小さなメカニック、マクシー
ドルトンの作業場に、火花が散った。
博士とドルトンが並んでパロディアンに向き合い、溶接機を手に議論を続けている。ドルトンが博士の説明を聞くたびに目を見開き、頭をかきながら「そういうことか……!」と唸る。八十を超えた老人が、まるで少年のような顔をしていた。
「このワープ制御の発想はどこから来た」
「儂が若い頃に読んだ、とある論文よ。今では絶版になっておるがな」
「その論文、タイトルは」
「教えてやってもいいが、お前さんには理解できんかもしれんぞ」
「言ってみろ」
博士がタイトルを口にした瞬間、ドルトンの動きが止まった。しばらく虚空を見つめ、それからゆっくりと笑った。「……なるほどな。やっぱりあんたはただもんじゃねえ」
直人はその様子を少し離れた場所から眺めながら、作業場をうろうろしていた。棚の部品を眺め、壁の設計図を眺め、また別の機械を眺める。どれも面白いのだが、二人の会話には到底ついていけない。
その時だった。
「ドクター!」
高い少年の声が作業場に響き、扉が勢いよく開いた。
現れたのは、直人と同じくらいの年頃の少年だった。人懐っこい目をしていて、走ってきたのか息が少し上がっている。
ドルトンが振り返り、パロディアンの側面をパンパンと叩いた。「おーマクシーか。お前も見てみろ、こいつにゃ俺も知らなかった眉唾もんのシステムがいくつも組み込まれてんだ」
「へー!見せて見せて!」
マクシーはキラキラした目でドルトンと博士の元へ駆け寄った。ドルトンがパロディアンの各部を指しながら「こっちはこうなってんだ」「この配管がここに繋がって――」と説明していく。マクシーは嬉しそうな顔で「すごいや、すごいや」と言いながら食い入るように見つめていた。
直人はその輪の外から、三人の様子を眺めた。いいな、と思った。あの輪の中に入れたら、とも思った。でも自分には専門用語が分からないし、機械の仕組みも分からない。
仕方なく、また棚の部品に目を向けた。
するとマクシーが振り返り、直人に気づいた。「君、この凄いお爺さんの助手なの?」
「うーん……宇宙船の操作を少し手伝ったりはしたけど」
「へー!じゃあ君もメカニックなの?なんか君たち、僕とドクターみたいだね」
直人は首を横に振った。「いや、機械にはそんなに詳しくないんだ。地球――僕らが住んでる星なんだけど、そこで普通に学生やってただけで」
「地球!」マクシーの目が丸くなった。「どんな星なの?」
「普通の星だよ。空飛ぶ車とかないし、そんなに発達してないけど……」
「へえ」マクシーはじっと直人を見た。それからにっこりと笑い、すっと手を差し出した。「僕はマクシー。これでも一応メカニックだよ」
直人はその手を握った。「僕は直人。小学六年生だ」
「ナオト。いい名前だね」
作業がひと段落した頃、ドルトンが思い出したように顔を上げた。
「そうだ、お前たち。後でマクシーの家に行ってみろよ」
「マクシーの家?」と直人が聞いた。
「廃材処理センターだ。すげーぞ、まさに宝の山だ。俺すら知らねえ、先人たちが作った機器類が山積みになってる」
博士の目が光った。「ほう。それは興味深いな」
マクシーが得意げに胸を張った。「僕の家、ほんとにすごいんだよ。案内するよ!」
*
パロディアンの修理が完了したのは、その日の夕方だった。
エンジンに火が入り、腹の底に響く重低音が作業場を満たす。ドルトンは腕を組んで目を細め、博士はパロディアンの側面を静かに撫でた。
「行けるか」とドルトンが聞いた。
「行けるとも」と博士が答えた。
「じゃあ早速行こう!」
マクシーが扉に向かって駆け出した。作業場の外には、丸っこいフォルムの小型車が一台止まっていた。マクシーは慣れた様子で運転席に乗り込み、エンジンをかける。低いうなり声とともに車体が浮き上がり、地面から数十センチのところでふわりと静止した。
「乗って乗って」
直人と博士が後部座席に収まると、マクシーはすっと操縦桿を倒した。車は音もなく走り出し、夕暮れの街並みをすり抜けていく。窓の外では空飛ぶ車が行き交い、高層建築の灯りがひとつひとつ点り始めていた。
街を抜け、しばらく走ると、建物が少なくなってきた。
やがて、それが見えた。
「着いたよ」とマクシーが言った。
広大な敷地に、山が聳えていた。いや、山ではない。機械だ。見たこともない形の装置、巨大な金属の筒、複雑に絡み合った配管、用途の分からない無数の部品――それらが空が霞むほど高く積み上げられ、夕日を受けてぎらりと光っている。
直人は口を開けたまま、その光景を見上げた。
博士も珍しく無言だった。
マクシーだけが、誇らしげに笑っていた。




