起動
それから、私とクラトスおじさんは機械人形の開発を続けた。
高濃度のお酒を燃焼して稼働するエンジンを開発し、その動力によって稼働する各部の機構を、歯車やバネを組み合わせて稼働させる機構を設計した。さながら動く機械時計だ。
搭載される人工知能は、クラトスおじさんの実験室にあった大規模演算装置によって様々な語彙や文法、一般常識などを学習させて作成した。それらの情報は、数十枚からなる円盤に刻み込まれ、その円盤は人形の胴体に組み込まれた。なお、人形自身が学習できるように平らな数十枚の円盤も搭載されている。
試作機が何台も作成された。そして何度も失敗した。
そんな過程を経て、私が作り上げた機械人形に、クラトスおじさんの作り上げた人工知能を埋め込んだものが出来上がった。黒髪の綺麗な少女の人形。
「いよいよだな」
「そうですね」
機械人形には既に燃料の高濃度のお酒がタンクに入っており、あとは起動させるだけだ。
「エフィア、起動してみなさい」
「わかりました」
私は、機械人形の背中にある穴にねじ巻きを差し入れ、ねじを巻く。ある程度ねじを巻いたら椅子に座らせた。
人形の身体に耳をあてると、中からカタカタと小さな機械音が聞こえる。
身体が熱を持ち始めたところで、人形に声をかける。
「起動」
私が声をかけると、人形は瞳を開ける。次いで、私は質問した。
「私が見える?」
「はい」
こちらを向き、鈴がなるような澄んだ声で人形は答えた。次にマスター登録を済ませる。
「識別名登録、リフィー。マスター登録、エフィア」
「私の識別名をリフィー。私のマスターをエフィアと認識しました」
私は、喜びながらクラトスおじさんに話す。
「おじさん。起動しました!すごいです!」
「よかったな。それじゃ、次は身体のチェックをしてみろ。」
機械人形、もといリフィーのチェックを一通りすることにした。
「リフィー立ち上がってみて」
リフィーは椅子から立ち上がろうとして、倒れた。
その後、何度も立ち上がろうとしては倒れることを繰り返した。
「おじさん・・・。これ、大丈夫なんでしょうか」
「大丈夫だ。今学習している最中だから、学習が終わるまでお茶でもしようか」
ひたすら立ち上がろうとするリフィーを後にして、二人で休むことにした。
その後、歩きや物を持たせることなど、様々な動作を覚えこませた。
「なかなか覚えさせるのが大変ですね」
「まあ、仕方ないだろう。頑張ることだ」
「手伝ってくださいよ」
「リフィーのマスターは君だろう。頑張りなさい」
「むむむ・・・」」
そんなこんなで、それから動作をリフィーの覚えさせる日々が続いた。
その間に基本動作から、戦闘動作など同じ村の人に協力してもらいながら学習させていった。知識に関しては、クラトスおじさんが可能な限り学習させていたので、知識学習をさせる必要はなかった。
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「おはようございます。マスター」
「おはよう。リフィー」
リフィーを起動させてから半年。会話や動作が自然になっていた。
「朝食ができていますよ」
「ありがと」
私はベッドの中から出て、着替え始める。リフィーが既に着るものを用意してくれていたのでそれを着る。今では起動当時が嘘のように、料理、洗濯、掃除など家事の全てできるようになっていた。今では私よりも全てにおいて私よりレベルが高くなっていた。なんだかなー。
「おはよう、エフィア」
「おはようございます、おじさん」
私とおじさんはリフィーの作った朝食を最近は毎日摂っている。
「ダメになりそうだな」
「そうですね。リフィーは優秀すぎますね。というか、リフィーの人工知能を作ったのはおじさんじゃないですか」
「まあ、そうなんだがな。予想よりも良く動作しているのでな」
「そうなんですか。でも、いいことですよね」
「そうだな」
私とおじさんは他愛のない話の中で、私のこれからのことになった。
「これからどうするんだ、リフィーは?」
「旅をしてみようと思います。リフィーもいますし」
「そうか・・・。寂しくなるな」
「また帰ってきますよ」
そんなやりとりから数週間で私は旅に出ることになった。
「行ってきます。クラトスおじさん」
「いってらっしゃい」
これからのことに思いを馳せながら、私は新しい地に向けて歩きだした。