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変態娘は凄い人?!

すみません!!

三話では終わりませんでした(-_-;)


あと一話でラストの予定です

 宰相殿下は文官ながらにも早馬に跨り、三人の精鋭武官を連れ小麗のいる理州へと急いでいた。理州は帝のおわす都から馬を飛ばして四日ほどの場所にある。

 馬に振り落とされないように捕まりながら、宰相殿下は考えた。

 なぜ文官の俺がこんな事をしているのだろう。

 俺が都に居なくては、政が滞るのは判り切っている。

 たかが女一人、都から出ていっただけだ。

 一国と、たかが女、どちらかを重視すべきかは考えるまでも無い。

 ―――いや、たかが女ではなかったな。

 小麗は盗人だ。盗人には刑を与えなければいけない。

 しかも、この俺のものを盗んだ大罪人だ。被害者である俺自らが刑を与えなければ―――!




 山道を駆け抜ける早馬にしがみ付き、宰相殿下は小麗の事を二妃に聞きに行った事を思い出した。

 一年も纏わりつかれていたのに、名前と二妃付きとしか知らなかった小麗。のされた護衛達の事もあり、彼女の事をどうしても知りたかったのだ。



 帝の二番目の妃。通称、二妃。彼女は理州の大諸侯、武将を輩出する事で有名な張本家の娘だ。帝の一番上の叔母である紫瑶(しよう)の夫の兄の子、つまり姪でもある。

 五十に差し掛かろうとは思えない若々しい美貌を持つ彼女は、檜扇を顔にかざしてその顔をめったに晒す事はない。

 彼女の顔を知る者は、帝と女官達そして彼女の子供達のみだった。

 宰相殿下は、下座から垣間見た二妃の顔に、己の顔を凍りつかせることになった。



「あらあら宰相殿がいらっしゃるなんてお珍しい。もしかしたら、小麗の件かしら。あの子ったら、護衛を散らしてお部屋に侵入したそうですね、私からお詫びに向かおうと思っておりました。……あら? 宰相殿、お顔が真っ青ですよ? そんなに酷い事をしたのかしら」

「……いえ、そこまでは。二妃様、ひとつ伺ってもよろしいでしょうか」

「はい、どうぞ? 人払いをした方がいいかしら?」



 宰相殿下は首を横に振り、そのままで、と言うと、二妃の顔をまじまじと見た。

 老いても輝きを失わない黒目がちな瞳。あまり高くなく大きすぎない鼻梁。顎のまろやかな形は、どことなく見知った人のそれと同じだった。弧を描く口元も似ている。

 ゴクリ、と音を立てて唾を飲み込むと、珍しく慌てている自分を心の中で叱咤し口を開いた。



「二妃様と小麗はどのようなご関係でしょうか。……この一年、小麗は私の側に虫の如く張り付いておりました。二妃様付きの女中と思っておりましたが、護衛の件を考えると疑問が残ります。恐れながら、檜扇の隙間から拝しました二妃様のご尊顔を思うと、小麗は……」


 口上が達者な宰相殿下が珍しく言い淀んだことに、二妃は檜扇を音を立てて閉じると、我慢ができないとばかりに声を出して笑った。二妃付きの女官も同様に笑いだした。

 いきなり笑われた宰相殿下は、意味がわからない様子で狼狽しながら周囲を見回すばかりである。



「一年経って(ようや)く小麗に興味をもってくださったのですね。小麗は、私の従兄弟の子、つまり紫瑶叔母様の孫なのです。うふふっ、親戚だけあって、似ておりますでしょう? ……小麗は、理州で武将として名を馳せておりましたが、物騒なこの後宮を案じて叔母が私の元へと遣してくれたのです」

「……武将」

「ええ、小麗の姉―――凛麗は後宮で護衛官をいたしております。我が一門は宰相殿もご存じなように関所を守る為に武に力を入れております。宰相殿にお熱の小麗も、いつかは姉と同じく後宮護衛官とする予定だったのですが、彼女の父が州牧と縁談をまとめてしまったのですよ。……宰相殿と親しくなれたと、小麗は喜んでおりましたのに、嘆かわしいことです」



 袖で涙を拭う仕草をする二妃を見ていると、私室に侵入してきた小麗の姿が被った。

 不意に抱きしめたい衝動に駆られた、何かを我慢して小さく震える肩。

 涙を溜めていたのに、流す事をよしとしなかった瞳。

 寝込みを襲った末に、別れ際で全て過去形で愛を説き、桃色の小さな唇をつかって別れを告げた小麗。

 彼女が居なくなると知った今は、匂い嗅ぎや物品収集など変態的態度すら許容できてしまう。

 逆に、いないと考えると落ち着かない。

 宰相殿下の心の天秤が、再び揺れ動いた。

 少しずつだが、小麗の方へと傾いている。一滴の雫が器に溜まる様に、いつの間にか宰相殿下の心の天秤にも小麗に対しての想いが溜まっていたようだ。



「―――二妃様、婚礼の日取りはいつでしょうか」




 気付けばそう口にしていた。

 はたまた気付けば、政を放り投げて護衛を連れて早馬で山道を駆けていた。

 いくつもの山を越え、野を越え、幾日も山の中を駆け抜けて、一心不乱に小麗目掛けて駆けている自分がいる。



 小麗、政を放り投げる程俺の心を盗み取った、匂いフェチの変態女。

 勝手に人の心に踏み込んでおきながら、別れなんぞ許さん。

 州牧の妻になるだと? そんな事は宰相の権限を持って潰してくれる。

 

 俺の心を盗み取ったこの罪は重い―――。


 



 

 

 

 

 



 

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