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第十八話 突撃


アメリカ東海岸の空は、灰色だった。

直人は戦闘機の窓から外を見た。眼下に広がる海岸線、煙を上げる街並み、逃げ惑う人々の姿が豆粒のように見える。

「見えてきたぞ」パイロットの声が通信機から響いた。

直人は前方に目をやった。

いた。

三十隻。黒い船体が空中に展開し、陣形を組んでいる。以前に見た豚の艦隊とは違う。もっと無骨で、もっと数が多い。船体のあちこちに傷があり、継ぎ接ぎだらけだ。追い詰められた者たちの船だ、と直人は思った。

通信機にザイロンの声が入った。「全機、聞こえるか」

「聞こえます」直人は答えた。

「作戦通りだ。プラズマ砲搭載機が先頭、自衛隊機が後続。直人は右翼で技術支援、博士は砲撃に集中しろ。いいな」

「了解」

「了解じゃ」博士の声が続いた。「早くせんか、儂は準備できておるぞ」

「爺さん、合図があるまで撃つな」

「わかっておる」

短い沈黙があった。

「全機、突撃!」

ザイロンの声と同時に、編隊が加速した。

風景が流れていく。

直人の機体が急加速し、体が座席に押しつけられた。パワードスーツの関節が軋む。前方の黒い船体が、みるみる大きくなってくる。

華僑の船から砲撃が始まった。

光の束が飛んでくる。編隊が左右に散開する。直人の機体すれすれを砲弾がかすめ、閃光が視界を焼いた。

「博士、右から二番目の船、エンジン部を狙え」ザイロンの指示が飛んだ。

「言われるまでもない」

プラズマ砲が唸りを上げた。

青白い光の塊が一直線に飛び、華僑の船のエンジン部に命中した。爆発が起き、船体が大きく傾いた。

「当たったぞ!」博士の声が弾んでいた。

「浮かれるな、まだ二十九隻いる」

戦闘は激しかった。

自衛隊機が左右から挟撃し、プラズマ砲が次々と砲撃する。華僑の船は数では勝るが、連携が取れていない。一隻が沈むたびに陣形が崩れ、混乱が広がっていく。

直人は通信機で各機の状況を把握しながら、ザイロンに報告し続けた。

「左翼の三番機、エンジンに被弾しています」

「三番機、離脱しろ」ザイロンが指示を出した。「四番機、穴を埋めろ」

「了解」

「直人、前方中央の旗艦を見ろ」

直人は前方に目をやった。一隻だけ大きな船が、陣形の中央に鎮座している。他の船より装甲が厚く、砲台が多い。

「あれを落とせば指揮系統が崩れる」ザイロンは言った。「博士、狙えるか」

「距離がある」博士は少し間を置いた。「だが、やってみせよう」

プラズマ砲の唸りが高まった。直人は思わず息を止めた。

青白い光が、一直線に旗艦へ向かった。

旗艦が緊急回避した。光の束が装甲をかすめ、爆発が起きた。直撃ではない。しかし旗艦の右舷が大きく損傷し、速度が落ちた。

「惜しい」博士が舌打ちした。

「十分だ」ザイロンが言った。「全機、旗艦に集中しろ。今が好機だ」

自衛隊機が一斉に旗艦へ向かった。砲撃が集中し、爆発が連続した。

旗艦が傾いた。

通信機から、華僑の言葉が流れてきた。直人には意味がわからない。

「何を言っている?」直人はザイロンに聞いた。

少しの間があった。

「撤退命令だ」ザイロンは静かに言った。

旗艦が高度を落とし始めた。周囲の船が次々と旗艦に続く。陣形が崩れ、三十隻がばらばらに散り始めた。

自衛隊機が追撃しようとした。

「追うな」ザイロンの声が飛んだ。「我々の仕事はここまでだ」

追撃が止まった。

空に、静寂が戻ってきた。

煙を上げながら離脱していく華僑の船を、直人は窓から眺めた。追い詰められた人たちの船。傷だらけで、それでもまだ飛んでいる。

複雑な気持ちだった。

「直人」ザイロンが呼んだ。

「うん」

「終わったぞ」

直人は窓の外を見た。灰色だった空が、少し明るくなっている気がした。

基地に戻ると、美代が走ってきた。

「無事だった!」

「うん」

美代は直人の顔を見て、それからパワードスーツを見て、また直人の顔を見た。「怪我は?」

「ない」

美代は少し息を吐いた。「よかった」

博士が機体から降りてきた。防護服が煤けている。しかし顔は満足そうだった。

「儂のプラズマ砲、なかなかじゃろう」

「爺さん」ザイロンが言った。「旗艦を外した」

「かすりはしたぞ」

「外したんだ」

博士は鼻を鳴らした。「次は外さん」

直人は二人のやり取りを聞きながら、空を見上げた。

本隊はロベルトが抑えている。先発隊は撤退した。でも、これで終わりじゃない。華僑の人たちは、まだ過酷な星で生きている。

「ザイロン」直人は言った。

「なんだ」

「華僑の人たちって、どうすればいいんだろう」

ザイロンは少し黙った。空を見た。

「今は答えが出る問いじゃない」ザイロンは静かに言った。「だがいつか、お前が答えを出す時が来るかもしれない」

直人はその言葉を、黙って受け取った。

美代が隣に立った。「帰ろう」

「うん」

三人は並んで歩き始めた。基地の空は、青く晴れていた。

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