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居候と猫の飼い主  作者: 小高まあな
第二幕 猫にはまだ鈴をつけていない
6/14

3−2

 思ったよりも遅くなってしまった。

 京介は足早に、隆二の家に向かう。

 あまり遅くなると、何を言われるかわからない。怪しまれるかもしれない。

「この前、マオちゃんに探りいれられちゃったしなぁ」

 ぼやく。

 約束を破るためにここに来た。それは嘘じゃない。けれども、それを実行に移す決心がなかなかつかず、長いことかかってしまった。本当は、こんなに長いこと、ここにいるつもりはなかったのに。

 流されやすくて情にもろくて、日和見主義なのは昔からだ。平和な生活は心地よくて、ずるずるとこのままでいいかと思ってしまう。それで失敗したというのに。

 でもそれも、今日で終わりだ。

 ソレを入れたトートバッグを、ぐっと握る。

 ここまできたら引き返せない。実行に移すならすぐに。はやくしないと止められてしまうかもしれない。

 覚悟なんてあの場所で決めてきた。もう迷わない。

 それでも隆二の家まで戻り、そのドアを開けようとしたときには手が震えた。

 一つ深呼吸。

 落ち着こう。動揺しているところを見せちゃいけない。

「よしっ」

 平常心を取り戻し、いつものような笑顔を浮かべて、ドアノブをひっぱり、

「あれ?」

 ドアは開かなかった。

 合鍵なんてものを持っていないから、隆二か京介、どちらかが必ず家にいて、家にいるときは鍵を開けっ放しにしていることが多いのに。

 仕方なしにチャイムに指を伸ばす。そこから、腹立ち紛れに連打した。

 せっかく覚悟を決めたのに、なんというか、出鼻をくじかれた気分だ。なんでこう、いちいち人の神経を逆撫でするようなことするかね、あいつは。

 返事はない。テレビの音はするから、いるとは思うんだが、居留守か。

『京介さん』

 そう思っていると、ひょいっとマオがドアから顔を生やした。

「マオちゃん」

『ごめんね、隆二、今お出かけしてるの』

 本当にすまなさそうな顔をマオはする。

『コンビニだからすぐ帰ってくると思うんだけど』

「あーそう。そっか」

 コンビニ行くのに律儀に鍵かけていくなよ。どうせ盗まれるようなもの持ってないくせに。

 仕方ない、帰って来るまで待つか、とドアに背を預ける。

『ごめんねー』

「マオちゃんが悪いんじゃないよ」

 そう言って微笑みかけ、

「あ、そっか」

 気づいてしまった。

 何もここで隆二を待つ必要はないじゃないか。隆二が居ない、それは好都合じゃないか。

『京介さん?』

 不思議そうなマオの声。

 握った鞄。

 今ここで、実行に移そう。それが一番、賢いやり方だ。

「マオちゃん」

 上半身だけドアから生やした、マオの手を掴む。

『……京介さん?』

 訝しげなマオの声。

 怯えさせてしまうことは本意ではない。それでも、どこか顔が強張ってしまう。

「ちょっと付き合って欲しいんだけど。外行こう?」

『えっと。でも、あたし、お留守番してないと。隆二と約束したから』

 マオが困ったような顔をする。本能的に何かを感じとったのか。軽く身を引き、京介から距離をとろうとするのを、

「なんで俺がここに来たのか、説明するよ」

 ずるい言葉で引き止めた。

「俺がここに来た理由、隆二知りたがってるんじゃない?」

 これじゃあまるで、君子に出てくる悪人だ。マオにとって一番魅力的に聞こえる言葉で誘惑する。

「教えたら、隆二が褒めてくれるかもよ?」

 マオは少し躊躇ったあと、

『ちょっとなら、いいよ』

 頷いた。

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