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送りつけられてきた動き易いスーツに袖を通して家の前で待っていると、一台の黒塗りのリムジンが横付けしてきた。住宅街に似合わない高級な車両に、誰であろうほかでもない俺が引いた。後部座席のドアが開き、中から手招きされたので乗り込む。

中にいたのは宮森稲穂。

話によれば、彼女は世界を飛び回っている宮森の当主に成り代わって仕事をすることがあるのだという。本来は宮森の当主の夫・・・・・・彼女らの父親の役目なのだが、残念ながら体調を崩しているのだという。


「いや~、まさかお兄さんが来るとは思ってなかったよ~」

「俺は自分の尻拭いをしに来たわけか・・・・・・」

「まぁ、スバル壊したのお兄さんだししょうがないよね。・・・・・・けど、誰が一番悪いかって言ったら、やっぱりお母さんなんだろうけど」

「・・・・・・・」

「そんな顔しないでよ」


俺の顔を見て、稲穂は苦笑を浮かべた。


「話を変えよ。今日のお兄さんの詳しい仕事内容とか、聞いておいた方がいいんじゃない?」

「ん? ああ、そうだな」

「今日はね、加賀見家との会談・・・・・・ま、利害調整だね。向こうの代表とちょっと雑談して、書面に目を通してサインするっていう簡単な仕事・・・・・・って、これ私の仕事内容だ!」

「すぐ終わりそうだな」

「ん~・・・・・・雑談がちょっと長いかも。加賀見の人、話好きだし。色々と意地悪な質問もしてくるし、ちょっと苦手かも。・・・・・・で、お兄さんの仕事なんだけど、特にすることはないと思うんだよね。交渉が決裂して、逃げなきゃいけない時、いろんな人ぶっ飛ばして私を連れて逃げるだけだし、基本そんなことは起こらないし。事前交渉で大体終わってるし、私にその権限はないしね。姉ちゃんだったらあるし出来るんだけど、今は・・・・・ねぇ?」

「俺に振るなよ。それはお前らの母さんと小此木さんの問題だ」

「どうだろね。お兄さんがうちに来てくれれば姉ちゃんも戻ってくるような気がするよ。だって婚約者だしね!」

「・・・・・・なんだそれ」

「あれ? 聞いてない? お母さんと真賀の当主との間で話をした時に、好きにすればいいって言ったらしいよ、そっちの偉い人」


・・・・・・あの野郎! また勝手なこと言いやがって!

内心の憤りを表に出さないようにするのが精一杯で、俺が今どんな表情を浮かべているのか自分自身でも把握できない。

それを察したのか稲穂はひきつった笑みを浮かべて、スバルの言った意味が解った、と小さく呟いた。


「私、お兄さんとは絶対に喧嘩したくないな」

「?」

「怖いことになりそうってのが解ったよ。・・・・・・これはお母さん、間違ったかもね~」


何とか引っ張り出したような笑みを浮かべて、稲穂は後悔を語るように言った。

そうこうやってるうちに、車はゆっくりと高級ホテルの地下駐車場に降りた。そこで俺と稲穂は降ろされて、ボーイの案内でホテルに入ってエレベータに乗せられて、最上階のスィートルームの前に案内された。ネクタイを直したあと、稲穂に続いて部屋に入った。

ドレスを纏った痩身の中年女性と、俺と同じようにスーツを着て、左右の耳元で小さく髪を纏めた若い女が出迎えてくれた。


「お久しぶりです、加賀見のおば様」

「ええ、久しぶりね、稲穂ちゃん。今回は私でごめんね、彰人は今大陸の方に行っていてね。私も代理なの」

「彰人さんは忙しいですから」

「・・・・・・ところで、今日はスバルちゃんじゃないのね。そちらは?」

「真賀・・・・・・アズマです。スバルの代わりですよ、おば様」

「あら・・・・・・あの噂は本当だったのね」

「噂、ですか?」

「ええ、宮森が真賀との繋がりを持った、というのは」

「縁がありまして」


俺は、彼女たちの会話をかなり離れたドア近くで聞いていたが、確かに話が長くなりそうだと思った。加賀見のおば様とかいう人はどこか粘着質そうだし・・・・・・などと思っていたら、加賀見の護衛を務めていると思われる若い女が近付いてきた。

口元には満面の笑み。

歩き方を見て分かったが、間違いのない実力者。若い女は俺の間合い一歩手前で立ち止まった。猫、というよりは虎のような瞳が俺を見据えた。


「真賀の人。アズマって本当?」

「ん。ああ。俺の名前だな」

「そっか。そうなんだ! やった! 当たりだ!」

「何が当たりなのかは知らないが・・・・・・あんたは?」

「私は川内! 川内ユキオ!」

「ユキオ・・・・・あんたがか?」

「そうだよ。え、もしかして知ってるの!?」


ああ、と答えると、うれしいなぁ、と彼女ははにかむように頬を紅くして微笑んだ。

・・・・・・川内といえば、真賀と並ぶ家柄だ。無論、それは権力だのなんだのといった経済や政治に関したものに特化した旧家ではなく、怪物と称される何かが蠢く魑魅魍魎の家の一つだ。ユキオの名は知っている。俺と同時期に、俺と同じように身内を相手に立ち回った化け物だと聞いている。・・・・・まさか女だったとは思わなかったが。


「なんで俺のことを知ってるんだ?」

「だって、川内と真賀は喧嘩仲間だし、うちのおじいちゃんも君とこのおじいちゃんといっぱい喧嘩してたしね。だから、知ってるよ。うちの糞親父とアホ兄弟すら手玉にした真賀のおじいちゃんとおばさんを殺したってことで有名だからね」

「・・・・・・嫌な名の売れ方だな」

「だって真賀だもん。うちとおんなじで同族殺しに忌避感なんてないでしょ?」

「答え難いな」

「ん~? 違うね。考えたことなかっただけでしょ」


だって鬼にそんなこと意味ないからね。・・・・・・その言葉がぐさりと突き刺さった。

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