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1 いつの間にか生まれ変わった

※本作に掲載している画像は、世界観の補足資料としてAIにより生成したものです。

 物語理解の一助としてご覧いただければ幸いです。

挿絵(By みてみん)


「ルシオ、もうこの家にはお前を育てる余裕は無くなった」

 ルシオと呼ばれた三歳の子どもは、これから売られようとしていた。

 魔法使いが、高い金を出してルシオを買ってくれると言うのだ。


 ルシオは、小さな商家の三男坊だ。

 数年続いた隣国の戦争による好景気も、戦争が終わったことで下火になった。

 まだまだ戦争が長引くと考えたここの主人は、大量の鉄鉱石の先物取引をし、直後、鉄鉱石の値が暴落してしまったのだ。

 時勢を読み間違えたせいで商売が傾き、今は夜逃げ寸前の状態だった。


 そんなある日、兄達とふざけ合って、笑いすぎたルシオから空気の塊が飛び出し、周囲の物が散乱した。その様子を見た両親や兄達は驚愕した。


 この一件でルシオには魔力があることが判明し、両親はルシオを魔法使いの街に売る事にしたのだ。


「お前を売った金で商売が持ち直す。明日迎えが来たらお前はもう私の息子では無くなる。悪いが聞き分けてくれ」

「……ッ!」


 たった三歳ではあるが、ルシオは聡い子どもだった。

 少々大人しすぎるところはあったが、兄弟仲は良く、両親が忙しい間は兄達がよく面倒を見てくれた。


 そんな大好きな兄達と別れるのは悲しい。ルシオは珍しくだだをこね、母に訴えた。

 しかし母から、

「兄達が学校を辞めなくても良くなる」

 と聞かされ、頷くしかなかった。


 ルシオは幼いながら自分の立場をわきまえ、世の中を達観しているところがあった。


 そんなルシオに対して両親は、我が子ながら少々薄気味悪く感じていた。

 余りにも聞き分けが良すぎるのだ。

 その心に蓋をして罪悪感を消し去り、


「奴隷として売られるわけでは無い。魔導師なら、勉強も教えてくれる。魔導師は皆から恐れられてはいるが、国からは頼りにされる存在だ。ここに居るより、ルシオは余程大切にされるぞ」


 そう言ってルシオを説得した。


 先の戦争では、魔導師の街と呼ばれる、ブルホ市国に住む魔法使い達の活躍で勝利出来たのだ。

 だから我が子ルシオは、ここに居るより贅沢な暮らしが出来るはずなのだ。

 両親にしてみても納得できる取引だった。


 二百二十三人の魔法使いが集まるブルホ市国は、ここロマゴ王国のほぼ中央に位置している。王都からは4日の馬車の旅だ。

 そこには、各地から集められた魔力を持った子どもが大勢いるという。


 ルシオにとっては初めての旅だった。

 何時も、遠い街へ行ってみたいとは思っていたが、まさか売られていくとは考えていなかった。

 最早諦念を抱き、大人しく馬車に揺られているしかなかった。

 馬車にはルシオの他に五人の子どもが乗っていた。三歳から六歳くらいの子ども達。おそらく皆、売られたのだろう。

 全員男の子だ。

 ルシオと同じ年の子どもは、ずっと泣きべそをかいている。

 時々思い出したようにヒックヒックと泣く。

 六歳の年長の子が見かねて膝に抱き上げ、小声で話しかけていた。

 他の子ども達も皆暗い面持ちだった。

 親に売られるというのはやはり辛い物だ。


 因みに、女の子どもに魔力があっても、魔導師は買ってくれない。

 女の子は、魔力が多いと治癒院に預けられて治癒魔法の使い手にされる。

 その他の生活に困窮した魔力持ちの子どもは、市井の薬師をやっている魔女に弟子入りしたり、呪い師(まじないし)に弟子入りしたりするのだ。

 魔力があっても生活が出来ている人々は、そのまま普通に暮らしているのが大半だった。


 男の子でも、街の薬師になることも呪い師になることも出来るが、殆どは違う職に就く。薬師や呪い師になるには時間が掛かるし、その労苦に見合うほど稼ぎがいいわけでは無かった。

