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第十二話 直人の発明


翌朝、博士は研究所のエントランスに立っていた。

昨日とは違う目で、壁に飾られた設計図を眺める。自分が書いたもの、直人が書いたもの、見たことのないもの。二年間、ここで何かが育っていた。

「博士」

振り返ると、直人が廊下の奥から歩いてきた。中学生になった直人は、会った頃より少し背が伸びていた。でも歩き方はあの頃のままだ。

「おはよう」

「ああ」博士は設計図から目を離した。「ところで直人」

博士はニヤリと笑った。「儂がいない間、遊んでいたわけではあるまいな。ザイロンから何を学んだか、見せてもらおうか」

直人は不敵に笑った。「バッチリさ。博士が腰を抜かしても知らないよ」

案内されたのは、研究所の地下、直人専用の作業場だった。

扉を開けると、油とハンダの匂いが博士を包み込む。かつての工場を思い出させるその場所で、直人はまず机の上の小さな円盤状のデバイスを指差した。

「まず、これ。『銀河間ホログラム通信機』」

直人がスイッチを入れると、空中に青白い光が収束し、等身大の**「ロベルト」**が姿を現した。

「……!?」博士は思わず後ずさった。

「やあ、博士。久しぶりだな」ホログラムのロベルトが、こちらを見て笑い、手を振った。

「ロベルト……なのか? しかし、彼は何光年も先に……」

「そう。でもザイロンに教わった『量子もつれ』の理論を応用して、タイムラグをゼロにしたんだ」直人は平然と言う。「これで、宇宙のどこにいても隣にいるみたいに話せる」

博士は震える手でホログラムに触れようとした。指先は空を切るが、その立体像の解像度は、博士の知る技術を遥かに超えていた。

「驚くのはまだ早いよ。こっちが本命」

直人が部屋の隅にある大型のロッカーを開いた。

そこにあったのは、重機のような無骨さと、パロディアンのような「寄せ集め」の美学が融合した、**『汎用型パワードスーツ』**だった。

「パワードスーツか……。だが、これほどの小型化は……」

「ただのスーツじゃない。ザイロンの装甲技術を応用した『生体同調シンクロ』システムを組み込んだんだ。……ザイロン、やってみて」

壁際にいたザイロンが、スーツの背面に手を置く。すると、スーツが生き物のように駆動音を上げ、直人の体に吸い付くように装着された。

直人が軽く拳を握ると、スーツの関節から青い火花が散った。

「これがあれば、僕一人でパロディアンのエンジンを持ち上げられるし、宇宙空間での作業も生身で三十分は耐えられる。博士を守るために作ったんだ」

直人はそのまま、床に置いてあった一トンはあろうかという鉄塊を、片手でひょいと持ち上げて見せた。

博士は開いた口が塞がらなかった。

「……生体同調だと? 神経伝達速度を機械が先読みしておるのか。それに、この動力源は何だ。このサイズでこの出力、まさか……」

「気づいた? ザイロンの故郷の技術を応用した**『常温核融合炉コールド・フュージョン』**だよ。博士が昔書いてた『重水素のトンネル効果』の論文、あれをベースにしてザイロンが磁場封じ込めの計算を手伝ってくれたんだ」

「なんじゃと……! 儂が理論の壁にぶつかって投げ出したあの数式を、お前たちは完成させたというのか!?」

博士はよろよろとスーツに近づき、その装甲に刻まれた無数の傷や、丁寧に巻かれた絶縁テープの跡を見た。

それが、直人がこの二年間、血の滲むような試行錯誤を繰り返してきた証だと、博士には一目でわかった。

博士はしばらく、スーツを着た直人を見上げていた。

それから、がははと大きな声で笑い出した。

「面白い! 面白すぎるぞ直人!」

博士の目が、あの旅の時のように、いや、それ以上に激しく輝き始めた。

「この通信機でヤマトの廃材をリアルタイムで注文し、このスーツでパロディアンを改造する……。おい直人、設計図を出すんじゃ! 儂の頭の中に、新しいアイディアが溢れて止まらんわい!」

直人はスーツのヘルメットを脱ぎ、得意げに笑った。

「その言葉を待ってたよ、博士」

ザイロンは、狂喜乱舞して壁のボードに数式を書き殴り始めた博士を眺め、静かに呟いた。

「……教え方が良かったからな」

その声は、かつてよりもずっと、誇らしげに響いていた。

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