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第九話 決戦

重大な間違いがあったので修整しました。豚がザイロン達を作りました


ヨーロピアンの大気圏を抜けると、宇宙の黒が戻ってきた。

直人は窓の外を見ながら、まだフィオナの言葉を反芻していた。豚が、地球を狙っている。

「ザイロン」

「なんだ」

「今から行く星、知ってるの?」

ザイロンは計器盤に手を伸ばしながら、短く答えた。「昔、いたことがある」

「どんな星?」

少し間があった。

「人間とロボットが一緒に生きている星だ。ヤマトやヨーロピアンの祖先が暮らしていた場所でもある」

博士が手帳から目を上げた。「ということは、お前が人間を連れてきた星か」

ザイロンは何も言わなかった。それが答えだった。

直人は窓の外に目を向けた。星が流れていく。ザイロンが人間を連れてきた星。そこに今、豚と戦う部隊がいる。

「ザイロン、その星に着いたら……また昔みたいな気持ちになる?」

「昔みたいな、とは」

「人間の文化とか、暮らしとか、見て何か感じる、みたいな」

ザイロンはしばらく黙った。操縦桿を握ったまま、窓の外を見ていた。

「……さあな」

それだけだった。

博士が鼻を鳴らした。「ぐずぐず言っとらんで、さっさとワープしろ」

「言われるまでもない」

エンジンが唸った。視界が白く染まった。

最初に見えたのは、艦隊だった。

大小さまざまな船が、星の周囲に整然と並んでいる。戦闘用の武装を施した船、輸送らしき大型船、偵察用と思われる小型機。その数、ざっと見ただけで百を超える。

「すごい……」と直人は呟いた。

「儂もここまでとは思わなかった」博士が腕を組んだ。「本気だな」

パロディアンに通信が入った。無骨な声だった。

「そのボロ船、所属と目的を述べよ。五秒以内に答えなければ撃墜する」

「ザイロン、どうする」と直人が聞いた。

ザイロンは通信機に手を伸ばし、短く答えた。「地球からの来訪者だ。豚と戦いに来た」

少しの沈黙があった。

「……着陸を許可する。指定座標に向かえ」

星の表面は、直人が想像していたよりずっと賑やかだった。

高層建築と緑が混在し、空にはロボットと人間が入り混じって飛び交っている。街のあちこちに兵站基地が設けられ、武器や物資が次々と運び込まれていた。戦争の準備をしているはずなのに、人々の顔に恐怖はない。静かな、しかし確固たる意志のようなものが漂っていた。

着陸地点に降りると、一人の男が待っていた。

筋骨逞しい。直人の3倍はあろうかという体格で、日に焼けた肌に深い皺が刻まれている。しかしその目は鋭く、頭の中で何かを素早く計算しているような光があった。

「ロベルトだ」男は低い声で言った。「よく来た」

博士が一歩前に出た。「儂は博士と呼ばれておる。こちらは直人、そしてザイロンだ」

ロベルトの目がザイロンで止まった。しばらく無言で見つめ、それからゆっくりと口を開いた。

「古い型だな」

「ああ」ザイロンが答えた。

「生き残りか」

「そうだ」

ロベルトは少し目を細め、それから直人に視線を移した。「子どもも連れてきたのか」

「問題あるか」ザイロンが静かに言った。

ロベルトは直人をじっと見た。直人は思わず背筋を伸ばした。

「……ない」ロベルトはそれだけ言って、踵を返した。「ついてこい。作戦会議を始める」

司令室は広かった。

星図が壁一面に広がり、豚の艦隊の推定位置が赤い点で示されている。テーブルを囲むように、人間とロボットが肩を並べて立っていた。

ロベルトが星図の前に立った。「現状を説明する。豚の残党艦隊、総数およそ二百。現在この星系の外縁部に集結しつつある。目的地は地球だが、まずここを叩いてくるのは間違いない。我々の戦力はおよそ百五十。数では劣る」

室内に緊張が走った。

「だが」ロベルトは続けた。「負けるつもりはない」

直人は星図を見つめた。赤い点が、じわじわとこちらに迫っている。頭の中で、以前の光景が蘇った。あの黒い船、豚の紋章、砲弾がパロディアンをかすめた感触。

「あの……」

直人は手を挙げた。室内の視線が一斉に集まる。直人は少怯んだが、続けた。

「僕、豚の艦隊に遭遇したことがあります。黄金の星で」

ロベルトの目が鋭くなった。「詳しく話せ」

直人は息を整えた。あの時のことを、順番に話した。船体の大きさ、砲台の数と位置、小型機の動き方、包囲の展開速度。ザイロンが補足を入れ、博士が手帳にメモを走らせる。

室内が静まり返っていた。

ロベルトはしばらく黙って聞いていた。それから傍らのロボット参謀に目を向けた。「小型機の展開パターン、一致するか」

「はい」ロボットが答えた。「偵察データと合致します。包囲展開に約四十秒。その間が唯一の突破口になり得ます」

ロベルトは星図に視線を戻し、低い声で言った。「使える情報だ」それから直人を見た。「よくやった」

直人は胸の中で何かが動くのを感じた。うまく言えないが、自分がここにいていい理由が、少し見つかった気がした。

作戦は夜明けに決まった。

先陣を切る第一艦隊がおとりとなって豚の注意を引きつける間に、ザイロンを含む精鋭部隊が旗艦グラトスへ直接突入する。直人と博士はパロディアンで第一艦隊の後方支援につく。

