第四話 宝の山
廃材処理センターの門をくぐった瞬間、博士が立ち止まった。
山だった。どこを向いても機械の山だ。見たこともない形の装置、巨大な金属の筒、複雑に絡み合った配管、用途の分からない無数の部品。それらが空が霞むほど高く積み上げられ、夕日を受けてぎらりと光っている。
「すごい……」と直人は呟いた。
博士は無言だった。ただ、その目が子どものように輝いていた。
マクシーが得意げに笑った。「でしょ? 好きなだけ見ていいよ」
その言葉が終わるより早く、博士は山の中へ踏み込んでいた。
*
博士は黙々と廃材を漁り始めた。何かを手に取っては眺め、必要そうなものを脇に置いていく。その動きに迷いはない。何が使えて何が使えないのか、見ただけで分かるらしかった。
直人はその後ろをついて歩きながら、通路の両側を眺めていた。何が必要なのかは分からない。でも、眺めているだけで飽きなかった。形の面白いもの、色の変わったもの、触るとひんやりするもの。一つ一つが何かの物語を持っていそうで、見ていると時間を忘れた。
通路がひときわ狭くなった辺りで、直人の足が止まった。
山の陰に、何かある。
他の機械とは違う。金属の塊なのは同じだが、妙に人の形に近い。両腕らしきものがあり、頭部らしき丸いものがある。全体的に煤けていて、長いこと放置されていたのは明らかだった。
「博士!」
直人は振り返り、大声で呼んだ。「ちょっと来て!」
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博士はロボットの前にしゃがみ込み、頭から爪先まで隈なく観察した。関節を動かし、頭部を覗き込み、背面をぐるりと確認する。
「ロボットだな」
「やっぱり」
「かなり古い。だがよく出来ている」博士は立ち上がり、直人を見た。「持っていくぞ」
二人がかりでロボットを引きずり出し、博士が集めた廃材の山の隣に並べた。マクシーが「うわ重っ」と言いながら手伝ってくれた。
廃材の山は、気づけばかなりの量になっていた。
*
「父さん、お客さん連れてきたよ」
マクシーに案内されて奥へ進むと、作業場の隅に一人の男がいた。大柄だが物静かな佇まいで、古い機械を黙々と分解している。顔を上げると、落ち着いた目で二人を見た。
「ローガンだ。マクシーの父親だ」静かな声だった。「遠いところから来たそうだな」
「左様。儂は博士と呼ばれておる。こちらは直人」
ローガンはうなずいた。それからふと廃材の山に目をやり、「随分集めたな」と言った。
「まだ足りんが、これだけあれば何とかなろう」
「明日ドルトンの作業場に運んでやる。今日は泊まっていけ」
博士は一瞬だけ目を丸くし、それからゆっくりと頭を下げた。「かたじけない」
*
「その前に僕の作業場見せてあげる!」
家に入ろうとした二人を、マクシーが引き留めた。嬉しそうな顔をしている。
「作業場?」と直人が聞いた。
「そう。ついてきて」
廃材処理センターの端、小さな建物があった。扉を開けると、中には空飛ぶ車が一台、完全に分解された状態で床に広がっていた。エンジン、フレーム、配管、無数の部品が整然と並べられている。
「これ、マクシーが分解したの?」
「うん。内部の機構に不備があったから一度全部バラしたんだ。もうすぐ組み直せると思うんだけど」
博士がすっと前に出た。分解された部品を一つ一つ眺め、エンジンの内部を覗き込み、配管の接続部に指を当てる。
「ここの熱交換システムだが」博士が口を開いた。「こう繋ぎ直してはどうだ。効率が上がるはずじゃ」
マクシーの目が輝いた。「それ、どういう原理ですか?」
「この部品とこの部品の間に……」
二人の会話が始まった。直人は少し離れたところから、分解された車の部品を眺めた。仕組みは分からない。でも博士とマクシーの声を聞いていると、なんだかこの場所の空気が好きだと思った。
*
夜になった。
ローガンの家の食卓は広くはないが、温かかった。シチューのような料理が並び、湯気が立っている。
「地球というのはどんな星だ」ローガンが静かに聞いた。
「普通の星ですよ」と直人は答えた。「空飛ぶ車とかないし、こんなにすごい機械もない。でも……」
直人は少し考えた。
「食卓はあります。こんな感じの」
ローガンは小さく笑った。珍しいものを見た気がして、直人もつられて笑った。
博士とマクシーは食事中も機械の話をしていた。ローガンはそれを静かに聞きながら、時々短い言葉を挟む。その一言が的を射ていて、博士が「ほう」と唸る場面が何度かあった。
食事が終わり、片付けが済んだ頃には、外はすっかり暗くなっていた。
マクシーに案内された部屋は小さかったが、清潔なベッドがあった。直人は横になり、天井を見上げた。
今日だけで随分いろんなことがあった。廃材の山、ロボット、マクシーの作業場、ローガンの食卓。地球にいたら絶対になかった一日だ。
窓の外に星が見えた。どれが地球か、もう分からない。
でも不思議と、寂しくなかった。
直人はそのまま目を閉じた。




