第十七話 出撃
直人は作業場からパワードスーツを運び出していた。
重い。一人で持つには限界があるが、研究員を呼ぶ時間が惜しかった。廊下を引きずるようにして進んでいると、向かいの工場の扉が開いた。
博士が出てきた。
両手で何かを抱えている。金属製の筒状のもので、直人の身長ほどの長さがある。表面に配管が走り、先端が複雑な形をしていた。
「博士、それ何?」
博士は誇らしげな顔をした。「これか? これはプラズマ砲じゃ。戦闘機だろうがなんだろうがこいつで一網打尽じゃ」
「いつの間にそんな物を……」
「儂がいつも何をしていると思っておった」博士はプラズマ砲を肩に担いだ。「さっさと運ぶぞ」
直人は呆れながら、パワードスーツを抱え直した。
*
研究所の外に出ると、大型の輸送車が止まっていた。
ザイロンが研究員たちに次々と指示を出している。「そっちは右に積め」「それは固定しろ、動くと壊れる」「急げ、時間がない」
美代も研究員に混じって動いていた。段ボールを運び、機材を確認し、手際よく積み込んでいく。
「美代」直人が声をかけた。
「パワードスーツ、こっちに」美代は振り返りもせずに言った。「研究員さんに渡して。積み込む順番があるから」
「わかった」
博士のプラズマ砲も研究員たちが受け取り、丁寧に輸送車に積み込んでいく。博士は「丁寧に扱え、繊細なんじゃ」とぶつぶつ言いながら見守っていた。
直人はザイロンの下に行った。
「どこに向かうんだ」
「自衛隊基地だ」ザイロンは積み込みを確認しながら答えた。「あそこには我々の研究所が開発した機体がいくつかある。自衛隊と合流する」
「研究所が自衛隊と連携してたのか」
「堀田が動いていた。お前が知らないところでな」
直人は少し黙った。研究所が開設されてからの一年間、自分が学校に行っている間にも、研究所は動き続けていたということだ。
「全員乗れ」ザイロンが声を上げた。「出発する」
*
輸送車は高速道路を飛ばした。
車内は静かだった。研究員たちは各自の役割を確認し、美代はタブレットで何かを調べていた。博士は目を閉じて腕を組んでいる。眠っているのか考えているのか、わからない。
直人は窓の外を見た。青い空、流れる雲、普通の景色だ。でも今頃アメリカでは、この空とは全然違う光景が広がっているはずだった。
「直人くん」
美代が隣に座ってきた。
「緊張してる?」
「少し」直人は正直に答えた。
「私も」美代はタブレットを膝に置いた。「でも、やれることをやるしかないよね」
「うん」
美代は少し間を置いた。「図書館の続き、また行こうね」
直人は美代を見た。美代は窓の外を見ていた。その横顔は落ち着いていた。
「うん」直人は言った。「絶対行こう」
*
自衛隊基地に着いたのは、出発から二時間後だった。
ゲートをくぐると、広大な敷地が広がっていた。滑走路、格納庫、整列した車両。自衛官たちが忙しなく動き回っている。
格納庫の前で、堀田が待っていた。
「来ましたね」堀田は言った。「時間がありません。すぐに中を見てください」
格納庫のシャッターが上がった。
直人は思わず息を呑んだ。
並んでいたのは、見慣れない機体だった。戦闘機のような形をしているが、通常の戦闘機より一回り大きい。機体の各所に、研究所で見たことのある部品が組み込まれている。
「これは」直人は呟いた。
「研究所と自衛隊が共同開発した対宇宙戦闘機です」堀田が説明した。「直人くんのホログラム通信技術と、博士の推進システムを応用しました。パイロットは自衛隊が担当します」
博士が機体に近づき、各部を確認し始めた。「ほう……儂の設計通りに作っておるな。悪くない」
ザイロンが堀田に言った。「プラズマ砲の取り付けは可能か」
「準備してあります」堀田はうなずいた。「機体の上部マウントに固定できます」
「よし」ザイロンは研究員たちに指示を出した。「プラズマ砲を出せ。取り付けにかかれ」
研究員たちが動き始めた。
直人は格納庫の中を歩きながら、機体を眺めた。研究所の技術が、こんな形になっていた。自分がザイロンに教わりながら作ったものが、今この瞬間に役立とうとしている。
「直人」ザイロンが呼んだ。
「うん」
「お前はパワードスーツを着て同行する。戦闘は自衛隊に任せろ。お前の役割は現場での技術支援だ」
「わかった」
「美代は残れ」
美代が眉をひそめた。「なんで」
「お前はまだ民間人だ」ザイロンは静かに、しかしはっきりと言った。「ここで通信の管理と情報収集を担当しろ。それがお前にしかできない仕事だ」
美代はしばらくザイロンを見ていた。それから小さくうなずいた。「わかった」
直人は美代に近づいた。「頼んだ」
「気をつけて」美代は静かに言った。
*
一時間後、機体の準備が整った。
滑走路に、対宇宙戦闘機が並んでいる。プラズマ砲を搭載した機体が先頭に立ち、その後ろに自衛隊の機体が続く。
直人はパワードスーツを着込んだ。関節が駆動し、体に吸い付くように装着される。
博士が隣に立った。白衣の上から防護服を着ている。似合っていないが、本人は気にしていないようだった。
「博士も来るの?」
「当然じゃ」博士は鼻を鳴らした。「儂のプラズマ砲じゃぞ。使い方を知っているのは儂だけじゃ」
ザイロンが前に出た。自衛隊の指揮官と並んで、全員を見回した。
「聞け」ザイロンは言った。「相手は先発隊三十隻だ。本隊はロベルトたちが抑える。我々の仕事はアメリカ東海岸の先発隊を排除すること、それだけだ」
静寂が落ちた。
「行くぞ」
エンジンが唸りを上げた。機体が滑走路を走り始める。
直人は空を見上げた。青い空が、どこまでも続いている。
その先に、戦場がある。