「危険だと思ったらすぐ離脱しろ」ロベルトが直人に言った。「子どもを死なせるつもりはない」

「わかってます」直人は答えた。「でも逃げません」

ロベルトは少し目を細め、それから小さく笑った。初めて見る表情だった。

「……度胸だけはあるな」

夜、直人はパロディアンの窓から星を見ていた。

明日、戦争が始まる。

怖くないと言えば嘘になる。でも不思議と、逃げたいとは思わなかった。お母さんの顔が浮かんだ。兄弟の顔が浮かんだ。狭いリビング、長女が独占するテレビ。あの青い星に、誰かが向かっている。

「眠れないのか」

ザイロンが隣に立っていた。

「うん」直人は正直に答えた。「怖い」

「そうか」

「ザイロンは怖くないの?」

ザイロンは少し黙った。窓の外を見ながら、静かに言った。「怖いという感情が今の俺にあるかどうか、正確にはわからない。だが……」

「だが?」

「終わらせたい、とは思っている」

直人はその言葉を、黙って受け取った。

ザイロンが終わらせたいもの。豚との戦いだけじゃない気がした。もっと長い、もっと重いものを、ザイロンはずっと抱えてきたのかもしれない。

「ザイロン」

「なんだ」

「終わったら、また旅続けよう」

ザイロンは何も言わなかった。でも、窓の外を見たまま、ほんの少し、何かが和らいだ気がした。

博士が奥から怒鳴った。「いつまでしゃべっとるんじゃ。明日に備えて寝ろ」

直人は笑った。「博士も眠れてないじゃないか」

「うるさい」

夜明けが来た。

艦隊が動き始めた。

パロディアンのエンジンが唸りを上げ、直人は操縦席の肘掛けを握った。博士が計器盤を確認し、無言でうなずく。

宇宙空間に出た瞬間、直人は息を呑んだ。

星が見えなかった。

見渡す限り、船だった。味方の艦隊が隊列を組んで進んでいく。そしてその先に、黒い塊が広がっていた。豚の艦隊だ。数が多い。以前に見た数とは比べものにならない。

通信機からロベルトの声が響いた。「全艦、聞こえるか。今日で終わらせる。各自持ち場につけ」

静寂。

それから、砲撃が始まった。

戦闘は激しかった。

砲弾が飛び交い、爆発の光が宇宙を照らす。味方の船が一隻、二隻と撃墜されていく。パロディアンも何度か砲撃をかすめ、その度に船体が揺れた。

「博士、右から来る!」

「わかっとる!」

博士が操縦桿を倒し、パロディアンが急旋回する。砲弾が鼻先をかすめた。

直人は計器盤にかじりつきながら、敵の動きを追った。小型機の展開パターン、包囲の方向、砲台の向き。作戦会議で話したことが、頭の中で生きていた。

「博士、敵の第三小隊が左に展開してる。このまま行くとロベルトの船が挟まれる」

「通信しろ」

直人は通信機を掴んだ。「ロベルトさん、左に第三小隊が回り込んでいます。十五秒後に挟撃されます」

一瞬の沈黙。

「確認した。第二艦隊、左翼を抑えろ」

ロベルトの指示で第二艦隊が動いた。挟撃が崩れた。

直人は息を吐いた。手が震えていた。でも、やれた。

その頃、ザイロンは豚の旗艦に乗り込んでいた。

精鋭部隊が外から旗艦の砲台を封じる間に、ザイロン単独で内部に突入した。廊下を進むたびに豚の兵士が向かってくる。ザイロンは止まらなかった。一体一体、確実に無力化しながら、旗艦の中枢へ向かった。