 身体を使って狩人にでもなった方が余程稼ぎになる。


 そもそも、ある程度の魔力が無ければ物にはならないし、魔力があっても使い方が分からなければ宝の持ち腐れだ。

 長い間学び、使えないとなればそれまでの年月が水泡に帰すことになるのだ。

 一般の人々は魔法が使えなくても問題なく生活している。

 寧ろ、魔力持ちは治癒院に連れ去られたり、魔導師に目を付けられたりと、やっかいな物に思われていた。

 その為、魔法使いに自らなりたいというものは居なかった。


 魔導師が恐れられているのには理由がある。魔法という絶大な力が有るせいばかりでは無い。

 魔導師達は過去に大きな災厄を蒔いた神殿を祀っているためだ。

 その災厄のせいで、ブルホ領はロマゴ国から切り離されて、ブルホ市国となった経緯がある。

 実質はロマゴ国の一都市だが。


 神殿は民からは、「穢神(けがれたるかみ)の坐します場所」として忌避されてきた。

 災厄以前は民から絶大な信頼と支持を受けていたのだが、それも今は昔の話だった。


 ルシオは、美しい塔や神殿が立ち並ぶ一角を見て、口をあんぐりと開けていた。一緒の馬車に居た子ども達も同じだった。決して大きくない街だが、建物が隙間無く建っている。


「すんげぇなぁー」

「そうだね、こんな街だとは思わなかったよ」


 ブルホ市国は正に魔法使い達が集う街。

 過去には国の中枢がここにあった。

 王でさえも神殿に頭を垂れて参詣したのだ。


 ブルホ市国の周りには堀が廻らされ、橋を渡った先には一般人が住む街が取り囲んでいる。


 ルシオ達は神殿の一つに連れて行かれ、養い親の魔法使い達に目通しされた。


 台の上に置かれた、五十㎝くらいの六角柱の水晶が真ん中にあり、土台に大小様々な水晶が付いて居る。

 紫魔水晶のクラスターだった。

 これに手を置くように言われたが、怖がって誰も水晶に近づこうとはしなかった。


「お前達の魔力を見るだけだ。怖がらなくても良い」


 年老いた魔法使い(顔に紋が刻まれているため、おそらく魔導師だろう)が、ゆっくりした口調で言った。


 その言葉を聞き、意を決したルシオは最初に水晶に手を置いた。


 ルシオが手を添えると、土台の水晶が輝き、次いで一番大きな水晶がほんのりと光った。

 続いて次々と子ども達が水晶に手を置き、結果を見ていた年老いた魔法使い(魔導師)は満足げに頷く。


 六歳の子どもが手を置いたとき、一番大きな魔水晶が最も強く輝いたようだ。


「お前達の中で、落ちこぼれる物はいなかった。皆優秀な魔法使いの卵達だ」


 ここに連れてこられても魔力が規定値に達しない場合は、魔法使いにはなれない。

 ブルホ市国の外町に連れ出され、薬師や下働き、兵士見習い、街の商店の丁稚として、下げ渡されるという。


 子ども達はそれぞれ別の魔法使いに連れて行かれることになった。

 ルシオは、三十歳くらいの魔法使いに連れて行かれた。


 ウゴ・ガルシアと言う名の錬金術師だった。

 藪睨みで背は低いががっしりしており、まるで農夫のような人だった。

 ルシオはウゴにとって初めての養い子だという。

 以後ルシオは「ルシオ・ガルシア」と名乗ることになった。


「ルシオ、お前は寝ションベンは垂れないよな?」

「……ッ! 大丈夫です」

「そうか、良かった。予想外にちびが宛がわれて困っていたが、何とかなりそうだ」


 何時もは五歳位の子どもが売られてくるらしい。

 今回は三歳が二人に五歳が三人、六歳が一人だった。

 他にもまだ送られてきているらしい。


「何時もはもっと経験のある養い親に宛がわれるんだが、俺みたいなぺいぺいにも養い子が来た。戦争が終わって、商人や兵士の生活が立ちゆかなくなった影響だな。しかし戦争は終結した。暫くすれば情勢も落ち着くはずだ……お前に言っても意味不明だろうがな……」


