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第七話 ヨーロピアンの風


着陸の衝撃は、拍子抜けするほど穏やかだった。

エンジンが静かに唸りを収め、パロディアンが石畳の上にそっと降り立つ。直人が窓に顔を押しつけると、そこには見たこともない景色が広がっていた。

石造りの建物が並んでいる。丸い屋根、尖った塔、蔦の絡まった壁。通りには色とりどりの布が張り巡らされ、木製の台に果物や布や見慣れない道具が並んでいる。人々が行き交い、笑い声や呼び込みの声が重なり合って、賑やかな空気を作っていた。

「市場だ」と直人は呟いた。

「ああ」ザイロンが窓の外を眺めながら言った。「悪くない星だ」

博士はすでにハッチへ向かっていた。「ぐずぐずするな。行くぞ」

石畳は思ったより歩きにくかった。

直人はきょろきょろしながら市場を進んだ。露店に並ぶ果物は見たことのない形をしていて、匂いも甘いのか酸っぱいのかよく分からない。隣の店では、銀色の細工物が山積みになっていた。

博士はとっくに見えなくなっていた。気づいたら部品らしきものを売る露店の前で、店主と何やら身振り手振りで話し込んでいた。言葉が通じているのかいないのか、博士には関係なさそうだった。

直人は一つの露店の前で足を止めた。木の実のような食べ物を串に刺して焼いている。いい匂いがした。

「あの……これ、ください」

店主の男が首を傾けた。言葉が通じていない。

直人はポケットを探ったが、この星で使える金なんて持っていない。どうしようと思っていると、隣からぼそりと声がした。

「こいつは地球という星から来た。あの食い物に興味があるそうだ」

ザイロンだった。

店主の目が丸くなった。それからにっこりと笑い、串を一本差し出してきた。直人が受け取ると、男は何か言った。

「試食だそうだ。気に入ったら買え、と」

直人は一口かじった。甘くて、少し煙の味がする。

「おいしい」

ザイロンが無表情のまま、それを訳した。店主が嬉しそうに笑った。

それからザイロンが通訳を引き受ける流れになった。

直人が話しかけ、ザイロンが訳す。住民が答え、ザイロンが訳す。ただそれだけなのに、会話はどんどん広がった。布屋のおばさんに地球のことを聞かれ、鍛冶屋のおじさんにパロディアンのことを聞かれ、子どもたちに囲まれて名前を連呼された。

「ナオト、ナオト」と子どもたちが繰り返す。

「なんで名前だけ訳さなくていいんだろうな」と直人が言った。

「名前は名前だからだ」ザイロンが答えた。

直人は笑った。

市場の奥へ進んだところで、音が聞こえてきた。

弦楽器のような音だった。細くて、高くて、どこか哀愁のある音色。人だかりの中心で、老人が一人、目を閉じて弾いていた。

直人が振り返ると、ザイロンが立ち止まっていた。

「好きなの?」

「……昔、似たようなものを聴いたことがある」

それだけだった。直人は何も聞かなかった。ただ二人で並んで、しばらく音楽を聴いた。

市場の端に、石段があった。

その一番下に、老婆が一人座っていた。誰かを待っているような、ただ座っているだけのような。通り過ぎる人々は誰も気に留めない。

直人は足を止めた。

理由はうまく言えなかった。ただ、気になった。

近づいて、隣に座った。老婆が顔を上げた。皺だらけの顔に、穏やかな目をしていた。

直人が何か言おうとした時、後ろから足音がした。ザイロンだった。

「何をしている」

「わからない。でも、なんか気になって」

ザイロンは少し黙った。それから老婆に向かって、何か言った。

老婆が答えた。

「息子を待っているそうだ。もう来ないかもしれないと思いながら、毎日ここに座っているらしい」

直人は老婆を見た。老婆も直人を見た。

直人はうまい言葉が見つからなくて、ただ隣に座り続けた。しばらくして、老婆が何か言った。

「あなたが座ってくれると、少し温かい、だそうだ」

老婆が笑った。直人もつられて笑った。

夜になった。

市場の喧騒が遠ざかり、石畳に三人の影が伸びている。博士は戦利品の部品を抱えて満足そうにしていた。

見上げると、星が多かった。地球よりずっと多い気がした。

しばらく誰も喋らなかった。

「人間はどこへ行っても同じことをするな」

ザイロンがぽつりと言った。

「それって悪いこと?」と直人が聞いた。

少しの間があった。

「…いや」

風が石畳を撫でていった。博士が欠伸をした。遠くで誰かの笑い声がした。

直人は膝を抱えて、星を見続けた。

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