八、幼馴染
あなたのファンです。
「やあやあ、君、ひさしぶりだねぇ」
叔母の家からの帰途。
叔父様へのお礼と、家の者へのお土産に、お菓子でも見繕おうと供の女中をつれ街中にまいりましたら、見知った顔に遭遇したのです。
紺色の学生帽に学生服。最後にお会いした時より精悍なお顔になっていましたが、間違うはずもございません。
人好きのする笑顔を浮かべて歩み寄ってくる彼は、わたくしの幼馴染みでした。
「君、本当に、そんな甘ったるい物、よく食べられるねぇ」
「放っておいてくださいませ」
お久しぶりさようなら、で終わるはずもなく。
良い店を知っていると促されたのは、細い路地の先にひっそり構えたパーラーでした。
一面蔦に覆われた外観が敬遠されるのか、店内は空いておりました。女中には離れた席に着いてもらい、彼女にもおやつにしてもらいます。
ついたてによって半個室になった席で向かい合って、わたくしはアイスクリームを、彼は珈琲を頼みます。
頼んだ品が届くまで、口の立つ彼が雑談を始める様子は、記憶にあるままでした。
「忘れもしない。君が六歳の時。蜂蜜一瓶一人であけて、腹を壊して寝込んだよね」
「お黙りください」
「その後も、叔父君とこっそり羊羹一棹食いに挑戦して、とっておいた羊羹に蟻が集って大泣きとか、お汁粉食べ過ぎて寝込むとか、君がやらかすのは大概甘味が関わった時だけだったよねぇ。この甘味中毒者」
「お黙りくださいませ人の恥をぺらぺらと! そういう貴方こそ、鳥になれる気がしたと言って屋根から落ちて骨折したり、お姉様の持ち物のにおいを嗅いだり、頬ずりしたり、お姉様のヴァイオリンになりたいと言ってまずは木になると土に埋まってみたり、大概ではありませんか」
「後者は割と今でも思ってる」
「この変態。お姉様中毒者」
「ははっ、褒め言葉だね!」
そうです。こうして、笑顔で人の痛い所をつついて笑う、嫌なところがある人でした。無駄に爽やかな笑顔で腹が立ちますわね。
これで大学生とか、ちゃんとやれているのでしょうか。不安しかありません、日本帝国の将来に。
わたくしより一つ年上の彼は、祖父の代から付き合いのある商家の長男で、幼いころから親交がありました。親しい幼馴染の一人です。
でも、変態です。
何度でも言います。変態です。
彼は、わたくしの姉に、強い憧憬……というより信仰があって、それ故の少々行き過ぎた言動が目に余る、変態さんなのです。
小賢しいのは、その変態性をあらわにするのが主にわたくしの前でだけという点です。
お姉様の魅力をよりお姉様に身近な人間と語りたいがための正体暴露だというのですから、正々堂々としているのか、なんなのか。こんな彼の素顔を知りながら笑い飛ばせる、お姉様の懐の大きさに感嘆すればいいのか、わからなくなりますわ。
他の方の前では、これでも品行方正、人好きのする未来の若旦那で通っているのですから、人間とは多面的な生き物です。
しかし、彼が幼いうちから正体をあらわしていたおかげで、お姉様の周囲への警戒が怠らないで済んだことは、まあ感謝してもいいでしょう。変態さんはなにも、彼だけではないと気付いたのは早うございました。
あと、そうそう。
認めたくはありませんが、彼、わたくしの婚約者候補、最有力の方でした。
いらない記憶まで思い出したところで、頼んだ品が卓に届きます。
キンキンに冷やされた銀器に、二掬い盛られた生成り色のアイスクリームは涼やかで、とてもおいしそう。いそいそと袂から手巾を取り出して膝の上に広げます。
連日空気はじっとりと重く、今日のように晴れていると余計に蒸して、冷たいものが恋しくなります。氷菓子などは外に出ない限り食べられないので、思わず顔もほころぶというもの。
「聞いたよ。今、ご実家にいるんだってね」
