猪突娘は変態ちっく
シリアスな話を書いてたら、コメディタッチを書きたくなりました。
二、三話完結予定。
苦笑スキルを発動してお読みくださいませ(^.^)
感想お待ちしてます☆
緑の月、五日、晴れ。
今日は吉日だった! 幸運な事に、麗しの宰相殿下の手袋を手に入れる事ができたから。
しかも、宰相殿下直々に私にくれたのです。何たる僥倖!
手袋から香る宰相殿下の伽羅の香にメロメロです。よだれが止まりません。
更に幸運は重なり、何と! 明日は宰相殿下直属の洗濯女中のお手伝いをする事になりました!
宰相殿下の服に埋もれ、宰相殿下の使った寝具に身を包んだりと、宰相殿下の香りに包まれ放題な日です! 肌にじかに触れる下着だって障り放題です!
明日の事を想像すると、興奮して鼻血が噴き出しそうです。
ああ、宰相殿下はどのような下着を穿いて―――
「ちょっと、小麗。あんたまた変態日記書いてるの?!」
「お姉ちゃん、勝手に読んどいて変態日記とは失礼な! コレは純粋に愛しの宰相殿下への想いを綴った日記なんです!」
「……下着を想像する時点で変態でしょうよ」
ハア、と深いため息を吐くと、小麗の姉―――凛麗は一通の手紙を日記の上に置いた。
少し高そうな料紙である。宛先は小麗で、差出人を見ると小麗と凛麗の父からだった。
小麗は勢いよく封を破ると、中身に目を通した。手紙の文を追う視線が険しい。けれどもその視線は次第に悲しみの色が浮かび、最後まで読むと手紙を真っ二つに裂き、丸めて球にして窓の外へと投げ捨てた。手紙だった球は放物線を描き、夜の木々へと吸い込まれていった。
「何が書いてあったの? 手紙を捨てるなんて今までに無かったじゃない」
「縁談が調ったから直ぐに帰れって……」
「ええっ?! 私を差し置いて、何でアンタなのよ!」
「……宰相殿下の仕事の邪魔になるから、山奥に嫁に行けって……。ああっ! 愛しの宰相殿下のお側を離れるなんてぇ~!」
小麗の嘆きは夜の木々に木霊した。
緑の月、六日、昼下がり。
多くの女中が公休日のこの日、この国の頭脳である宰相殿下は、建物一階にある執務室で帝に提出する書簡を綴っていた。
サラリと流れる黒髪を物憂げに掻き上げながら、予算案や新しい法律の制定に考えを巡らせた。
(こんなに静かに仕事ができるのは、久しぶりだ)
一年ほど前から、ばったり会ったがゆえにじゃれた子犬の様に飛びついてくるようになった小麗。
宰相殿下は、この国を統治する帝の妾腹から生まれた一番末の子供である。しかし小麗は、そんな身分を持つ宰相の身分に臆さずに彼に突進する希少な女である。……いや、変態珍獣ともいえるかもしれない。
時には黒い瞳を潤ませて、変態的に匂いまで嗅いで来る。そんな彼女が休みと聞いて、鼻歌交じりで仕事を片付けていたのだ。
しかし、その鼻歌は中庭を歩く耳に聞きなれた女中の声で凍りついた。
「宰相殿下のお洗濯~! 洗濯最高! ビバお洗濯! ……ああっ! この上着は宰相殿下がお茶を噴きこぼした時の染み! あ、コレには墨が。……さぁ~て、下着はどれかなぁ?」
(……下着!?)
恐る恐る中庭を覗き込むと、小麗が宰相殿下の衣類が入っていると思われる籠を漁っていた。
服を漁るその顔はうっとりとして、さながら変態である。……いや、痴女かもしれない。
宰相殿下は目を見開くと、文官とは思えない動きで執務室の窓を跳び越え中庭に降り立った。神速とも言える早さで足を動かし、小麗が漁る籠を思いっきり蹴り飛ばした。
籠は大きく弧を描き、生い茂る樹木の上に引っ掛かった。もはや専門の職人で無ければ取る事が不可能な高さである。
宰相殿下は樹の上にぶら下がる籠を視界にいれ、自分の衣類を変態から守った事に、大きく頷いた。
小麗はあんぐりと口を開け放ち、名残惜しそうな視線を送っていた。―――が、地面に散乱する衣類を視界に入れると嬉々として腕を伸ばした。
「私のコレクション!」
「人の物を勝手に収集するな変態! それは窃盗だ!」
小麗よりも先に衣類を掴んだ宰相殿下は、名残惜しそうな視線を凍てついた黒い双眸でいさめた。
いつもならこの視線で諦める彼女だが、今日ばかりは違った。何故か食い下がったのだ。
「じゃあ、ください! 『愛しの宰相殿下コレクション』の最後の一品にしますから、乙女の夢である宰相殿下の下着をください!! あ、因みに赤いの希望です」
「やれるわけないだろうが、阿呆! 第一、何故お前が俺の衣類を持っているんだ? 洗濯女中はどうした!」
「愛しの宰相殿下に会いたい為に、無理やり変わってもらいました。やっぱり愛しい人の顔は毎日みなくちゃですね! 宰相殿下も私の顔を見ないと寂しいでしょう?」
「誰が愛しい人だ。だ、れ、がっ!!」
「私ですよ。わ、た、し! 大好きです! 愛してます!! この一年、毎日宰相殿下のお顔を見て、その香りを嗅ぎ続けて、気付いたら愛してました!」
いつものように、じゃれた犬の様に宰相殿下の胸に飛び込む小麗。
最初の頃は固まって微動だにしなかった宰相殿下だが、今は胸中に飛び込んだ彼女をあしらう技を身に付けた様子だ。
宰相殿下は上着を脱ぐと、ソレを振り回し遠心力を付けて遠くへと投げ飛ばした。
「ああっ! 宰相殿下の上着~!!」
犬が獲物を追いかけるように、風に乗って飛んでいく上着を追う小麗。
彼女が離れた瞬間、地面に散乱している服を神技でかき集めると、小麗とは逆の方角へとその場を走り出した。
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あの洗濯籠の一件以来、小麗はぱたりと宰相殿下の前に現れなくなった。
最初の内は清々していた彼だが、日が経つにつれ段々と苛立ってきた。
(なぜだ。何故いきなり俺の前に来なくなった? こうも姿を見ないと、逆に落ち着かないじゃないか!)
二妃の所には出仕しているのは聞いている。なのに、宰相殿下の前には現れないのだ。
執務室で仕事をこなしていた宰相殿下は、悶々と考えながら書簡をまとめていた。
そんな時だ、白い髭とつるピカ頭が眩しい史部長官からとある噂を耳にしたのは。
「知っておりますかな、宰相どの。いつも貴殿に張り付いている二妃付きの小麗ですが、里に帰り結婚をするそうですぞ。……何でも理州州牧が彼女を見染めたとかで、急きょ調った縁談だそうです」
「…………ふぅん? ま、あの変態女もそれなりにしてれば見れるからな。……しかし、もの好きもいるのだな」
「……おや? 宰相どの、文字が乱れておりますぞ」