表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/53

第三十六話 MITへの招待


直人がザイロンを連れて工場に戻ると、博士の工場の空気が少し変わっていた。

マイクとリックが並んで立っている。美代は少し離れたところで二人を観察するように見ていた。博士は工具を置き、腕を組んでいた。

扉が開いた瞬間、マイクとリックの視線がザイロンに集まった。

二人の目が丸くなった。

マイクが思わず後退した。リックは「おお」と声を上げた。

ザイロンは二人を見た。それから面倒くさそうに直人を見た。「こいつらか」

「NASA長官と首席科学者だよ」直人は小声で言った。

「ふん」ザイロンは腕を組んだ。

マイクが我に返った。眼鏡を直し、ザイロンをじっと見た。それからリックと目を合わせた。二人は無言で何かを確認し合うように頷いた。

「情報通りだな」マイクはぼそりと言った。

マイクは博士に向き直った。「榊博士、このロボットは地球のテクノロジーではありませんね」

博士は鼻を鳴らした。「さてな。本人に聞けばよかろう」

マイクはザイロンを見据えた。背筋を伸ばし、眼鏡の奥の目を鋭くした。「君は何処から来たんだ?」

ザイロンはしばらくマイクを見ていた。それからため息をついた。

「尋問受けてるみてぇだな」ザイロンはぶっきらぼうに言った。「俺が何処から来たか、それに答えて俺に何の得があるんだ」

マイクは眉をひそめた。「我々は敵ではありません。情報を共有していただきたいだけです」

「情報を共有する理由もない」

「しかし」

「マイク」リックが割って入った。日本語だった。「ザイロンさん、でしたっけ。俺、あなたのことが好きになりそうです。率直で」

ザイロンはリックを一瞥した。「お前は少しうるさいな」

リックは笑った。「よく言われます」

マイクは咳払いした。「では本題に入りましょう」マイクは全員を見回した。「はっきり言います。この研究所の技術力は我々NASAの技術力を遥かに凌駕しています。宇宙海賊を撃退した戦闘技術、ホログラム通信機、パワードスーツ。どれも我々には到底実現できないものです。その知識の一端でも我々と共有していただきたい」

博士が口を開こうとした。

ザイロンが先に言った。「お断りだ」

マイクが振り返った。「理由を聞かせてもらえますか」

「お前らアメリカがこの技術力を持ったら何を仕出かすか、わかったもんじゃない」ザイロンははっきりと言った。「技術は使う者の心次第だ。渡す相手を選ぶ」

マイクは少し黙った。眼鏡を外し、こめかみを押さえた。

リックが「手厳しいな」と呟いた。

沈黙が続いた。

マイクは眼鏡をかけ直した。それからゆっくりと直人と美代を見た。二人を交互に見て、少し考えるような顔をした。

「では」マイクは静かに言った。「別の提案をさせてください」

「なんだ」博士が言った。

マイクは直人と美代に向き直った。「そちらにいるミヨ・サカキとナオト・カンザキをMITへ入学させていただきたい。費用の全ては我々が負担します」

工場が静まり返った。

直人は固まった。美代も固まった。

博士は眉をひそめた。ザイロンは腕を組んだまま動かなかった。

リックが補足した。「MITはご存知ですよね。マサチューセッツ工科大学。世界最高峰の理工系大学です。二人の能力なら十分すぎるほど通用する。むしろMITが二人を必要としているくらいだ」

「でも」直人は口を開いた。「僕たちはまだ中学生で」

「年齢は問題ない」マイクは言った。「特別入学の制度があります。過去にも飛び級で入学した学生はいます。二人の研究レベルは我々も把握しています」

美代がマイクを見た。「どうやって把握したんですか」

「調べました」マイクは静かに答えた。「時間圧縮の実験、中継ワープポイントの理論。いずれも世界最高水準どころか、我々の想像を超えています」

直人は美代を見た。美代も直人を見た。

二人とも、何も言えなかった。

博士がザイロンを見た。ザイロンは壁を見ていた。

リックが直人に言った。「ナオト、嫌なら断っていい。でも一度だけ考えてみてくれ。MITには世界中から天才が集まってる。その環境がお前たちの研究を加速させるかもしれない」

直人は床を見た。

MIT。アメリカ。世界最高峰の大学。

でも研究所がある。華僑への約束がある。博士がいる。ザイロンがいる。

美代がいる。

「少し考えさせてください」直人はようやく言った。

マイクはうなずいた。「もちろんです。急かすつもりはありません」

リックが立ち上がり、ポケットから名刺を出した。直人と美代に一枚ずつ渡した。「いつでも連絡してくれ。待ってるから」

博士がまた腕を組んだ。「マイクさんとやら、一つ聞いていいか」

「はい」

「この二人をMITに入れて、お前たちに何の得がある」

マイクは少し間を置いた。「正直に言います。得はあります。二人の研究がMITで花開けば、その成果はNASAにも還元されるかもしれない。でもそれだけではありません」マイクは真っすぐに博士を見た。「人類の未来のために、この二人の才能を正しく育てたい。それが我々の本音です」

工場に静寂が落ちた。

直人はリックからもらった名刺を見た。MITのロゴが入っている。

美代は自分の名刺を見ながら、黙っていた。

窓の外に、夕暮れの空が広がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