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賢者は書物を携える  作者: 安井隆弘
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04賢者は逃げ出すついでに持ち去っていた

04賢者は逃げ出すついでに持ち去っていた


夕日が差し込む中、執務室から逃げ出した私は本格的に姿を消す前に、レセリア王国の王城の中にある禁書庫に移動した。


ああ、すっきりした。あんな場所に2年もいたのかと思うと、逃げ出す決心をした自分を褒めてやりたい。


国王なんてハゲてしまえばいいのに。そして、王冠よりも光輝けばいいのに。


もしその姿を見ることができたら、私はそれだけでいささか気が楽になるかもしれない。


まあ、二度と見ることはないと思うけど。


とりあえず、


「あー、重かった」


本の由紀を近くの机に置いて、


「んーーーっ!」


思いっきり体を反らして、


「いっちに、さんし」


ラジオ体操をして、


「さてと、どの本を持って行こうかな?」


賢者こと私がやっているのは禁書の選定である。


「・・・・・・なあ、玲奈? 仕事が嫌で逃げ出したんじゃないのか?」


由紀が話しかけてきたので、とりあえず、危険そうな禁書を選びながら会話でも楽しもう。


「そうなんだけどね? 女性二人の旅はとっても危険だと思うの」


「・・・いや、女一人と本だからな?」


「さっさと人間に戻りなさいよ」


「なんで?」


「賢者の特徴はでかい本を持ち歩く女性なのよ?」


「それもそうか・・・。よし、『ディスペル』!」


机の上の本 ー由紀ー が解除魔法をつかうと、本が光を放ち始め


「お、この姿久しぶりだなぁ。」


人間の姿に戻った由紀が机の上に座っていた。


ばいんっていう擬音が聞こえたのは気の所為にちがいない。


由紀は私が思う限り一番大人っぽい少女だと思っている。料理や洗濯などなんでもできる、私たちがいた世界でいう「女子力豊かな女子」だとは思っているけど、残念なことに男口調である。


私の後輩や幼馴染は「だが、それがいい!」とか言っていたが、果たしてそうなのだろうか?


・・・私は女子力という点では彼女に負けていない自信があるが、ただ一点において勝てない。わたしのは情けないものなのに彼女は横に揺れるほどある。


縦じゃなく、横に!そう、横に揺れるのだ!


神様なんて信じないと思った瞬間が何度あったか!


・・・信じるので少し増やしてくださいと言ったら、「ごめんね?」と言われた時ほど、殺意が湧いたのは一生の中で一番と言える。


だというのに、男口調。


「な、なんだよ。人のものばっかり見やがって、そんなに羨ましいのか!」


「羨ましいよ?もぎたいくらい」


「も、もぐなよ?」


「うん、いまはそんな時間ないから今度ね。・・・はい、これ袋の中入れといて」


とりあえず選んだ禁書を数冊ほど由紀に渡しておく。


「えっと・・・地獄の空に凍土の水・・・あとは天空の土か。よくこんなもんあったな?」


「本当よね」


ここの禁書庫はちょっとおかしい気がする。


なんで魔王城の書庫と同じラインナップなんだろうか。


由紀はとりあえずという感じでアイテム袋の中に入れていく。


「なあ、装備はどーすんだよ? 」


「あー、とりあえず騎士物語使えばいいじゃない。ストック何冊あったっけ?」


「三冊だな、ほらよ、新品」


由紀のやつ、本を投げてきやがった!


・・・いや、わたしの方がある意味においては本に対して失礼なことをするのでこれを咎めるわけにはいかない。


「・・・この組み合わせのものでいいの?」


「今の城内の近衛ならこれでいいだろ?」


「それもそうね。」


「それにしても難儀だよなぁ、賢者は本しか装備できないってのは」


「・・・・・・・」




そう、この世界での賢者は本しか装備できない。どこぞのRPGとかなら杖とか盾とか装備できたのに、この世界でのわたしは本しか装備することを許されていない。


・・・まあ、読んだりするついでに『殴れば』いいんだけどね?


「ま、とりあえず災害級の魔物相手ならこれだけ持っていけばいいだろうな」


「そうね」


この世界の魔物もいろいろ変だ。・・・まあ、そんなことは置いておこう。


「じゃあ、城から出ましょうか。」


そう言って私は禁書庫の棚の一つを横にずらして隠し通路を開く。


いくら隠し通路があるのかは知らないけれど、ここだけ王城の正門横の搬出口につながっている。見回りの兵士なんていない。いるとしたら『影』くらいだ。


「じゃあ、このお城ともおさらばね」


「そーだな♪」


私と由紀は禁書庫の明かりを消し、隠し通路に入っていく。


「うれしそうね」


「また『遊べる』かもしれないだろ」


「ええ、そうね」


重いものが動くような音がしていき、私たちの後ろにはあるものは壁だけになった。


けど、私たちにそんなことは関係なくて、ただひたすら前へ進むことだけを考えていた。


こうして、この城から賢者は逃げて行った。

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