表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/48

第三十四話 ララの服


休日の午後、美代はララの手を引いて商店街を歩いていた。

「今日はララの服を買う」美代は宣言した。「研究所から借りてる服ばかりじゃ可哀想だから」

「私は気にしていません」ララは答えた。「服の必要性はわかりますが、優先順位は低いかと」

「そういうこと言わない」美代は言った。「女の子なんだから、可愛い服を着なきゃ」

「女の子、ですか」ララは少し首を傾けた。「私はアンドロイドですが」

「関係ない」美代は迷わず言った。「うちの家族なんだから」

ララは少し黙った。それから静かに言った。「ありがとうございます」

最初の店に入った。

カラフルな服が並んでいる。美代はすぐに服を手に取り始めた。ララの体に当てて、首を傾け、また別の服を取る。

「これどう?」美代が水色のワンピースをララに当てた。

「似合うと思いますか?」

「似合う。試着してみて」

ララが試着室に入った。しばらくして出てきた。

美代は目を丸くした。

「ちょっと」美代は言った。「なんでそんなに似合うの」

店員が近づいてきた。ララを見て、少し動きが止まった。「お客様、とてもお似合いですよ」

「ありがとうございます」ララは静かに答えた。

美代はララの周りをぐるりと歩き回った。「悔しい。なんでも似合うじゃない」

「美代さんも似合うと思いますよ」

「私が着たら普通なの。ララが着ると違うの」美代はため息をついた。「これにしよう。買う」

次の店、また次の店と回るうちに、ララの荷物が増えていった。ワンピース、カジュアルなシャツ、カーディガン。美代が選ぶたびにララが試着し、そのたびに美代が「悔しい」と言った。

休憩がてら、二人はカフェに入った。

窓際の席に座り、美代はアイスティーを、ララは何も注文しなかった。

「ララって食べないの?」美代が聞いた。

「食事は必要ありません。でも料理は好きです」

「作るのは好きだけど食べないんだ」

「食べる方々の喜ぶ顔が好きです」ララは静かに言った。

美代はアイスティーを一口飲んだ。窓の外を見た。人が行き交っている。カップルが手を繋いで歩いている。

「ねえ、ララ」美代は言った。「この間のデートの話してもいい?」

「直人さんが飛び出していった件ですか」

「そう」美代は苦笑いした。「映画のロマンチックなシーンの話をしてたら、突然宇宙の話になって、気づいたら研究所に走ってった」

ララは少し微笑んだ。「それは災難でしたね」

「でも」美代はグラスを両手で包んだ。「私も人のこと言えないんだけどね。気になることがあったら周りが見えなくなるから。理数系ってそういうところあるじゃない」

「美代さんも同じタイプということですね」

「似たようなもの」美代は笑った。「だから余計に困るのよ。困ったもんだよね、何かに夢中な男っていうのも」

ララは美代を見た。「でも美代さんは嫌いじゃないんですよね、そういう直人さんが」

美代は少し固まった。

「ちょっと」美代はグラスを置いた。「そういうこと急に言わないで」

「事実だと思いましたので」

「アンドロイドって遠慮がないわね」

「正確に伝えることが得意ですので」ララは穏やかに言った。

美代は窓の外を向いた。頬が少し赤かった。

「まあ」美代は小声で言った。「嫌いじゃない、というか」

「というか?」

「……好きだから困るって言ってるの」

ララは微笑んだ。「素直でよかったです」

「ララ」

「はい」

「今の話、直人には絶対言わないで」

「わかりました」ララは静かに答えた。「秘密にします」

美代はアイスティーを一口飲んだ。窓の外のカップルがまだ歩いている。

「ねえ、ララ」美代は言った。「直人が50年以内に華僑の人たちの星を見つけるって約束したじゃない」

「はい」

「50年後、直人は64歳になる」美代は静かに言った。「私もそうなる」

ララは美代を見た。

「長い旅だね」美代は続けた。「でも直人はきっとやり遂げる。あの人そういう人だから」

「美代さんも一緒に歩くんですよね」

美代はうなずいた。「うん。ずっと一緒に」

窓の外に、午後の光が降り注いでいた。

ララは美代を見ていた。アンドロイドには感情がない、と言う人もいる。でも今この瞬間、ララの中に何か温かいものが生まれた気がした。

「美代さん」ララは言った。

「うん?」

「今日、連れてきてくれてありがとうございます」

美代は笑った。「こちらこそ。付き合ってくれてありがとう、ララ」

二人は並んで窓の外を見た。

午後の街が、静かに流れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