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第二十二話 条件



その日の夕方、榊未来科学研究所の副所長室に、深いため息が響いた。

ロボットのため息だった。

ザイロンは椅子に座り、目の前に立つ中学生二人を眺めた。直人と美代。二人とも真剣な顔をしている。引く気配が全くない。

「美代」ザイロンは言った。「お前まで直人の馬鹿げた案に乗っかるのか」

美代は眉をひそめた。「何が馬鹿げた案なのよ。華僑の人たちを助けたいと思う気持ちは、人間として当然の感情じゃないかしら」

「感情論で宇宙海賊の本拠地に乗り込めるか」

「感情論じゃない。筋の通った話をしてるの」

「筋が通っていても死んだら終わりだ」

「だから準備をするって言ってるじゃない」

ザイロンはまたため息をついた。「あのな、仮に奴らの言う事が事実だとしてもだ、責任者として中学生二人をそんな危険極まりない場所へ連れていけるわけがないだろ」

「何が責任者よ」美代は一歩前に出た。「ロボットのくせに」

「……お前、なかなか言うな」

「褒め言葉として受け取っておくわ」

直人はその様子を黙って見ていた。このやり取り、かれこれ三十分続いている。

「ザイロン」直人は口を開いた。「ロベルトと博士にも相談してみたらどうかな」

ザイロンは直人を見た。「博士とロベルトに?」

「うん。ザイロン一人に決めさせるのは不公平だと思って」

ザイロンは少し黙った。それから「……勝手にしろ」と言った。

ホログラム通信機を起動すると、ロベルトはすぐに応答した。

戦闘服ではなく、普段着だった。しかし直人と美代の顔を見た瞬間、表情が引き締まった。

「話は聞いた」ロベルトは言った。「華僑に行きたいというのは本気か」

「本気です」直人は答えた。

ロベルトは難しい顔をした。腕を組み、直人と美代を交互に見る。しばらく沈黙が続いた。

「無謀だ」ロベルトは言った。「お前たちがどれだけ優秀でも、華僑は予測不能だ。李シンファンが友好的とも限らない」

「でも」直人は続けた。「話し合いなしに解決できる問題でもないと思います」

ロベルトはまた黙った。

美代が言った。「ロベルトさん、華僑の人たちはただ生きていける場所を探しているだけです。それを助けることの何が無謀なんですか」

ロベルトは美代を見た。しばらく、何も言わなかった。

その時、副所長室の扉が開いた。

博士が入ってきた。白衣に油染みがついている。地下の工場から直接来たらしかった。部屋を見回し、ホログラムのロベルト、ザイロン、直人と美代を順番に眺めた。

「なんじゃ、会議か」

「博士」直人は言った。「聞いてほしいことがあって」

「華僑に行きたいという話じゃろ」博士はあっさりと言った。「廊下まで聞こえておったわ」

博士は部屋の中央に歩み出た。腕を組み、直人と美代を見た。

「やれやれ」博士は言った。「小奴ら、何が何でも華僑に行く気らしいのう」

「博士まで」ザイロンが立ち上がった。「おいおいジジイ、何を勝手な――」

「仕方ない、許可しよう」

「聞けっ!」

ザイロンの声が飛んだが、博士は気にしなかった。直人と美代を真っすぐに見た。

「ただし、条件がある」

美代が「条件?」と言った。

「今の話を親にすべて打ち明け、了解を得ることだ」

美代の顔が変わった。「何よそれ。そんなの反対されるに決まってるじゃない」

「当然じゃろ」博士は静かに言った。「お前たちはまだ子供じゃ。保護者の理解を得ずに宇宙に連れていけば、儂はまた刑務所で臭い飯を食うハメになるからな」

室内に、一瞬の沈黙が落ちた。

それから美代が吹き出した。直人も笑いそうになるのをこらえた。ザイロンが天井を仰いだ。

ホログラムの中でロベルトが小さく笑った。「博士、相変わらずだな」

「うるさい」博士は鼻を鳴らした。「だがこれは本気じゃ。直人、美代、親の了解なしに宇宙には連れていかんぞ」

美代は笑いを収めて、少し考える顔をした。「難しいわね。お父さんはともかく、お母さんは絶対反対する」

直人は俯いた。

お母さんの顔が浮かんだ。あの日、家に戻った直人を抱きしめ泣いていた顔。博士が逮捕された時の顔。

簡単じゃない。絶対に反対される。でも。

直人は顔を上げた。

「わかった」直人は言った。「条件を飲もう。親に相談してくる」

博士は少し目を細めた。

ザイロンは直人を見た。何も言わなかった。でもその目が、少し和らいでいた。

ロベルトがホログラムの中で口を開いた。「直人」

「はい」

「もし親の了解が得られたなら、まずアクティナスに立ち寄れ。万全の準備が必要だからな」

「わかりました」

ロベルトのホログラムが消えた。

室内に静けさが戻った。

博士が踵を返した。「儂は工場に戻る。返事を待っておるぞ」

扉が閉まった。

直人は美代を見た。美代も直人を見た。

「難しいね」美代は静かに言った。

「うん」直人は答えた。「でもやるしかない」

美代は少し間を置いて、うなずいた。「一緒に頑張ろう」

窓の外に、夏の夕日が沈んでいく。オレンジ色の光が副所長室に差し込んでいた。

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