一口至福を味わっていると、ニコニコ人の好い笑顔で切り込んでまいりました。案の定でしたわね。
「もしかして、待ち伏せてらっしゃった?」
「まさか」
瀟洒なカップの馥郁とした香りを楽しんで、彼は笑いました。
「そろそろ良心の呵責に苛まれた君が、気分転換に外に向くというのは予想していたけれど。さすがに日時までは」
今日会ったのは本当に偶然、と言外に含めて。しかし、行動理由は把握されていて、少々据わりの悪い面持になります。
「それみたことか、」と言わんばかりのお顔も、憎たらしいばかりです。
「君の笑顔が心の武装だってことは、よぅく知っているけどね。よく解り合わない内にそれを見破れというのは、難題ってものだよ」
「でも、貴方は見破ったじゃありませんか」
「そりゃぁ、常日頃から愛想笑いを見慣れてるからねぇ」
ニタニタ人の悪い笑い顔は、間違っても他人には見せない、それこそお姉様にだって見せない顔でありますが、全然まったく嬉しくありません。そんな特別いりませんわ。
それに、初対面で、『その気持ち悪い笑顔どうしたんだい? 病気?』と言われたこと、まだ根に持っておりますの、わたくし。
会う毎何回も繰り返される失礼な問いに、被っていた猫もこの人相手に無駄と逃げてしまって、更に彼がお姉様にみせる変態的な執着と憧憬を目の当たりにしてからは、更に遠慮はなくなりました。
そうして、彼がわたくしの前で取り繕わないかわり、わたくしも彼の前で猫をかぶるのは、大分昔に止めてしまいました。そうでないと、彼の変態行為に振り回されてしまいましたので。
お互いみっともない所まで見尽くしてしまったものですから、今更澄ましても無駄という奴ですね。
気の置けない友人、とは絶対に言いたくはありませんが、古い付き合いの悪友、とは言えるでしょう。
忌憚なく言いたい放題言い合う関係に息抜きを見出していたのは、絶対彼には内緒です。
「それで、貴方、何のご用事でしたの? お姉様なら、まだ帝都には戻られておりませんよ」
「それは知ってる。なに、今度は本当に君に話があったのさ」
「さらっと知ってるとか。誰も彼も、どんな情報網をお持ちですの? そして貴方はただ気持ち悪いですわ」
「真に遺憾だね。女神の足跡はたとえ小さな功績でも追いたくなるのが信者の情と言うものだ」
「本当に気持ちが悪い」
「調子が戻ってきたね」
冷たく吐き捨ててやったら、妙に穏やかに返されて、きょとんとしてしまいました。
「……心配? 貴方が?」
「まさか! 僕は、僕の至尊の存在の名誉を傷つけんとするまったく不埒で不遜な噂の真相を突き止めるべく活動し、真実を突き止めんと今まさに断裁の斧を下ろそうとしているのだよ!」
「あ、いつも通りですわね。変わりませんのね、貴方」
意気軒昂と腕を振り上げる彼に、思わず脱力してしまいました。
「で、君、どういうことなんだい? 君が居ながら、こんなに噂が蔓延するまで放っておくなんて、らしくないじゃないか」
表面上は和やかながら、触れたら切れるような真剣さの声。わたくしは手元のアイスクリームに目を下ろしました。早くも溶けかけたそれを一口ほおばり、冷たさが喉元を過ぎてから、口を開きます。
「わたくしらしいって、なんですの? 貴方にわたくしの何がわかると?」
「諫めるくらいは、早々にしていたはずだ。あの人は、あの人達は、賢い。忠言は流さない。しかし、君が居ながらここまで不名誉な噂が蔓延するのもおかしい。何故なら、誰より彼らの品格を守りたいと願って行動してきたのは、君だからだ。僕はそれをよく知っている。だから、僕は、こう考えた」
噂の蔓延を助長したのは、君なんじゃないか、と。
「……探偵ごっこは楽しい?」
「実は、結構」
真顔でこっくりうなずかれて、ふ、と肩の力が抜けてしまいました。
