4 何だかレベルアップな予感 後半
私には魔法の才能がないらしい。
アーノルドさんに連れられて、紹介された魔法学の教師が天を仰いでしまうほどに。更に言うなら、レクトルも仏頂面だし、アーノルドさんも笑顔がどことなく引き攣っていた。
才能がない、とはなにも全く魔法が使えないことと同義ではない事を知りました。
どういうことか?
結果だけ言えば私は、教えられた魔法を発動することには成功していた。
初歩中の初歩である、手のひら大の火球を生み出す魔法だ。投げれば攻撃に、宙へ浮かべれば灯り代わりに、当然物を燃やす力もあるのでマッチ代わりにすらなる便利な魔法である。
なのだが、何故か私の生み出した『それ』は、ゆうに人の頭より大きかった。しかも何度やってもそれ以上小さくならない。逆に大きくすることも出来ない。
投げるにしては大き過ぎる。灯りにしても同様だ。ましてや火種にするには不向きすぎるその大きさに、皆無言で私を見た。
なんだその目は。私のせいだとでも言いたいのか?しかし私のせいではない。
断固として認めないぞ。私のせいなんかじゃない!
きっと呪文が悪いのだ。知らないところで増幅の魔法を重ね掛けされているに違いない。だから私は悪くない。
「・・・魔法は、いや、魔法も、諦めるしかない、か」
「そう、ですね。初級でこれでは、本格的な攻撃魔法は・・・」
レクトルとアーノルドさんの会話が胸に突き刺さる。
「あ、いえ・・!き、きっと女神様から授かった力が強すぎるのでしょう。コントロールにコツが必要なのでは?!」
アーノルドさん・・・フォローは嬉しいけど、そんな必死でされると逆に傷つくんだが・・・。はっきり無能だと言われた方が幾らかマシだ。諦めの口実になるから。
女神のせい、というのはなかなか魅力的な押し付け対象ではあるけどね。
そんな感じで私は強化されたのだった・・・とかで終われれば良かったんだけどね。すっかり忘れていた聖剣『ディオスアルマ』。それがまさか『あんな』風になるなんて・・・。
約束までの3日間は、思い出したくないことの連続だった。
例えば、修行と言う名のいびりを受けたり。
「これぐらいでへばるな、あと10キロくらい走れるだろ」
「む、無理だから!!」
例えば、魔物の群れに単身突っ込まされたり。
「この数なら5分と言ったところか・・・。おい、さっさと片付けろ。もちろん、1人でな」
「10体以上いますが!?」
例えば、とある人物の容赦ない攻撃に晒されたり。
「勇者殿との殺し・・・いや打ち合いか。手加減はせんぞ」
「いやいや、極限まで手を抜いて下さって良いんですよ?ていうか、今「殺し合い」って言おうしてなかった!?」
などなど。「これは死んだな」と思うこと多数な3日間だった。
そしてそれを無慈悲に敢行した鬼、レクトルに監視されながら、私は再び伝説の鍛冶屋に会いに行った。
正直逃げようと思っていただけに彼の行動は逆に正しかった。でもあえて言おう。聖剣を取ってくるだけなら私一人で大丈夫だから!と。
それを許さなかったということは・・・・この3日で鍛えられた、嫌な想像が頭に浮かぶ。
ちなみに今回はアーノルドさんは一緒ではない。教会での仕事があるらしく、朝から出掛けたままなのだ。故にレクトルと2人きり。助けは期待できない。
きっと聖剣を受け取ったら即座に街の外へ連行され、そして魔物の群れと戦わされるんだ。暗い未来が私の前にあるのが分かる。
テンションが最低辺を漂う私に構わず、レクトルは店の中へと入っていく。もちろん私も続かざる負えない。
俯き加減で店内に入った私は、お通夜の会場に迷い込んだ気分になった。
それくらい店内が薄暗かったのだ。以前来た時と比べるまでもなく、暗い。視界的な意味ではなく、雰囲気が、である。
「・・・・あ、いらっしゃいませー・・・」
「こ、こんにちは・・」
覇気のない店員の男性は、私たちに気付き、傍らに居たジュリアスの肩を突いた。が、反応は至極薄い。完全に俯いていて、表情が一切窺えない。ただ暗い雰囲気だけが撒き散らされている。
「何だこの空気は」。そんな問いを発することすら遠慮してしまうほどの暗さだった。
こちらから声を掛けることも出来ず、反射的に返した挨拶も尻すぼみで消えた。とにかくジュリアスが復活するのを待つしかない。私たちはただ黙して待った。
死臭すら放ちそうなジュリアスは、何度か突かれてやっと目を上げた。ほっとして改めて挨拶をしようと口を開いた私は、言葉を飲み込む羽目になった。
「いやーーーーーー!!!!」
真正面に立つ私と目が合うや否や、ジュリアスが悲鳴を上げたのだ。
それはもう、「私の顔ってそんな悲鳴を上げるほど酷かったか!?」と疑ってしまうほどの悲鳴だった。
軽く泣きたくなった。
私、何か嫌われるようなこと、しましたでしょうか?
