購買部の日常
学生にはある程度の規律は必要である。
しかし、
それ以上にヤンチャも必要である。
「遅刻!遅刻!」
「そんな冗談言っていないで早く走れ!」
走るたびにすれ違う者たちは、驚き、また一部の生徒はもう慣れたといった顔をして道を譲っている。先生も特に注意することはなく。それは日常的な光景と化していた。
「だから英語の五反田は嫌いなんだよ!何であそこでさ、鐘がなっているのにも関わらず、なぜに先に進もうとするの?意味わかんない!」
「それだから、教頭になれなかったんだろ!」
「ほんとこれだからバーコードは!」
「T路地だ!注意しろ!」
わかっている。
そう言った相方は、その路地を比較的スムーズに曲がり、さらに人がいないと親指を立てる行為で俺に伝た。俺も例に倣って曲がる。
「大体!あいつが代わりに怒られるんだったらわかるんだけどさ。怒られるのは僕たちなんだよ!それなのに!!」
「めんどくさいよな!」
「ほんとそれだよ!」
四時間目の授業が終わり、ある特定の場所に行こうとしているのか、すれ違う生徒と先生の人数は多くなっていた。
「そろそろ速度緩めろ!」
「りょうかい!」
足をフルに活用し、質量と筋肉で作られた速度を急に落とす。そして・・・
「遅いぞ!二年!早くしろ!」
わめく飢えた狼であるお客様。
そのわめき声をどうにか抑えようと笑顔を作り、急いで支度をする。
「すいません!今開けます!」
「もう少しお待ちください!」
そこは、学校の購買部というところであった。
第一部
購買部には裏がある。
「これと焼きそばパン!」
「おにぎりは温めますか!」
「お客様!おひとり様四つまでとなっております!どうかご了承ください!」
「エビチリパンは!」
「売り切れですのでご了承ください!」
食材を求め、飢えた生徒がここ桜高校の購買部に犇めき合う。
大量に集まる人間は人混みと呼ばれるようにゴミ認定されるが、大切なお客様であるこの方々をゴミ認定することはあまり好ましくはないだろう。
大漁にストックされたパンや弁当。おにぎりなどがどんどん売られていく。
ちなみに、今日の百円均一は餡子ぎっしりアンパンとこだわりのカレーパン。(近所のパン屋製)お得ですよとか言っている暇は…。
「弁当!」
「予約制だって昨日も言ったぞ!一年!!」
忙しさに負けてキレ気味なのは許してほしい。
「チャーシュー握りもうないの!」
「こっちは完売です!!」
三箱あったパン類はすべて完売。
おにぎりもあと二つを残してというところで…
「チミタチ~。ごめんね~。」
そう言って一人の男性が最後の握り飯をかっさらう。
「岬先生!並んでください!」
「それ俺が取ろうと!」
「僕は先生だからいいのです!職権乱用っていい響きだよね!」
はい。和樹君。
と会計を迫られる。
「お会計で五百二十円です。」
「なんか高いけど?」
「先生には、税とは別に職権乱用料をいただくので。」
「しょうがないですよね。職権乱用には犠牲がつきものだ。」
「別につきものじゃないけど。はいこれ、お釣りはちゃんと寄こしてね。」
「四百八十円のお返しです。完売しました!」
その声とともに、集まった生徒が散りじりと消えていく。その顔にあったのは、がっくりといった表情と、してやったりといった王者の表情。
「やっと終わったね。」
「というかこれからだろ。売上集計やるぞ。」
「了解!」
さて。ここからが、本当の商業的な活動だ。
桜高校は、ここ等辺で有名な高校である。
しかし、何かの部活が強いとか。ものすごい頭がいい進学校とかそういうものでは決してない。というより、どちらかといえば就職活動に力を入れているわけだし、何が有名かといえばここ等辺で珍しい。工業と商業が合併した高校であるという事だ。
まあ。それも全国的に見れば珍しい事ではないのだろうが、ここ等辺では珍しい事であり、それが誇りとは言えないがステータスではあった。
全校生徒は、約六百。
少子高齢化の今。この数はここ等辺では多い方でこれもまたステータスであった。
しかし、とくに有名なのが…
「一年前の淡い期待がよみがえるよ。あの頃の自分に言ってやりたいね。ここは地獄だって。」
「部長。いや…元か。頑張れっていった意味がしみじみと分かるな。凛空。」
「かっきー。もうダメ。僕疲れた。これやって。」
「副部長。頑張れ。」
「部長さーん。僕は商業系ではないんだ。だからこんな数字の羅列を並べても分からない!」
「商業科が何言ってんだ。」
「僕の簿記のテスト見たでしょ。」
「足し算だけだろ。」
「掛け算もあるよ!」
この購買部である。
もともと作られた目的というか理由というのが、販売を通じて、商業的技能を向上させることで通っている。つまり、売る仕事というか活動をすれば部費が下り活動ができるのだ。
それのありがたさをしみじみ感じて活動できるほど、愛着はないが、活動をしなければこの場所を維持することができない。それに…
「裏の方は、今日は誰が来てくれるの?」
「阿島林さんと塚っち。」
「林塚か。重いんじゃあないの?」
「だからサポートするんだろうが。妹の世話は今日は出来ないぞ?」
「しょうがないね。妹よりも、かわいくない後輩の世話をしなきゃならないなんて。世の中理不尽だ。」
「ほい。パンの記載は終了。あとお前だけだぞ?」
そう言って、大々的にパンと書かれた帳簿を机の上にあげる。
その上に重ねるようにして凛空が帳簿を投げる。
「こっちも弁当が今終わった。あとおにぎりだけど、あれどうする?」
「職権乱用料か?裏に回せ。」
「校長に怒られるよ?ただでさえ。最近は売り上げすぎているのに。」
「別にいいだろう。先生からの寄付金だとでも言っていれば。」
「まあ。あの校長が怒るわけないか。」
「ああ。生徒に甘い校長だからな。」
「あっ!」
思い出したように、凛空が声をあげた。」
「自分の分のパン!買っていない!」
「何やってんだ。」
「かっしー。」
「分かったよ。俺のを分けてやる。そのかわり、ちゃんと放課後来いよ。」
「おーけー!ありがとう!」
「まったく。」
昼休みのための弁当は教室にある。
放課後
そこから俺たちの活動が始まる。
外からは部活動をする生徒たち、それを指導する指導者たちの声で満ち溢れている。
購買部には、シャッターが閉まっている。
だから、そのシャッターを上げる事から始まる。
もちろん。そこには、パンや弁当などはもうない。
席に着き、後輩が来るを待っていると元気な女の子と物静かな男の子が来た。
それに続き、友人である凛空も到着する。
そして…
「あの…」
一人の少女が。
「ようこそ。裏購買部へ。」
比較的大きな声で聞こえるように。
さあ!何をお探しですか!