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居候と猫の飼い主  作者: 小高まあな
第三幕 There's more ways than one to kill a cat.
9/14

5−1

「マオちゃん、ごめんね」

『んーん』

 マオの散歩コースにもある公園に二人は居た。二人ともブランコに腰掛けている。マオはゆらゆらと、足を揺らしながら、

『京介さんの事情はわかったから』

 ぽつん、と呟いた。

「うん、だから」

 京介も、マオの方を見ないまま答えた。

「だから、ごめんね」

 あたりはすっかり暗くなっている。そろそろ、隆二との約束の時間だ。

「そろそろ隆二来るはずだから。ごめんね?」

『うん。それは、いいんだけど』

 マオは隣のブランコに座る京介を見る。

『一回だけ確認するね。京介さんは、本当にそれでいいの?』

「うん」

 マオの言葉に、素直に頷いた。

「他の選択肢は、もう考えられない」

『そっか』

 それじゃあしょうがないね、とマオは呟いた。

「呆れてる?」

『なんで?』

「こんな選択しか出来ないこと」

『全然』

 だって、とマオは微笑んだ。

『京介さんには、あたしがいないから仕方ないと思うの』

「……マオちゃんが?」

『時間の流れが一緒の存在が』

「……ああ」

 京介は小さく苦笑した。

『あたし、発生してから今日まで色々あって楽しくって、発生したときのことなんかとぉい昔のような気がする。けど、永遠は、まだまだ長いのでしょう? それを一人で生きろというのは、酷だと思うの』

「そうだね」

 とん、っと京介は軽く地面を蹴った。ブランコが揺れる。

「うん、そうだね。なんだかんだで俺が隆二に頼もうと決心出来たのは、隆二にはマオちゃんがついているってわかったからだしね」

 答えは決まっていた。でも、結果は一つでも、それを成し遂げる方法はいくつかあって、その中で今回のことが最善だと結論付けた。それは、マオの存在が大きい。

「あいつはもう一人じゃないから。それなら、多少、面倒ごとを押し付けても平気かなって思ったんだ」

 一人きりだったら、潰れてしまうことも、二人ならば平気だろうから。

『うん、一人じゃないから』

 マオが頷く。力強く。

「うん、任せた」

 微笑みながら京介も頷き返した。

 そして、とんっと地面に足をつける。揺れていたブランコがとまる。

『京介さん?』

「来たよ」

 不思議そうな顔をするマオに、告げた。足音がする。

「時間きっかりだね。吃驚だ」

 弾みをつけてブランコから立ち上がる。

「てっきり、早い時間に奇襲でもしかけてくるかと思ったのに。一応、外見上は誘拐犯なわけだし、俺」

『なんだかんだで、京介さんのことを信じていたからじゃない?』

「違うね。マオちゃんのことが本当に心配だったんだよ」

 だから時間より前にこの場所に来ることができなかった。平気だろうと高をくくって、万が一のことがあったら怖いから。

『そうかなぁー?』

 マオが不思議そうに首をひねった。

「そうだよ。ねぇ、マオちゃん」

 名前を呼ぶと、マオが不思議そうな顔のまま京介の方を向いた。

「最後に一つだけ」

『うん?』

 小さく首を傾げる。

「あいつは、イマイチ素直じゃないし、なんか冷たいし、ひとでなしだけど、マオちゃんのことを心配してる。気にしている、いつだって。それは本当のことだから。ただ、あいつはあれでバカだから、無くさないと大事なものに気づけないんだ。大事にしているものを無くしそうになって初めて、それが大事だとわかるタイプの人間なんだ。さらに言うと、無くしそうになってその時は焦るけど、無事だとわかると、焦ってた気持ちなんて忘れるんだ。大事だと一度理解したのならば、そのままずっと、しっかり持っていればいいのに、それが出来ない。本当、呆れるほどバカだろ?」

 だから、と真面目な顔で京介は続けた。

「自信を持って。あいつの冷たさに挫けたりしないで。どんなに冷たくても、あいつはマオちゃんのことを見捨てたりしないから。愛されているのだと自信を持って。マオちゃんが自信を持つぐらいできっと、丁度いい」

 マオは京介の顔をじっと見つめた。言葉をゆっくりと飲み込むような沈黙のあと、

『……うん』

 しっかりと頷いた。

『大丈夫。隆二がひとでなしなことは、知っているから』

 そうして、にっこりと、笑った。

 京介は、ならいいんだ、と笑い返した。

「京介」

 その背中に声がかかる。

 京介が振り返ると、そこには敵意剥き出しの隆二が立っていた。

 ブランコの柵の、三歩向こう側で、不機嫌そうな顔をしている。

「やあ、時間ぴったりだね」

 おどけて京介が言葉を返す。

「マオを返せ」

 それを隆二は斬り捨てた。

「はいはい。マオちゃん、ごめん、隆二と二人で話をするね」

『うん』

 京介の言葉にマオは頷くと立ち上がった。

 そのまま、すぃっと京介の横を抜け、隆二の隣に立つ。

「大丈夫か?」

 無事を確かめるかのように、隆二の右手がマオの頭を撫でる。

『平気。心配かけてごめんね』

「そうか」

 すっと、隆二の肩から少し力が抜ける。安心したように。

『待ってるね、外で』

 そんな隆二にマオは公園の外を指差した。

「ああ」

 隆二は小さく頷く。マオは頷き返すと、

『京介さん』

 振り返り、京介の方を見る。

「ごめんね、マオちゃん」

『ううん。隆二のことは、心配しなくて平気だよ。あたしがいるから』

「任せた」

『任された』

 そうしてマオは、少しだけ寂しげに微笑むと、

『……じゃあ、ばいばい』

 右手を小さく振る。

「うん、じゃあね」

 京介も軽く手をふりかえした。

『じゃあ、隆二、あとでね』

 二人のやりとりを怪訝そうに見ている隆二に少し微笑むと、マオはすぃっと公園の外に向かった。


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