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第十三話 教師困惑


朝のホームルームが始まる前、廊下に人だかりができていた。

壁に貼られた、先週の実力テストの順位表だ。直人はその横を通り過ぎようとして、足を止めた。

1位 神崎直人

自分の名前だった。

「え、神崎って誰?」

「あの地味な奴じゃない?」

「嘘でしょ、あいつ授業中いつも窓の外見てるじゃん」

直人は人だかりを抜けて、教室に向かった。

「神崎」

一時間目が終わったところで、担任の田村先生が声をかけてきた。四十代の真面目そうな男だ。眼鏡の奥の目が、困惑と興味の間を漂っている。

「放課後、職員室に来てくれるか」

「何かしましたか」

「いや……まあ、来てくれ」

田村先生はそれだけ言って、足早に行ってしまった。

隣の席の山田が「やばくね」と囁いた。直人は首を傾げた。

放課後、職員室のドアをノックした。

「失礼します」

「ああ、神崎くん。座って」

田村先生の机の上に、直人のテスト用紙が置いてあった。赤ペンで丸がついている。全部丸だ。

田村先生は眼鏡を外し、こめかみを押さえた。

「神崎くん、君のテストの解答は完璧だ」

「ありがとうございます」

「……いや、それが問題なんだ」田村先生はテスト用紙を手に取った。「数学の問題、見てごらん。設問は教科書通りの基本問題だ。ところが君の解答は正しいんだが、途中式に見たことのない理論が混じっている」

直人は覗き込んだ。自分の字で数式が並んでいる。

「この式なんだが」田村先生が指差した。「これは大学院レベルでも扱わない領域だ。いや、正直に言うと、私にも完全には理解できない。答えは合っているんだが……」

田村先生は困った顔をした。

「誰も教えていない理論を解答に使われても、教師としては採点に困るんだよ。それに、こんな知識を中学生が持っているのはおかしい。一体どこでこんな凄いことを学んだんだね?」

直人は少し考えた。

「そうですね」直人は答えた。「榊博士と、相棒からかな」

田村先生が眉をひそめた。「榊……博士?」

「はい。帝都工業大学の名誉教授の榊博士と、あとロボットの相棒から教わりました」

田村先生はしばらく直人を見ていた。何か言おうとして、やめた。また眼鏡を外して、こめかみを押さえた。

「……神崎くん」

「はい」

「次のテストからは、授業で習った範囲の解き方で答えてくれると助かる」

「わかりました」

「以上だ」

直人は立ち上がり、職員室を出た。

廊下に出たところで、少し笑った。

研究所に着いたのは夕方だった。

地下の作業場に降りると、博士が設計図に向かっていた。ザイロンは端の椅子に座って直人を眺めた。

「遅かったな」

「学校で呼び出された」

博士が振り返った。「何をした」

「テストで1位取ったら職員室に呼ばれた」

博士は鼻を鳴らした。「1位ごときで呼び出されるのか。レベルの低い学校じゃな」

「そういう話じゃなくて」直人は椅子に座った。「解答に習ってない理論を使ったら、先生が困ったみたいで」

博士は少し黙った。それからまた設計図に向き直り、ぼそりと言った。「次からは手加減しろ」

「博士も同じこと言うんだ」

「当然だ」ザイロンが言った。「お前の知識はもう中学校の範囲を超えている。相手に合わせるのも能力のうちだ」

直人はそれを聞いて、少し考えた。

「ザイロン、それって宇宙でも同じ?」

「どういう意味だ」

「いろんな星を回って、いろんな人と話してきたけど、ザイロンはいつも相手に合わせて話してたよね。ヤマトでも、ヨーロピアンでも」

ザイロンは少し黙った。

「……気づいていたのか」

「うん」直人は笑った。「だから先生には、榊博士と相棒から教わったって答えといた」

「相棒、か」ザイロンは短く繰り返した。

「違う?」

ザイロンは何も言わなかった。でも、その目が少し和らいだ。

博士が設計図から顔を上げた。「直人、今日の授業で何か面白いことはあったか」

「先生が僕の解答を理解できなかった」

「ほう」博士は目を細めた。「どの問題だ」

「数学」

「どんな問題だ」

直人は鞄からテスト用紙を取り出した。博士が受け取り、眺める。直人の解答を見た瞬間、博士の目が輝いた。

「なるほど、この式か。確かに中学レベルではないな」博士はテスト用紙を返した。「だがもっと上手く隠せ。答えは合わせつつ、見た目は普通の式に見せる。それが本当の賢さというものじゃ」

「博士、それって要するにごまかせってこと?」

「知恵を使えと言っておる」

直人は笑った。ザイロンが小さく鼻を鳴らした。

作業場に、三人分の声が響いた。

窓のない地下室だが、直人には少しも暗く感じなかった。

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