表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/36

第四話 宝の山


廃材処理センターの門をくぐった瞬間、博士が立ち止まった。

山だった。どこを向いても機械の山だ。見たこともない形の装置、巨大な金属の筒、複雑に絡み合った配管、用途の分からない無数の部品。それらが空が霞むほど高く積み上げられ、夕日を受けてぎらりと光っている。

「すごい……」と直人は呟いた。

博士は無言だった。ただ、その目が子どものように輝いていた。

マクシーが得意げに笑った。「でしょ? 好きなだけ見ていいよ」

その言葉が終わるより早く、博士は山の中へ踏み込んでいた。

博士は黙々と廃材を漁り始めた。何かを手に取っては眺め、必要そうなものを脇に置いていく。その動きに迷いはない。何が使えて何が使えないのか、見ただけで分かるらしかった。

直人はその後ろをついて歩きながら、通路の両側を眺めていた。何が必要なのかは分からない。でも、眺めているだけで飽きなかった。形の面白いもの、色の変わったもの、触るとひんやりするもの。一つ一つが何かの物語を持っていそうで、見ていると時間を忘れた。

通路がひときわ狭くなった辺りで、直人の足が止まった。

山の陰に、何かある。

他の機械とは違う。金属の塊なのは同じだが、妙に人の形に近い。両腕らしきものがあり、頭部らしき丸いものがある。全体的に煤けていて、長いこと放置されていたのは明らかだった。

「博士!」

直人は振り返り、大声で呼んだ。「ちょっと来て!」

博士はロボットの前にしゃがみ込み、頭から爪先まで隈なく観察した。関節を動かし、頭部を覗き込み、背面をぐるりと確認する。

「ロボットだな」

「やっぱり」

「かなり古い。だがよく出来ている」博士は立ち上がり、直人を見た。「持っていくぞ」

二人がかりでロボットを引きずり出し、博士が集めた廃材の山の隣に並べた。マクシーが「うわ重っ」と言いながら手伝ってくれた。

廃材の山は、気づけばかなりの量になっていた。

「父さん、お客さん連れてきたよ」

マクシーに案内されて奥へ進むと、作業場の隅に一人の男がいた。大柄だが物静かな佇まいで、古い機械を黙々と分解している。顔を上げると、落ち着いた目で二人を見た。

「ローガンだ。マクシーの父親だ」静かな声だった。「遠いところから来たそうだな」

「左様。儂は博士と呼ばれておる。こちらは直人」

ローガンはうなずいた。それからふと廃材の山に目をやり、「随分集めたな」と言った。

「まだ足りんが、これだけあれば何とかなろう」

「明日ドルトンの作業場に運んでやる。今日は泊まっていけ」

博士は一瞬だけ目を丸くし、それからゆっくりと頭を下げた。「かたじけない」

「その前に僕の作業場見せてあげる!」

家に入ろうとした二人を、マクシーが引き留めた。嬉しそうな顔をしている。

「作業場?」と直人が聞いた。

「そう。ついてきて」

廃材処理センターの端、小さな建物があった。扉を開けると、中には空飛ぶ車が一台、完全に分解された状態で床に広がっていた。エンジン、フレーム、配管、無数の部品が整然と並べられている。

「これ、マクシーが分解したの?」

「うん。内部の機構に不備があったから一度全部バラしたんだ。もうすぐ組み直せると思うんだけど」

博士がすっと前に出た。分解された部品を一つ一つ眺め、エンジンの内部を覗き込み、配管の接続部に指を当てる。

「ここの熱交換システムだが」博士が口を開いた。「こう繋ぎ直してはどうだ。効率が上がるはずじゃ」

マクシーの目が輝いた。「それ、どういう原理ですか?」

「この部品とこの部品の間に……」

二人の会話が始まった。直人は少し離れたところから、分解された車の部品を眺めた。仕組みは分からない。でも博士とマクシーの声を聞いていると、なんだかこの場所の空気が好きだと思った。

夜になった。

ローガンの家の食卓は広くはないが、温かかった。シチューのような料理が並び、湯気が立っている。

「地球というのはどんな星だ」ローガンが静かに聞いた。

「普通の星ですよ」と直人は答えた。「空飛ぶ車とかないし、こんなにすごい機械もない。でも……」

直人は少し考えた。

「食卓はあります。こんな感じの」

ローガンは小さく笑った。珍しいものを見た気がして、直人もつられて笑った。

博士とマクシーは食事中も機械の話をしていた。ローガンはそれを静かに聞きながら、時々短い言葉を挟む。その一言が的を射ていて、博士が「ほう」と唸る場面が何度かあった。

食事が終わり、片付けが済んだ頃には、外はすっかり暗くなっていた。

マクシーに案内された部屋は小さかったが、清潔なベッドがあった。直人は横になり、天井を見上げた。

今日だけで随分いろんなことがあった。廃材の山、ロボット、マクシーの作業場、ローガンの食卓。地球にいたら絶対になかった一日だ。

窓の外に星が見えた。どれが地球か、もう分からない。

でも不思議と、寂しくなかった。

直人はそのまま目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