお昼に食べるから、いらないんだ」

「……お弁当まで作ってくれる彼女……いつの間にそんな子が」

 衝撃を受けた母親に悠は、でも明日だけだからと答える。

 現に明日しか約束をしていないからだ。

 それにそのお弁当が一体どんなものなのか、未知数なのだから。

 よく物語に出てくる“メシマズ”のようなものが現実にあったらどうしようかと、悠の脳裏によぎる。

 けれどもしそうならば、物語の男性主人公のようにそれを食べるべきだろう。

 だって彼女が頑張って作ってくれたのだから。

 そう悠は考えるもやはり不安は残っている。

 だからもしもの時のために悠は、家にある薬箱の中から一袋ほど、胃腸薬を取り出して学校カバンの中にしまったのだった。


 次の日、姫花が持ってきたお弁当を目の前にして、悠は動けずにいた。

 やはり美少女である姫花は彼女になってくれたのは魅力的だが、お弁当という道に触れるのには悠には抵抗があった。

 真剣にしばらく睨みつけているとそこで悠は姫花に言われた。

「なにをしているの? せっかくの私のお弁当、そんなに気に入らないの? それとも私に食べさせてほしいの?」

 そういわれて悠はそれもいいかなと思ってしまったがすぐに首を振る。

 実は今回のお弁当、理想の彼氏を体験したいがために、その理想の彼氏と死体行動をとってみようといった話になったからだ。

 まずはお弁当を作ってみたい、それでどんな反応をするか見ると姫花が言っていたのだ。

 だが付き合って日が浅いのでそこまで行くのはどうかと悠は考えていたので、素直に思っていた事を口にした。

「いえ、もしもこういったお弁当が、黒く焦げた物体で埋め尽くされていたらと不安に思ったのです」

「それはさすがに物語の読みすぎよ。料理本を読んでもいいし、ネット料理サイトを見てもいいし、それを見て普通に作っていけば普通のものが大抵は出来るわ。甘すぎるのが苦手なら減らしたりといった調整は必要だけれどね」

 普通の答えに悠は安堵しながらお弁当を開く。

 そこには野菜やお漬物などと一緒に、から揚げなどが入っている。

 ご飯も穀物の入った健康志向のものだった。

 見かけは100点以上だが、味はどうなのだろうと、まずはから揚げを恐る恐る食べてみると、口いっぱいにから揚げのうまみが広がった。

「美味しい。姫花……さんは料理が上手いんですね」

「名前の呼び捨てでいいわ。彼氏なんだし。でも……その反応は普通で好みだわ」

 普通で好みと言われた悠は、どう反応すべきだろうと少し悩むも、姫花が喜んでいるならそれでいいかと思い直したのだった。


 こうして悠は、姫花が体験したい彼氏との行動に付き合う。

 映画館に行ったり、クッキーももらったり、反対に何か欲しいわというので母に教わりケーキを焼くこともあった。

 ほかにもアクセサリーを悠がプレゼントしたりして、悠は姫花が可愛いような本当の彼女のような、好きだなと変な気持ちになってきていた。

 そうしていたある日、ある人物が現れたのだった。


 校舎裏に呼び出されるという前時代的な体験を悠はさせられていた。

 そこにいたのは何でも姫花の元彼氏らしい。

「なんでお前のような地味な奴が!」

 そういって殴られそうになったので、避けたり、殴られたのでそのまま地面に倒して暴れないように悠は押さえつけていると、姫花が焦ったようにやってきた。

「悠、大丈夫?」

「うん、でもどうして僕に襲い掛かってきたんだろう?」

「こいつ二股かけていたから私ともう一人の彼女で、一緒に振ったのよ。……悠が私の彼氏になっているから気に入らないのね」

「でもなんで突然こんな」

「……昨日友達にその……悠が本当に好きになっちゃったって話したのを聞かれて」

 その話を聞いて悠は、それ以上何も言えなくなってしまう。

 しかも元彼氏が暴れているのを見て姫花が告げた。

「今度私の“悠”に手を出したら、授業で技をかける相手になってもらうからね」

 その一言で顔を青くした元彼氏は大人しくなり、悠が話すと逃げていった。

 それから姫花が、私が好きになって話しちゃったねと悠に言う。

 だから悠は、こう答えた。

「僕も姫花が好きです」

 その答えは姫花もうれしかったらしく、悠に抱きつく。

 この日から、理想の彼氏を作る計画は、お互いに大切な恋人といったものに変化したのでした。

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