悲鳴とため息が混在するカオスがしばらく続いた。
「・・・・で、何があったのですか?」
一旦落ち着きを見せたジュリアスに、レクトル(外交モード)が尋ねる。
なんとか気分を上向かせた私も、同じ疑問を持っている、とアピール。するとジュリアスが、再び落ち込んだように顔を伏せた。
また悲鳴を・・!?と思ったが、そうではなかった。
「た、大変失礼なことをしました。その、実は・・・」
「実は?」
「聖剣が、その・・・ごめんなさい!!」
そう言ってジュリアスが勢いよく頭を下げた。90度に折り曲げられたその姿は、最上級の謝罪のポーズである。
「どうしたのです?謝罪だけでは分かりません」
「・・と、とにかくこれを見てください」
柔らかい物言いの割に厳しい表情をしたレクトルの前に、大きな物体が出された。
「これは・・・」
「ハンマー・・ですか?」
思わず呟いた私に、無言の肯定が返ってくる。
良く見なくても分かる。私の背丈を越える巨大なハンマーを前に、私はどうして良いか分からなくなった。
これが何?と頭に疑問符が飛び交う。と、隣のレクトルが静かに顔を上げた。真っ直ぐにジュリアスを見て、口を開いた。
「もしかして、これが聖剣・・・ですか?」
「う・・、はい・・・」
「・・・え?聖剣?!これが?!」
改めて見る。どう見ても剣ではないそれを、じろじろ眺めまわす。
言われてみれば・・・何か覚えのある感覚がする、・・・・・ような気がする。
恐る恐る手を伸ばし、触ってみる。
「!」
手のひらに、体全体に、びりりと電撃が通る。それは不快なものではなく、むしろ在るべきものが戻ってきたかのような、気の引き締まる感覚だった。
間違いない。これは聖剣『ディオスアルマ』だ。
理屈ではなく感覚で理解してしまった辺り、やっぱり私は選ばれた勇者なのかもしれない。・・大変不本意だが。
私の様子は他の皆にも分かりやすかったらしい。
ますます頭を下げるジュリアス。申し訳なさそうな顔をする男性。無表情になったレクトル。
しかし私は希望を見出していた。
どうやったのかは分からないが、聖剣は形を変えた。ということはいつか私も聖剣を破壊することが出来るのではないか?いや出来るに違いない。
そう思うと俄然機嫌が良くなるというものだ。
「その、勇者様て小柄ですので、短くしたりしようかなーって思いまして・・・。なのに、うちの思い描いてた形にならなくて。で、直そう思たんですけど、出来なくて・・・・」
「え?出来ない?」
「はい。いろいろやり過ぎて、どやってそんな形になったのか、うちにも分からんのです。だから直しようがなくて」
あー、そういうことか。それはまさかの事態ですね。頑張っても直せないなら、そりゃあお通夜みたいな空気も出るってもんだ。
焦るジュリアスたちを尻目に、私は笑い出しそうなのを必死でこらえていた。
私からしてみれば、聖剣が聖ハンマーになろうとあまり関係ない。むしろ嬉しい。と言うか普通に凄いだろ、これ。だって剣がハンマーになったんだよ?誰が予想出来ようかって感じだ。
「貴方の御噂は幾度となく聞いていました。なので、失敗するとは思ってもいませんでした」
レクトルが冷静にそんな感想を言って、私の手にある聖ハンマーを眺めた。
言われたジュリアスは皮肉と捉えたのか、身を縮ませて謝るばかりだ。でもレクトルの様子は皮肉を言っているようではない。こいつが他人を扱き下ろす機会を見逃すはずないし、何を考えているのだろうか?
一頻り聖ハンマーを眺めた後、レクトルはおもむろに懐から革袋を出した。じゃらりという音から、お金が詰まっているようだ。
それをカウンターの上に置く。困惑顔の2人に、天使の笑顔を向ける。
「思っていた形ではありませんが、勇者様の手にはぴったりのようです。契約通りお支払いします」
「い、いえ!そんな・・!うちは失敗したんですよ!」
「いいえ。我々の要求は、勇者様に合うよう聖剣の形を変えて欲しい、というものです。ハンマーであれば、剣の心得のないこの方でも使いこなせるでしょう。なので・・、受け取ってください」
誰をも魅了する笑顔は、ここでも真価を発揮した。
導かれるように頷く2人に会釈をして、私を追いたて店を出る。当事者である私の意見は、もちろん無視だ。訊くフリすらしない様はいつも通りである。
かくして大きなハンマーを手に道を闊歩する勇者(私)の図が完成した。
しまった!これじゃ目立ち度が半端ねぇ!!と気付いた時には、後の祭り。道行く人々の視線を受けながら、急ぎ足で進む。行き先など気にしている余裕はない。
と、更にもう一つ気付いた。
これ、破壊するの無理じゃね?だって衝撃に強いでしょ、ハンマーなんて。折るという行為に意味があるとも思えないし・・・。結局、ジュリアスもこれを作った経緯は分からないって言ってたし。
自力でこれを破壊するって・・・粉々にしろって?こんなことなら剣の方が良かった・・・。
嬉しい気持ちはあっという間に消え去った。暗澹たる気持ちのまま私はレクトルの後を歩き、後悔した。
立ち塞がる魔物の群れを前に、レベルアップだけはしそうだ、と自分を慰めることにした。