 ルシオは、ウゴの言っている意味は十分理解していた。だが、黙っていた。年端もいかない子どもが理解するはずも無いのだから。


 戦争自体はこの国で起こったものではない。

 ロマゴと友好関係を結んでいた国が北に位置する隣国に攻められて、ロマゴ国が魔法使い(戦闘魔導師)を派遣して加勢した形だった。


 数年の間続いた戦争によりロマゴ国内は、急激な戦争景気に沸いた。

 だがそれが突然終わり、経済はゆっくりと元に戻りつつある。

 ルシオは廉が転生した子どもだ。細かい事は覚えていなかったが、ここに生れてくる以前、どこか違う世界に生きていたことだけは覚えていた。


 ――僕は、以前は酷い人間だったのを何となく覚えている。今世で遣り直さなければ……ダメな気がする。


 その事だけはしっかりルシオの胸に刻まれていた。


 ウゴの屋敷はブルホ市国の外縁にあった。小さくて、屋敷と呼ぶには烏滸がましい慎ましやかな家だった。


 養い親達は、売られてきた子どもを教育し、八歳まで育てる役目だという。


 ウゴは魔導師では無い。錬金魔導師の下の階位、錬金術師として働いているのだという。

 この街にはウゴのような下位の魔法使いが百五十人ほどいる。下位魔法使いは全魔法使い達の三分の二に当る。


 魔導師の最高位に、神官の魔導師がいる。

 魔導師にはハッキリとした印がある。目や耳の周りや片頬、偶に項などに入れ墨のような、魔法陣のような複雑な紋が刻まれている。その為見間違えようが無いのだ。


 魔導師には神官魔導師、戦闘魔導師、錬金魔導師と三種類いる。

 ウゴは錬金魔導師になることは出来ず、只の錬金術師に治まってしまったそうだ。


 ルシオの朝は早い。毎朝日が昇る前に起きだし、師匠であるウゴの部屋の掃除から始まる。


 この屋敷と言うか家には、料理番とメイドもいるが、師匠の部屋には入ることは許されない。

 貴重な本や、錬金術に使う素材や器具が沢山置いてあるためだ。


 まだ身体が小さいルシオにとって、師匠の部屋の掃除は時間が掛かる。

 だが、面白い本や、変わった器具を見るのは楽しかった。


 貧乏な農民の家に生れたウゴも、六歳の時に売られてきたのだと教えて貰った。

 ウゴの師匠は高名な錬金魔導師だったそうだ。だが、ウゴは魔導師にはなれなかった。今は、錬金魔導師の下請けのような仕事を生業にしているという。


「俺らが作る触媒は、魔導師やロマゴの王族や貴族が必要としている。だから決して腐っては居ないんだ。寧ろ誇れる仕事さ」


 ウゴはルシオにそう言って聞かせるが、本当は魔導師になりたかったのではないか?


