第1話 〝面接〟
最初は私、皇帝チキンがスタートを決めようと思います(^-^)/
川崎幸久は、人生初のバイト先、喫茶店の前で呼吸を整える。
やはり、緊張する。
生まれつき、あまり人と喋らず内気な彼は、両親に「どこでもいいからバイトをしてコミュ力を磨きなさい」と言われ、近所にあるここを選んだ。
もう高校生だ。バイトの経験のひとつやふたつしてもいい時期だ。
(自分に接客業なんて出来るかな)
幸久の頭の中はそれでいっぱいだった。
まだここで働くと決まったわけではない。今日は面接だ。
クラスメートとさえまともに話せない彼にとって、接客業はロッククライミングに等しい。履歴書に手汗がにじむ。
だが、自分を変えるためだと腹を括り、喫茶店に向かって足を進めた
☆
「志望理由は?」
「い、家が近いからです」
「採用!」
もっと長引くかと思われた面接は、一瞬で終わった。
それなりに面接練習してきた幸久は度肝を抜かれる。
「家が近いなら、緊急でも呼び出せるから有難いよ」
幸久の履歴書を見て爽やかに微笑む。
背は高く、爽やかな細い目に、爽やかな口。そして爽やかな顔立ち。全てにおいて爽やかな店長は、見るものを爽やかにしてしまいそうだ。
「私は店長の平泉爽太郎。初めは慣れないかもしれないけど、楽しい職場だから頑張ろう」
ふっと微笑み、幸久の前に右手を差し出す平泉。随分とフレンドリーな人だと感じる。
「店長」
部屋の外から女性の声が聞こえる。入って来たのは、幸久と同い年くらいの少女だった。
黒い髪は短くまとめられ、どこか寂しそうな目をした彼女は、仏頂面でこちらを見る。
「新しいバイトの子だよ」
「か、川崎幸久です」
ぺこりと頭を下げる幸久を、つまらなさそうに見つめる少女。
「凪原唯葉」
「へ?」
「名前、凪原唯葉」
短く述べると、そのまま部屋を出て行く。幸久にとっては苦手なタイプだ。自分も喋らない方なので、クラスで2人組を作るとき、どちらも話さず気まずい空気が流れるからだ。
「ユイちゃんは根は優しい子だし、同い年だから仲良くしてくれ」
「は、はぁ」
悪い人じゃないと思うけど、あんなブスッとした女の子とは仲良くしたいとは思わないので、極力関わらないようにしようと決める幸久。
「店長、要件伝え忘れてました」
再び扉が開き、唯葉が入ってくる。
「掃除などは全て済ませておきました。次は新人さんに仕事を教えます」
「おー、助かる。指導頼むよユイちゃん」
相変わらず仏頂面な唯葉だが、そういう気配りもできるところを見ると、やはり根はいい人なのかもしれない。
「新人……いえ、幸久君は客から注文を取って私に伝えてください」
「え、あ、はい」
いきなり下の名前で呼ばれるとは思わず返事に遅れてしまう。
「曖昧な受け答えはお客様に悪いイメージを与えるので注意した方がいいですよ」
(アンタがそれを言いますか)
心の中で思うが、あえてツッコまない。
「私が手本を見せます。あ、丁度よく客が来ましたね」
カランカランと音を立てて扉が開き、2人組が入ってくる。
「いらっしゃいませ☆何名様ですか☆」
その途端、客の前で満面の笑みになり、可愛らしい仕草をする唯葉。
「2名です」
「こちらにどうぞにゃん☆」
『にゃん』って……あのさっきまで無表情で愛想のない彼女が『にゃん』って……。
「ユイちゃん凄いだろ?一見無愛想だけど柔軟に対応できるんだ。うちの自慢の子だね」
いつの間にか横に立っていた平泉は頷く。
キャピキャピの笑顔でも本来唯葉の真面目さは抜けておらず、テキパキと動いている。
「ですね……」
女性って、つくづく怖いなーと思った幸久。
こうして、幸久の波乱のバイト生活は幕を開けた。
さぁて、始まりましたリレー小説、『喫茶店ファミリア』
今後、幸久君はどのようなバイト生活を送るのでしょーか!?全く予想もできませんな。
そんなわけで、次はみずまっちゃんさんに交代です(^-^)/
皇帝チキン ➡︎ みずまっちゃん