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第三十一話 榊家の新しい住人


榊家のインターホンが鳴ったのは、夕方だった。

良美が玄関に出ると、美代が立っていた。隣に、見知らぬ女性がいる。

「美代!」

良美は美代に飛びついた。美代が「母さん、苦しい」と言いながら笑った。

「無事だった、本当に無事だった」良美は美代を離し、顔を見た。「怪我はない?体は大丈夫?」

「大丈夫だよ」美代は答えた。「ちゃんと帰ってきたでしょ」

良美はようやく隣の女性に気づいた。

落ち着いた顔立ち、白いシャツ、穏やかな目。良美より少し若く見える。

「あら、お友達?」

「紹介するね」美代は言った。「ララ。一緒に宇宙に行った仲間」

ララは丁寧に頭を下げた。「はじめまして。ララと申します。美代さんにはとてもお世話になりました」

「まあ、礼儀正しいお嬢さんね」良美は笑顔になった。「上がって上がって、ご飯食べていく?」

「ぜひ」美代は言った。「あと、ちょっと話があるんだけど」

「話?」

「うん。お父さんも呼んで」

リビングに全員が揃った。

守はソファに座り、美代とララを見ていた。美代が無事に帰ってきたことへの安堵が、その表情に滲んでいた。

「無事でよかった」守は静かに言った。

「心配かけてごめん」美代は答えた。「でも、すごく大事なことができた」

「聞かせてくれ」

美代は華僑のこと、李シンファンとの約束、そして直人の宣言を話した。守と良美は黙って聞いていた。良美は途中で何度か目を潤ませた。

話が終わると、守は少し間を置いた。「直人くんは50年以内に星を見つけると約束したのか」

「うん」美代はうなずいた。「だから私も手伝う」

守は何も言わなかった。ただ、小さくうなずいた。

「それで」美代は続けた。「本題なんだけど」

良美が「本題?」と首を傾けた。

美代はララを見た。「ララのことなんだけど」

「ええ、さっきから気になってたのよ」良美はララを見た。「美代のお友達? 宇宙で出会ったの?」

「そう」美代は答えた。「アクティナスという星でロベルトさんから譲ってもらった仲間」

「まあ」良美は微笑んだ。「ララさん、どちらのご出身なの?」

ララは良美を見た。それから美代を見た。

美代がうなずいた。

「実は」ララは静かに言った。「私はアンドロイドです」

良美が固まった。

守の手が止まった。

リビングに沈黙が落ちた。

良美はしばらくララを見ていた。目を細め、もう一度見た。それからまた固まった。

「え……アンドロイド?」

「はい」ララは穏やかに答えた。「アクティナスの技術者が作りました。医療、科学、料理など様々な分野の知識を持っています」

「り、料理も?」

「はい。得意です」

良美はまた美代を見た。美代は笑っていた。

「母さん、ララうちに置いてあげて」美代は言った。「一緒に暮らしたい」

「ちょ、ちょっと待って」良美は頭を整理しようとした。「アンドロイドを、うちに?」

「ダメ?」

良美はララを見た。穏やかな目、落ち着いた佇まい。さっきまで普通の人間だと思っていた。それがアンドロイドだという。

「あなた」良美は守を見た。「どう思う?」

守はしばらくララを見ていた。それから口を開いた。「ララさん、一つ聞いていいですか」

「はい」

「美代のそばにいてくれますか。守ってくれますか」

ララは守を真っすぐに見た。「はい。必ず」

守は少し黙った。それから良美を見た。「いいんじゃないか」

「あなたが言うなら」良美はため息をついた。それからララを見て、少し笑った。「料理が得意って言ったわね?」

「はい」

「じゃあ明日の朝ごはん、作ってもらえる?」

「喜んで」

良美は美代を見た。「まったく、この子は昔から突拍子もないことばかり」

「褒め言葉として受け取っておく」美代は笑った。

その夜、美代はララに客室を案内した。

シンプルな部屋だった。ベッド、小さな机、窓から街の灯りが見える。

「狭いけど」美代は言った。「ここが貴方の部屋」

ララは部屋を見回した。「十分です」

「アンドロイドって、眠るの?」

「眠る必要はありません。でも休息モードというものがあります」

「そっか」美代は窓の外を見た。夜空に星が見える。「ララ、地球はどう?」

ララは少し考えた。「温かいです」

「温度?」

「それもありますが」ララは静かに言った。「人の気持ちが、温かい」

美代はその言葉を聞いて、少し笑った。「そう感じてくれてよかった」

美代が部屋を出ようとした時、ララが言った。「美代さん」

「うん?」

「ありがとうございます。私をここに連れてきてくれて」

美代は振り返った。ララの顔を見た。アンドロイドなのに、その目に何か温かいものがある気がした。

「こちらこそ」美代は答えた。「よろしくね、ララ」

扉が閉まった。

廊下に、静かな夜の空気が漂っていた。

翌朝、榊家のキッチンから、いい匂いがした。

良美が起きてきて、キッチンを覗いた。

ララが黙々と料理をしていた。手際が良い。複数の料理を同時に進めながら、一つも無駄な動きがない。

良美はしばらく見ていた。

美代が起きてきて、キッチンを覗いた。「わあ」

テーブルに料理が並んでいた。味噌汁、焼き魚、だし巻き卵、ほうれん草のおひたし、炊きたてのご飯。

守が起きてきて、テーブルを見た。少し目を丸くした。

「いただきます」全員で手を合わせた。

良美が味噌汁を一口飲んだ。目を細めた。

「……おいしい」

ララは静かに微笑んだ。

美代は得意げな顔をした。「でしょ?」

守は黙って食べていたが、やがてぼそりと言った。「ララさん」

「はい」

「うちの専属コックになってくれないか」

美代が吹き出した。良美も笑った。

ララは少し考えて、静かに答えた。「喜んで」

榊家の食卓に、温かい空気が満ちていた。

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