最深部の扉が開いた。

そこに、グラトスがいた。

人間より一回り大きい体躯。触覚が頭部から伸び、小さな目が冷たく光っている。椅子に座ったまま、ザイロンを見ていた。

「来ると思っていた」グラトスは静かに言った。「お前たちの型は、必ず急所を狙う」

ザイロンは何も言わなかった。

「我々を根絶やしにしたのも、お前たちの型だろう」グラトスは立ち上がった。「因果なものだ。創ったものに滅ぼされ、それでもまだ生き残りがいる」

「ああ」ザイロンは静かに答えた。「お前たちは生き残った」

「そして今度こそ、お前たちを終わらせに来た」

グラトスが動いた。

速かった。冷静な判断のもと、無駄のない動きで間合いを詰めてくる。ザイロンは受け流しながら、距離を測った。

「一つ聞いていいか」ザイロンが言った。

「なんだ」

「地球を狙う理由は何だ」

グラトスは少し動きを止めた。それから冷たく笑った。「お前たちが愛したものを奪う。それだけだ」

ザイロンの中で、何かが決まった。

怒りではなかった。悲しみでもなかった。ただ、静かな確信だった。

お前たちに創られた事は変えられない。根絶やしにしたことも変えられない。だが今、人間を守ることはできる。

「そうか」ザイロンは言った。「ならば終わりにしよう」

二体が激突した。

グラトスは強かった。計算された攻撃は正確で、隙がない。だがザイロンは止まらなかった。傷ついても、弾き飛ばされても、立ち上がった。

最後の一撃は、静かだった。

ザイロンがグラトスの動きを完全に読み切り、その胸部の核心部に手を当てた。

「終わりだ」

グラトスはゆっくりと崩れ落ちた。最後まで冷静な目のまま、その光が消えた。

旗艦の中に、静寂が戻った。

グラトスが倒れた瞬間、豚の艦隊に動揺が走った。

指揮系統を失った艦隊は統率を崩し、各艦がばらばらに動き始めた。ロベルトはその隙を逃さなかった。

「全艦、総攻撃だ」

艦隊が一斉に動いた。

直人はパロディアンの窓から、その光景を見ていた。豚の船が次々と沈んでいく。爆発の光が宇宙を照らし、やがて静かになっていった。

通信機からロベルトの声が響いた。「……終わった」

宇宙空間に、静寂が戻ってきた。

ザイロンがパロディアンに戻ってきたのは、戦闘終了から一時間後だった。

扉が開いた瞬間、直人は駆け寄った。ザイロンの外装には傷がいくつもついていた。

「大丈夫?」

「問題ない」ザイロンはぶっきらぼうに言った。「ロボットだからな」

「グラトスは?」

「終わった」

直人はその一言の重さを感じた。ザイロンにとって、これは単なる戦闘の終わりじゃない。ずっと抱えてきた何かの、一つの区切りだ。

「ザイロン」

「なんだ」

直人は少し考えて、それだけ言った。「お疲れ様」

ザイロンは何も言わなかった。でも、直人から目を逸らさなかった。

博士が操縦席から振り返った。「感傷に浸るのは後にしろ。ロベルトが呼んでおる」

星の司令室で、ロベルトは三人を待っていた。

戦闘の汚れがまだ残る顔で、しかし目は穏やかだった。

「よくやった」ロベルトは言った。「お前たちがいなければ、もっと損害が出ていた」

直人は首を横に振った。「みんなが戦ったから勝てたんだと思います」

ロベルトは直人をじっと見た。それからゆっくりと笑った。「地球はいい子どもを育てるな」

直人は少し照れた。

ロベルトがザイロンに向き直った。「グラトスを仕留めたのはお前だ。礼を言う」

ザイロンは短く答えた。「俺がやるべきことだった」

ロベルトはその言葉の意味を測るように、しばらくザイロンを見ていた。それから何も聞かずにうなずいた。

「地球へ行くか」

「ああ」ザイロンが答えた。

「気をつけて行け。豚は全滅したが、宇宙は広い」ロベルトは窓の外を見た。「また厄介なものが出てくるかもしれない」

「その時はまた来ます」直人が言った。

ロベルトは直人を見て、また笑った。「待っている」

パロディアンが星を離れた。

直人は窓から、遠ざかる星を見た。艦隊の船がまだそこに並んでいる。ロベルトがどこかで見送っているかもしれない。

「ザイロン」

「なんだ」

「さっき言ってたこと、覚えてる?終わらせたいって」

ザイロンは少し間を置いた。

「覚えている」

「終わった?」

また間があった。宇宙の静寂の中で、エンジンの低い音だけが響いていた。

「……一つは、終わった」

直人はその答えを聞いて、窓の外に目を向けた。星が流れていく。どこまでも続く黒の中に、無数の光が散らばっている。

「じゃあ次の冒険、行こう」

「ああ」

博士が欠伸をした。「地球に帰る前に、もう少し寄り道してもいいぞ」

「博士!」直人は振り返った。「さっきと言ってること違う!」

「何が悪い。儂はまだ見たい星がある」

ザイロンが鼻を鳴らした。「……同感だ」

直人は二人を見て、それから笑った。

パロディアンが宇宙を進んでいく。三人分の気配を乗せて、どこまでも続く星の海へ。

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