小さな大魔法使い
高名な魔法使いが生まれ故郷へやってきました。
ある大魔法使いが街へやってきて言いました。
「ワシは偉大なる魔法使いだ。本来なら姿を見ることすらかなわぬ大魔法使いだぞ。」
その魔法使いはこの街の出身で、街にいる頃から誰よりも秀でた才能を持つ者でした。
「大魔法使いというのは、ふつうの人間では話もできないぐらい偉大なのだ。その大魔法使いだぞ。」
街の者達は、そんな大人物を見たこともありませんでした。
「ワシの造った塔は雲をも貫き、ワシの造った迷宮は山ひとつを巡っている。」
魔法使いの話は面白くもないものばかりでしたが、有名な魔法使いを一目見ようという人が後から後からやってきました。
「ワシには弟子が何人も居るが、どの弟子も優秀で、誰をとってもここにいる人間とは比べ物にならない。」
街の人達は納得しました。これほど有名な魔法使いの弟子なのだから、一般の人間と同じであるはずがありません。さぞかし優れた人物達なのだろうと。
「この街は人間をだめにする。このような街にいつまでも居続けると、人間が腐ってしまうぞ。」
これには集まってきた人達も色めきだちました。
「弟子の中にはこの街の人間も居る。そいつはワシの元にこられて運が良い。こんな所にいてはせっかくの才能も開花できないだろう。」
ざわめきが一瞬ぴたりとやみました。それにも気付かず、大魔法使いは言葉を続けました。
「あ奴も頑張ればワシぐらいの大魔術師と肩を並べる事ができるようになれる。しかし、この街にいたのでは今ほどの力も得られなかったに違いない。」
集まった人達の間にざわめきが広がりました。
「だまれ、三流幻術使いが!」
声を発したのは街の有力者でした。彼は魔法使いが出て行った後に街へ来た人物です。
「俺はいくつもの街や村を回ったが、お前の名前など聞いたこともないぞ。」
別の人間も声をあげました。
この時、街の人達は気付きました。確かにこの魔法使いは、街に居る時は知らぬ者のいないほど優れた技を持っていましたが、他の街でまで有名なのか?魔法使いの言葉は真実なのか?
人垣は徐々に引いていき、ついには誰も居なくなってしまいました。
これは、この魔法使いの傲慢さが生んだ結果でしょうか?それとも、街の人達の物見高さのせいなのでしょうか?
魔法使いは舌うちしてこの街を出ていきました。以後、彼がこの街に姿をあらわすこともないでしょう。
必要以上に大きく見せたがる人って居ますよね。