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別れは強烈に

この短い文を投稿するまでに、三回ほどデータが飛びました(-_-;)

ムキーッ!! と脳みそを沸騰させつつ、思い出しながら書いたのですが、支離滅裂になっていましたらごめんなさい。


その際は、やんわりと「変だ」とご指摘いただけると助かります。

 通常では一般の女中などは入る事が許されない宰相殿下の私室。

 朝日も昇りきらない程の早朝である今現在、その部屋の中では、宰相殿下が夢の中をまどろんでいた。

 程良い肌触りの寝具に包まれ、心地よい夢の中を旅していたのだ……。

 ―――そう、小麗が大きな箱を抱えて入ってくるまでは……。


「一応聞いてやろう。……何の用だ」


 眠気眼を擦りながら、のそりと寝台から身を起こす。いきなり部屋に侵入してきた小麗に対し、眼光鋭くなってしまうのはしょうがない事。

 ましてや今は夜が明ける前で、朝日が山の稜線に顔を出すか出さないかの時間だ。普通の人間ならば、まだ寝ている時間である。誰かが部屋の扉を開ける音で目が覚めなければ、未だ寝ていた。

 全く返事をしない小麗に苛々して、かすれた声で己の不機嫌度を表した宰相殿下だが、当の小麗はというと、寝台の中で座る宰相殿下を凝視していた。



「今一度聞いてやろう。……こんな時間に何の用だ」



 睡眠を邪魔されたがゆえに不機嫌な彼の普段よりも低い声が、物言わぬ目の前の娘に苛立ちを募らせて一層低くなった。流れる髪を鬱陶しげに掻きあげて再び小麗に声を掛けたが、彼女は凝視したまま微動だにしない。

 彼女の雰囲気的に、暗殺を企てている風でも無い様子だ。ただ、寝台に座る男を眉尻を下げてひたすらに凝視していた。桃色の小さな口からは、なぜだかよだれが垂れている。

 そんな彼女に疑問を持ちながらも溜息を吐くと、目の前の変態……いや、痴女を部屋から追い出すべく、寝台から降りようとした。

 凝視していた対象が動いた為か、小麗は我に返った様子で、手に持っていた大きな箱を勢いよく床に落とすと胸の前で両手で指を絡ませるように組み合わせた。

 恍惚とした表情を浮かべながら走り寄り、寝台に座り足を降ろしている宰相殿下に飛びついた。

 その勢いで、二人は寝台に倒れ込んだ。

 


「―――ああっ! 麗しの宰相殿下の寝顔を脳裏に焼き付けてから実家に帰ろうと思っていたのですが、寝起きの色気が堪りません! 潤んだ瞳に、寝起き故の紅潮した肌っ! 寝乱れた夜着から見える胸板……っ! 思い出にこのまま押し倒して行きますっ!」

