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第二十七話 新しいパロディアン


アクティナスが窓の外に広がった。

美代は息を呑んだ。青く輝く惑星、白い雲、緑の大地。地球に似ているようで、どこか違う。

「きれい」美代は呟いた。

「ヤマトやヨーロピアンの祖先が暮らした星だ」直人は言った。「ロベルトたちが今も守っている」

パロディアンが大気圏に入った。機体が揺れ、窓の外がオレンジ色に染まる。美代が肘掛けをつかんだ。直人は慣れた様子で座ったままだった。

やがて揺れが収まり、青い空が広がった。

着陸すると、ロベルトが待っていた。

戦闘服姿で腕を組んでいる。直人たちを見て、口元が少し緩んだ。

「久しぶりだな」

「ロベルトさん」直人は駆け寄った。「また来ました」

「見ればわかる」ロベルトは直人を見て、それから美代を見た。「彼女が美代か」

「はじめまして」美代は頭を下げた。「榊美代です」

「博士の孫にしては落ち着いているな」

「よく言われます」

ロベルトは博士に目を向けた。博士は腕を組んでパロディアンを眺めていた。

「博士、また世話になる」

「儂もじゃ」博士は振り返った。「ところでドックを貸してもらえるか。パロディアンを改造したい」

「もう用意してある」ロベルトは言った。「技術者も揃えた。好きに使え」

博士の目が輝いた。「話が早くて助かる」

ドックは広かった。

天井まで届くクレーンが何台も並び、最新の工作機械が所狭しと並んでいる。アクティナスの技術者たちが白衣姿で待ち構えていた。

パロディアンがドックに入ると、技術者たちがすぐに取り囲んだ。各部を計測し、設計図を広げ、話し合いが始まる。

博士はその中心に立ち、身振り手振りで説明し始めた。「まずここの推進システムを見直す。それからここの居住区、狭すぎる。増築が必要じゃ」

美代が設計図を覗き込んだ。「お祖父ちゃん、ここの設計、無駄が多いわ。この区画とこの区画を連結すれば、三人分の個室とサロンが作れる」

博士が振り返った。「何を言っとる、この配置には理由がある」

「でも効率が悪い」美代は設計図に書き込み始めた。「ここをこうして、こっちに通路を作れば……ほら、スペースが三割増える」

博士は美代の書き込みを見た。しばらく黙った。

「……悪くない」博士はぼそりと言った。「だがここはこうした方がいい」

「あら、それは確かにそうね」

二人は設計図を前に話し込み始めた。技術者たちが困惑した顔で二人を見ている。

直人はザイロンの隣に立った。「始まったね」

「ああ」ザイロンは腕を組んだ。「しばらくかかるな」

改造は二十日間続いた。

毎朝ドックに集まり、毎晩遅くまで作業した。博士と美代が設計で言い合い、技術者たちが黙々と手を動かし、直人とザイロンが各部の調整をする。

十日目、パロディアンの両側に新しいユニットが取り付けられた。居住棟と高出力ブースターだ。シルエットが大きくなっていく。

十五日目、内部の改装が完成した。個室が三つ、小さなサロン、医療室、広くなった操縦席。

二十日目の朝、ドックのシャッターが上がった。

直人は目を細めた。

パロディアンがいた。

トラックのバンパー、バスの降車ボタン、繋ぎ合わせた廃車の残骸。その面影はそのまま残っている。でも全体が一回り、いや三回りほど大きくなっていた。両側に新しいユニットが増え、重厚で力強い姿になっていた。

「パロディアンだ」直人は呟いた。「でも、全然違う」

「魂は同じじゃ」博士は満足そうに腕を組んだ。「ガラクタの美学は残しておいた」

美代がパロディアンの側面を眺めた。「思ったより格好いいわね」

「思ったより、とは何じゃ」

「褒めてるのよ」

ザイロンはパロディアンを静かに見ていた。「悪くない」

それだけだった。でも直人には、それが最大級の褒め言葉だとわかった。

その日の夕方、ロベルトが司令室に全員を集めた。

「出発前に一つ、紹介したい者がいる」

ロベルトが扉に目を向けた。

扉が開いた。

女性が入ってきた。いや、女性型のアンドロイドだ。人間と見紛うほど精巧な顔立ち、落ち着いた動き、白いスーツ姿。

「ララだ」ロベルトは言った。「アクティナスの技術者たちが作った最新型アンドロイドだ。医療、科学、植物学、薬学、料理に至るまであらゆる知識を持っている。華僑への同行を頼んである」

ララは全員を見回し、静かに頭を下げた。

「はじめまして。ララと申します。皆さんのお役に立てるよう、精一杯努めます」

美代がララを見た。「すごい、本当に人間みたい」

「ありがとうございます」ララは美代に向かって微笑んだ。「美代さん、よろしくお願いします」

「名前、知ってるの?」

「皆さんのことは事前に伺っています」ララは直人を見た。「神崎直人さん。榊未来科学研究所副所長補佐。よろしくお願いします」

「よ、よろしく」直人は少し面食らった。

ザイロンがララを見た。ララもザイロンを見た。

「ザイロンさん、ですね」ララは静かに言った。「よろしくお願いします」

「……ああ」ザイロンは短く答えた。

博士がララの周りをぐるりと歩き回った。「ほう、なかなかよくできておる。設計図を見せてもらえるか」

「もちろんです」ララは微笑んだ。「博士のご要望とあれば、喜んで」

「儂のことも知っておるのか」

「榊博士のことを知らない科学者はいません」

博士は少し照れたように鼻を鳴らした。「……まあ、そうじゃな」

直人は笑った。

ロベルトが全員を見回した。「これで準備は整った。あとはお前たちが華僑で何をするか、だ」

直人はうなずいた。新しいパロディアン、ララ、そして仲間たち。

「行きます」直人は言った。「華僑へ」

ロベルトは小さくうなずいた。「気をつけて行け。何かあればすぐに連絡しろ」

「わかりました」

その夜、直人は新しくなったパロディアンの中を歩いた。

広くなった通路、清潔な個室、明るいサロン。それでも壁のあちこちに、古いパロディアンの痕跡が残っている。バスの降車ボタン、継ぎ目の溶接跡、博士が書いた落書きのような数式。

直人はその数式に手を当てた。

「懐かしいか」

振り返るとザイロンが立っていた。

「うん」直人は答えた。「初めて乗った頃から変わってない」

「変えなかったんだ」ザイロンは言った。「博士が残せと言った」

直人は数式を見た。博士の字だ。工場の壁にも同じような数式が貼ってあった。

「ザイロン」

「なんだ」

「華僑でうまくいくかな」

ザイロンは少し黙った。

「わからない」ザイロンは正直に言った。「だがお前が行くと決めた。それだけで十分だ」

直人はうなずいた。

サロンから美代の声が聞こえてきた。ララと話しているらしい。博士の笑い声も混じっている。

直人はもう一度、壁の数式を見た。

明日、華僑へ向かう。

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