 生まれ持った魔力によって、将来の方向が決まってしまう魔法使い達。


 おそらくルシオの魔力も大きくは無いはずだ。

 あの六歳の子どもが手を翳した時は、大きな水晶が眩しく光った。

 彼は、きっと立派な魔導師になることだろう。もしかすれば神官にだってなれるかも知れない。


 そんなことを考えながら掃除をして行く。やっと掃除が終わる頃には窓の外は明るくなり、待ちに待った朝食の時間だ。


 まだ幼いルシオにとって一日二回の食事では足りなかった。一度に食べられる量が少ないためだ。

 本来なら、幼い子は一日三回の食事におやつを挟んで、やっと一日に必要な栄養が取れるのだ。

 だが、子どもを育てた経験が無いウゴには分かるはずも無い。

 料理人が、まめにおやつをくれるので、何とかなっている状態だった。


 食事が終われば、一人で文字の勉強だ。

 ウゴに与えられた教科書を見ながらの自習時間である。

 ルシオにとって魔法文字は難しい。すべて同じように見える文字。小さな点や棒の位置で意味が変わってくる、難解で覚え辛い文字だった。

 だが、ルシオは一生懸命覚えようと努力した。


 放任主義のウゴのお陰で、ルシオは伸び伸びとここで生活できていた。


 夕方になれば、ウゴの錬金の手伝いをさせられる。

 零れた水を拭き取ったり、本のページを押さえたりと、他愛のないものだったが、ウゴの作り出す物には興味があった。

 そしてこの時間、少しだけウゴから学ぶ事も出来るのだ。だからこの時間が一番愉しかった。


「蒸留水、魔法精製水その違いは何だ?」

「蒸留水には不純物が無く蒸留器を使って作る事が出来、魔法精製水は水魔法で出すことが出来ます。あと……えーと……僅かに魔素が含まれています」

「その通りだ、よく勉強しているな。ん? もう本が読めるのか? まさか……な、以前教えたことがあった……か?」

「……」

 本は読めるようになっていた。ウゴは放任主義なのか、殆ど勉強は自学だった。ぼんやりで放任主義のウゴは気が付いていないようだ。


「錬金には、出来れば蒸留水がいい。だが蒸留水を作るには時間が掛かる。魔力が持つなら魔法精製水を使った方が遙かに早いんだ。まあ、上物を作る時には俺も蒸留水を作るけどな」


 そう言って自分の杖を持ちながら、盥に魔法で水を注いでいくウゴ。

 ウゴが今作っているのは、魔法使い達が魔法の補助として使う杖についている宝珠だ。


 宝珠には魔法使い達の力を増幅させる機能がある。呪文も短く出来るのだという。他にも色んな魔道具の素となるので使い道は多いのだそうだ。


 一般人がお目に掛かる事は滅多にない。魔道具は目玉が飛び出るほど高額だからだ。

 魔力がない大多数の人々にとって、魔法は未知なるものだろう。


 魔水晶から、不純物を取り除き真円球に成形するのも錬金術で行う。

 細かく書き込まれた魔法陣に不純物を取り除いた球体に成形した魔水晶を乗せ、呪文を唱えて属性を付与する。

 不純物を取り除くために必要になるのが水だ。蒸留水、若しくは魔法精製水に一週間漬け込み、不純物を取り除いて成形した後、火や、風と言った魔法の属性を入れ込めば、綺麗な宝珠が出来上がるのだ。

 出来上がった宝珠には色が付く。火なら赤く、水なら緑色をしている。

 ウゴには属性が三つあった。火と風と水だ。


「光や闇を持っていればもっと良かったが、俺はいくら努力しても、持つことが出来なかった。だけど、俺の作った宝珠は王都で売られて魔力持ちの貴族が使っているんだぞ」


 他にも、ウゴが下準備した宝珠の元は錬金魔導師が買取って属性を付与するという。

 魔法の属性は、火、風、土、水、光、闇と六つあるそうだ。


 魔力には本来属性が無いそうだ。魔力を変換して属性に変えることを学ばなければ、魔法は使うことが出来ない。

 以前偶々出来たルシアの空気砲は、只の魔力の塊を放出したに過ぎない。


 総ての属性が使えるように研鑽する。それが魔導師達の目指すものなのだという。


「文字を覚えたら、次は魔力操作の勉強だ。これは苦しいぞ、頑張れるか? ルシオ」

「はい、精一杯頑張ります」

 この頃ルシオは五歳になっていた。



 

 

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