溶けかけのアイスクリームをお行儀悪く匙で突っついて、重い口を開きます。
「……別に、汚名にまみれてしまえ、と思ったわけじゃなくてよ」
「わかっている。僕の知る君は、誰よりも誠実で、臆病で、優しかったから」
「その珈琲、何か妙なものでも入っているの?」
意外や素直な言葉に、わたくしはつい憎まれ口を叩いてしまいます。そんな風に評価されていたとは知りませんでした。身に余る言葉です。特に、今のわたくしには。
「今更どの口が、とお思いでしょうけれど、懺悔してもよろしい?」
「聞くだけ聞こうか」
ほとんど空になった銀器に、銀の匙を置きます。カチンと涼しい音が響き、その余韻が消えるまでの間に、気持ちを立てました。
「――初めは些細な噂の積み重ねでしたわ。でも塵も積もれば山となる。その時点で、諫めなかったと思って? でも、先手を打たれて『家族として、義姉として扱おうと思っている』なんて告げられて、わたくし『よろしくお願いします』以外、どう返せばよろしかったの? わたくしがしたことは、一つですわ。わたくしにご親切な話を持ってきてくださる人達に、表情を繕わなかっただけ」
哀しい顔を隠さない。たったそれだけで、旦那様とお姉様の不埒な噂は、驚くほど浸透しました。一年で、さも真実であるかのように。
目の前の彼は、真顔で黙考し、切り出しました。
「君、それはちょっと、ずるいんじゃないのかい?」
相変わらず、バッサリずっぱり言ってくれますね。
「自覚してますわ。被害者面して、同情を買って、旦那様とお姉様に汚名を着せて。今更どの面下げて、と。
でも、言い訳するなら、そんな対応をしていたのは、ほんの最初きりでした。それだけで、ここまでこの噂が引っ張られるとは、思ってもいなかったのです。さすがお姉様と旦那様、とでも言いましょうか」
「いや、うーん。多分、君は、自分が他者にどう評価されているのか、まったく理解していないんだと思う。だから、そんな悪手に手を出したんだと思うんだけど」
「悪手、でしたか?」
「うん。同情の余地は多分にあるし、根本手堅い君が報復するなら、むしろささやか過ぎなその辺が妥当だったとは思うけど。うん」
苦いものでも噛んだように口をへん曲げられて、腕組みをした彼は眉間にしわを寄せて唸りました。わたくしは話が見えなくて首をかしげてしまいます。
「自己評価が低いのも考え物だな。一挙手一投足が周囲にどんな影響を与えるのか考えたこともないんだろうな。衆目を集めるのは女神と彼だけだと思い込んでるのも問題か。ここまで盲目だったとは思いもよらなかったぞというか周囲を見渡せば一目瞭然だろうに。あ、見ないようにしてたのか。自己卑下のせいか。幼少体験ここまで引っ張るのか。というかあの人いっちょ前に悋気するくせにまったく伝えてなかったの?え?それなら僕がガキんちょのころから受けてたあの凍るような視線は何だったの感情表現ど下手くそ共かなんなの。なんなの」
ぶつぶつ早口に小声でつぶやいておりますけど、なんなんですの一体。納得するように何度かうなずいて、こちらに向き直ります。
「うん。でもやっぱり、ずるいよ、君」
話を戻しましたね。
「何がずるいって、なかったことにして、逃げようとしてるのがずるい」
「…………わかっていますわ」
ああ、痛い所を突かれました。
優しい身内は言及しませんでしたが、今回のわたくしの行動も、離縁も、突きつめてしまえば逃避でしかありません。そんなこと、言われるまでもなく、よく存じております。
そして、わたくしの行動を断罪するなら、お姉様か、彼だとは思っておりました。首を差し出す覚悟で、目をつむります。
「でも、罰は十分受けてるみたいだしねぇ」