「だぁ~っ、やめぃ! 離れろっ! ……だいたい、何でお前がこの部屋に入ってこれるんだ! 外の護衛はどうした!?」

「うふふっ……さあ? 寝てましたよ。ささっ、熱ーいキッスを!」

「ねて……っ?! って、やめんかっ!」



 小麗の口を手で押し返しながら、もう一方の手で肩を掴んでこれ以上近づけないように抑える。

 女を押し倒すならまだしも、押し倒されるのは趣味ではない。第一、小麗は人妻になるのが決まっているのだ。そんな女に手が出せるわけない。

 しかし、彼女の力は普通の女性とは規格外のものだった。

 馬鹿力といっても過言ではない力で宰相殿下を抑え込むと、顔をゆっくりと近づけた。

 コレにはさすがの宰相殿下も焦った。


「―――お前は、結婚が決まっているのに、そんな事ができる女だったのか! 見損なったぞ、小麗!!」

「―――っ!!」



 宰相殿下の焦りの一言に、小麗の肩が揺れて瞳に陰りが浮かんだ。それは、明らかに傷ついたと表わす表情だった。

 その表情に、宰相殿下は言い過ぎたか、と少し後悔し油断をした。  

 一瞬の油断を突き、小麗の口が弧を描くと同時に、桃色の小さな口から囁きが落とされた。

「隙あり、ですよ?」

「―――はぁ?! んんん~~っ!!」

 性急に重なる唇に、宰相殿下は「止めろ」と言ったつもりだった。

 しかし、ぴったりと合わさった唇からは声にならず、逆に小麗の妙技に翻弄される事となった。


 暫くの間小麗は宰相殿下の薄い唇を堪能すると、満足気に唇を放した。

 彼女は薄暗い部屋の中で宰相陛下を見降ろし、蠱惑的な表情を浮かべると、彼の身体にまたがりながら両手を合わせて、何かを拝むような体制をとった。


「ごちそうさまでした」


 呆然とする宰相殿下にその一言を言うと、寝台から飛び降り、足早に部屋を辞そうと扉の前へむかった。しかし、先ほど持ち込んだ箱の存在を思い出したのか、寝台へと視線を向けた。


「コレ、宰相殿下から拝借した品々です。手袋とか上衣とか手巾や、使用済みの箸と靴など諸々入ってます。さすがに持って帰れないのでお返しします。……宰相殿下、私の名前を覚えてくれて嬉しかったです。大好きでした。愛してました。この一年の愛しい想い出と、唇の熱を糧に生きていきます。あまり長居をするとムラッとくるので、もう行きますね。―――さようなら、です」


 『大好きでした。愛してました』全て過去形になっていたのは気になったが、最後のさようならの別れの言葉に、不思議と胸の奥がざわめいた。まるで、心の天秤が揺れているようだ。

 泣きそうな声をしているのに、宰相殿下に向けられているのは、晴れ晴れとした笑顔である。しかし、彼は見てしまった。

 小麗の黒い瞳に涙が浮かんでいるのを。その肩が寂しげに、そして不安げに揺れているのを。

(―――行かせたくない。)

 どうしてそう思ったのか、解らない。しかし、咄嗟に腕を伸ばして寝台を飛び降りると、小麗が扉を開けるのを阻止すべく走り寄った。

 小さな肩を抱きしめてやりたい。不安を払しょくしてやりたい。

 普段では脳裏に過ぎりすらしないその言葉が頭の中に浮かび、心の奥底にくすぶる炎の様な熱が、宰相殿下を突き動かした。



「小麗っ!」



 小麗の華奢な腕を掴むと、その身体を反転させ掻き抱こうとした。

 ―――だが、ソレは叶わなかった。

 突如襲った鳩尾への衝撃で、宰相殿下の動きが止まった。


「……っぅ」


 そろり、と視線をうごかすと、彼の腹部には小麗の細い足がめり込んでいた。

 ……そう、ひざ蹴りされたのだ。

 思いもよらなかった攻撃に、宰相殿下は彼女の腕を離して崩れ落ちた。

 そんな彼に向かい、小麗の桃色の唇からは至極申し訳ない声音で音が紡がれた。


「痛くしてごめんなさい。……これ以上、宰相殿下と触れあうと我慢の堰が切れてしまいます。家に帰らなきゃいけないのに、帰れなくなってしまいます。宰相殿下にもっと抱きついて、匂いを堪能して、押し倒して既成事実作って、って考えてしまいます。―――だから、これでお別れなのです」


 さよなら、と言葉を残して、涙を一粒こぼしながら颯爽と部屋を走り去る小麗。

 痛む腹を押さえながら、なおも追いかけようとヨロヨロと部屋の扉を抜ける。そして、宰相殿下は扉の外の光景を見て驚愕した。



 宰相殿下はこの国の帝の末子、つまり公子である。そして、この国の頭脳である宰相だ。

 そんな彼の命を狙う者は多い。だから、部屋の前には常に精鋭の護衛を置いている。一人ではなく、最低五人置くようになっている。

 なのに、だ。

 その精鋭の護衛達が、白目をむいて倒れているではないか。

 武器を抜く暇も無かったのか、油断していたのか、皆剣を腰に差したままだ。

 先ほど、小麗は「寝てました」と言っていなかっただろうか。これはどう見ても、のされたように見える。



「小麗……」



 二妃付きの女ならば身元は確かなはずだ。

 しかし、宰相殿下は彼女の事を何も知らなかった事に、今更ながら気付いた。



 





 

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