第三十四話 ララの服
休日の午後、美代はララの手を引いて商店街を歩いていた。
「今日はララの服を買う」美代は宣言した。「研究所から借りてる服ばかりじゃ可哀想だから」
「私は気にしていません」ララは答えた。「服の必要性はわかりますが、優先順位は低いかと」
「そういうこと言わない」美代は言った。「女の子なんだから、可愛い服を着なきゃ」
「女の子、ですか」ララは少し首を傾けた。「私はアンドロイドですが」
「関係ない」美代は迷わず言った。「うちの家族なんだから」
ララは少し黙った。それから静かに言った。「ありがとうございます」
*
最初の店に入った。
カラフルな服が並んでいる。美代はすぐに服を手に取り始めた。ララの体に当てて、首を傾け、また別の服を取る。
「これどう?」美代が水色のワンピースをララに当てた。
「似合うと思いますか?」
「似合う。試着してみて」
ララが試着室に入った。しばらくして出てきた。
美代は目を丸くした。
「ちょっと」美代は言った。「なんでそんなに似合うの」
店員が近づいてきた。ララを見て、少し動きが止まった。「お客様、とてもお似合いですよ」
「ありがとうございます」ララは静かに答えた。
美代はララの周りをぐるりと歩き回った。「悔しい。なんでも似合うじゃない」
「美代さんも似合うと思いますよ」
「私が着たら普通なの。ララが着ると違うの」美代はため息をついた。「これにしよう。買う」
*
次の店、また次の店と回るうちに、ララの荷物が増えていった。ワンピース、カジュアルなシャツ、カーディガン。美代が選ぶたびにララが試着し、そのたびに美代が「悔しい」と言った。
休憩がてら、二人はカフェに入った。
窓際の席に座り、美代はアイスティーを、ララは何も注文しなかった。
「ララって食べないの?」美代が聞いた。
「食事は必要ありません。でも料理は好きです」
「作るのは好きだけど食べないんだ」
「食べる方々の喜ぶ顔が好きです」ララは静かに言った。
美代はアイスティーを一口飲んだ。窓の外を見た。人が行き交っている。カップルが手を繋いで歩いている。
「ねえ、ララ」美代は言った。「この間のデートの話してもいい?」
「直人さんが飛び出していった件ですか」
「そう」美代は苦笑いした。「映画のロマンチックなシーンの話をしてたら、突然宇宙の話になって、気づいたら研究所に走ってった」
ララは少し微笑んだ。「それは災難でしたね」
「でも」美代はグラスを両手で包んだ。「私も人のこと言えないんだけどね。気になることがあったら周りが見えなくなるから。理数系ってそういうところあるじゃない」
「美代さんも同じタイプということですね」
「似たようなもの」美代は笑った。「だから余計に困るのよ。困ったもんだよね、何かに夢中な男っていうのも」
ララは美代を見た。「でも美代さんは嫌いじゃないんですよね、そういう直人さんが」
美代は少し固まった。
「ちょっと」美代はグラスを置いた。「そういうこと急に言わないで」
「事実だと思いましたので」
「アンドロイドって遠慮がないわね」
「正確に伝えることが得意ですので」ララは穏やかに言った。
美代は窓の外を向いた。頬が少し赤かった。
「まあ」美代は小声で言った。「嫌いじゃない、というか」
「というか?」
「……好きだから困るって言ってるの」
ララは微笑んだ。「素直でよかったです」
「ララ」
「はい」
「今の話、直人には絶対言わないで」
「わかりました」ララは静かに答えた。「秘密にします」
美代はアイスティーを一口飲んだ。窓の外のカップルがまだ歩いている。
「ねえ、ララ」美代は言った。「直人が50年以内に華僑の人たちの星を見つけるって約束したじゃない」
「はい」
「50年後、直人は64歳になる」美代は静かに言った。「私もそうなる」
ララは美代を見た。
「長い旅だね」美代は続けた。「でも直人はきっとやり遂げる。あの人そういう人だから」
「美代さんも一緒に歩くんですよね」
美代はうなずいた。「うん。ずっと一緒に」
窓の外に、午後の光が降り注いでいた。
ララは美代を見ていた。アンドロイドには感情がない、と言う人もいる。でも今この瞬間、ララの中に何か温かいものが生まれた気がした。
「美代さん」ララは言った。
「うん?」
「今日、連れてきてくれてありがとうございます」
美代は笑った。「こちらこそ。付き合ってくれてありがとう、ララ」
二人は並んで窓の外を見た。
午後の街が、静かに流れていた。