俯いていた顔を上げますと、深い溜息と一緒に、どうしようもないような、幼い子を見るような目で微笑まれました。
「この一年。信じてた人に対して疑心暗鬼になることも、誰かに悪意を向けることも受けることも。君には不安だったし、怖かっただろう?」
鼻の奥がツンと痛くなりました。
そうです。わたくしは、怖かった。
「……ええ」
「根が誠実で素直な君だ。良心の呵責も大きかっただろう。叔父君や弟君は、君に同情的だっただろう? なら、実家に帰ってからの呵責も相当だったろうね」
「……どうして、おわかりになるの?」
「これでも、僕、君の幼馴染なんだよ」
「……悔しいですわ。この年になって、貴方に、泣かされるなんて」
「当たっていたかな?」
差し出された手巾を、遠慮なくお借りします。糊のきいたそれは、なんだか懐かしいにおいがしました。
幼馴染って厄介ですわ。まさか、ここまで、理解してくれるとは、思いもよりませんでした。
「それで、呵責に苛まれた君が色々考え込んでいる中で、最も可能性が高いのが『経済的な自立』だと思ったんだけど、これは違った?」
「…………貴方、実は、妖怪覚なんじゃなくて?」
「嫌だね、君がわかり易過ぎるんだよ、幼馴染殿」
そこまで単純なのかしら、わたくし。
別の悩みが浮上したところで、打って変わって声を明るくした彼に、胸騒ぎがいたしました。
「そこで、君に朗報がある」
「嫌な予感しかしませんわ」
「君、幼馴染をちょっとは信じたらどうだい?」
「信じるに足り得る方なら、やぶさかではございません。でも、貴方から聞く『いい話』が真実そうであった例がないのですもの」
「酷評だね。知ってたけれど。でも、これは本当に、君にとってのいい話だよ。……僕にとっては、というか我が家にとってはちょっと、恥ずかしい話なのだけど」
神妙な語り口に身構えますと、彼はいっそ朗らかに言い放ちました。
「君、家庭教師をやらないかい?」
目じりに残った涙も引っ込む程度には驚きました。
ぽかんとするわたくしを置いて、彼は諄々と語り出します。
「僕の年の離れた従妹が、信州で療養生活をおくっていたことは、君も知っているだろう?」
「海軍の叔父様の、一人娘でいらっしゃる?確か何度か、お手紙を交わしました」
「そう、その子。産褥で母親を亡くし、幼い時分から病弱で、空気のよい場所で療養していた、あの従妹だ。実は、彼女の家庭教師を探しているのだけど、ちょっとワケありで」
身内の恥でまこと赤面の至りだが、と言い置いて、彼の話すことには。
「事は昨年判明した。従妹は信州で、家庭教師を兼ねた乳母やと、雑務を行う老夫婦と四人で暮らしていたんだが、彼らが職務を放棄していてね。特に、乳母やの女性。教員の免状を持つ才女だったんだが、普段人目がないのをいいことに、教育費の私的流用や……きつい、折檻をしていた。たまたま信州に出向いたついでに孫の顔を見ていこうとした祖母が目撃して、露見した」
カップを握る指にぎゅうと力を込めて、怒りをこらえているのでしょう。彼は沈痛な面持ちで目を伏せました。
あまりにあまりなお話に、わたくしも息をのみます。
返ってくるお返事の、つたなくもいたいけな文字は、文通の喜びにあふれたものしかなかったというのに。あの、彼女が。
「奴らを然るべき機関へ届け、従妹もすぐさまこちらへ引き取ったはいいが、問題も発覚した。従妹は、妙齢の女性を、ひどく怖がる。具体的には三十路から五十路ぐらいまでの。その乳母やと似たような年齢と背格好のね。でも女性は全般怖いみたいで、今じゃ僕の母親すら近づけない」
「こちらにいて、お体の具合は大丈夫ですの?」
「昔に比べれば、丈夫にはなったよ。駆け回ったり、長時間歩いたりは無理だけど、生活に支障はない。それこそ、女学校に通うことだってできる」
段々と話が見えてきて、わたくしもうなずきました。
「なるほど。それで、ですの」
「そう。それで、なんだ。来年度の女学校入学に間に合うよう、勉強や、女子教育に必須なあれこれをみてくれる家庭教師を探した。けど、色々会わせてみたんだけどね。駄目だった」
とてもじゃないが、怯えてまともに顔を会わせることもできなかった、と消沈する姿は、普段の彼らしからぬ様子で。
その従妹さんを、彼がよくよく可愛がっていることが知れました。思い返せば、彼女との文通も、はじめは彼に頼まれてのことでしたね。
「君なら、あの諸悪の乳母やと背格好も雰囲気も違うし、年も従妹に近い。高等女学校を首席で卒業した学力もある。何より手紙のやりとりがあったことだし、まったく知らないわけではない。うってつけってわけ」
「けれども、わたくし、教員のお免状も持っておりません。彼女が必ず会ってくれるという保証もなくてよ?」
女性全般に怯えるというのなら、知ったわたくしでもお会いすることすらできないかもしれない。いつか、あの可愛らしいお手紙の彼女にお会いすることを楽しみにしていたのですけれど……。
不憫といささかの残念、彼女の心身の平穏を願う気持ちでおりましたら、目の前の彼はふるりとかぶりを振って、真面目なお顔で続けます。
「いや、家庭教師が本題じゃないんだ。それができれば、万々歳なんだけど。本題は、従妹を女性慣れさせたい、ということで」
「まあ、それは……酷なのではなくて?」
「しかし君。一生女性に会わず、これから先の人生を過ごすなんて、不可能だろう?」
「それは、まあ、そうですけれど」
「本人に勉学を続ける意欲はあるんだ。女学校も、多分あれは憧れだろうな、行きたがってる。友達だって。だから、あんな女のために、従妹がそれらを諦めるのが、どうにも許せん」
そこに静かな忿怒と憤りを感じ、彼が本気であることが伝わりました。
「君で徐々に慣れていったら、と思ったんだ。勉強は二の次でいい。せめて、うちの母や、女中が世話を焼いても怯えないくらいに回復できれば」
だから、頼めないだろうか。
そうおっしゃって頭を下げた彼に、この場にはそぐわないのですが、わたくし静かに感動しておりました。
この、変態が。お姉様至上主義で、大分いかれた言動をし、わたくしを困らせるしかなかった、この彼が。
身内とはいえ、お姉様以外の女性のために怒り、頭まで下げるなんて!
情に厚い所があるのは、今日まさに再確認しましたけれど。
こうして下手に出られると、こう……大人になられてという謎の感動とあいまって、喜ばしさが湧きます。
ですが、この場で気軽にお返事はできません。
「持ち帰ってもよろしいですか?」
そう告げれば、彼は勢いよく頭を上げました。
「わたくしの一存で決めてしまうには、少々事が大きいですわ。家の体面もありますし、叔父に相談しないと。人一人の人生がかかっているのですもの。それに、わたくし自身が落ち着かないというのに、中途半端にしてしまっては、彼女が傷つくことになるでしょう。それは絶対にいけません」
今のわたくしに精一杯の言葉を差し出します。それに真剣な顔で彼もうなずきます。
「でも、前向きに考えさせてください。なにも家庭教師じゃなくても、わたくし、貴方の従妹さんには一度お会いしたいと思っていたのよ」
心から微笑んでそう言えば、彼は卓の上に身を乗りだし、わたくしの手を両手でとりました。
「――君に感謝を」
あたたかい手のひらと、俯きがちにこぼされた言葉は、とても深くて。
こんな声初めて聞いたわと、わたくしはまた一つ笑みをこぼしたのでした。
わたくしにも過失はあった、という話。
この話のあとに五話を読み返すと、わたくしの葛藤の端っこが見え隠れするかもしれない。
あと幼馴染の彼、割と重要なこと言ってます。