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17 穢れの正体

※本作に掲載している画像は、世界観の補足資料としてAIにより生成したものです。

 物語理解の一助としてご覧いただければ幸いです。

「ルシオ、この魔法鞄、なんか、お前が言っていたのと違うぞ」

馬の様子見を兼ねて、鞄の使用感を聞くためウゴの所へ訪問したルシオはがっかりしてしまった。


「え、もう拡張しなくなったの? 失敗作だったか」

ルシオの思いつきは早々に失敗してしまったのか。

「いや、違う。性能が良すぎるんだ。これはかなり高価な物だろう、貰えないよ」

「そんなに性能が良いはず無いんだけどな……」


魔法鞄に手を突っ込んでもう一度鑑定してみると、十メートルの大きさに広がっている。

――何故だ!

「これに、魔水晶の砕いたくずを入れておいたんだ。他の使わない大きな道具や本なんかも――入れても入れても、入ってしまうんだ。可笑しいだろう?」


「そう言うことか! ウゴ、魔水晶の量が減った?」

「いや、減った感じはなかったな」

多分、魔水晶から微量に抜けるはずの魔素が、中で滞留しているため、性能が上がったのではないか?


「ウゴ、凄く参考になった。これは安く出す予定の魔法鞄だ。気兼ねなんかしなくて良いよ。多分、これは三十年以上持つはず。魔水晶をこれに入れていればね!」

「へえ、そうか? まあ、そう言うことなら、貰っておこうかな」


態々、宝玉に加工しなくても、魔水晶のくずを放り込むだけで性能は上がることが分かった。


高く売る予定の魔法鞄にも、”魔素が染み込んだ革”を使えば効果が高まる事が分かったのだ。相乗効果ということになるだろう。


「鞄は別売りにした方が良いかも」

一人でブツブツ言いながら、魔法鞄を手に取って色々考えている。

アレハンドロはそんなルシオを見て、

「まだやっているのか? もう完成したんだろう、魔法鞄」


アレハンドロも、プールの水抜きに参加するということで、今地下に一緒にいる。パブロ魔導師達がくるのを待っているのだ。

皆で一斉に異空間庫に入れれば時間が節約できる。


「しかし、遅いな、何か問題でもあったのかな」

「僕達でやってしまおうか?」

「そうだな、やってしまおうぜ。俺の異空間だけでも間に合うはずだ」


確かにアレハンドロは、この島と同じ大きさの異空間持ちだ。

十分収納できてしまえるだろうが、ルシオはこの水が欲しい。

一緒に収納する。


左手を水につけ、どんどん収納していく。

アレハンドロは、両手を突っ込んでいる。

魔法の発動の仕方は人それぞれだが、多分アレハンドロは、早く終わらせたいと思い両手を突っ込んだのだ。


急激に水かさが減り、アレハンドロは、水の中につんのめりそうになった。

「危っぶねー! 落ちるところだった」

「両手を入れるからだよ」


プールの中央に進んで行かなければならなくなった。

二人で、足下に注意しながら急な坂を下りていく。

途中でガクンと深くなり、足を置く場所がなくなる。


初めは五十メートルプールほどだった穴が、水の中では、空洞が大きく広がっているようだ。

「入り口よりも大きな空洞だったんだな」

「下に行けば行くほど広がっていそうだね」

ルシオの空間把握がぼんやりとした全容を伝えてくる。

中央の魔水晶が大きな姿を現しているが、まだ二十メートルは下っていかなければならないだろう。


「船に乗るしかないか」

「土魔法で作るよ」

ルシオは軽いプラスチック素材で出来た船を思い浮かべ、小舟を作り出す。

「へえ、器用だなルシオは。しかし、よくわかんねえ素材だな、何だこれ」

「……そうかな。今度教えるよ」


――ヤバい! つい調子に乗って”創造魔法”で造ってしまった。


二人は小舟に乗り込み、両側から水に手を入れ、またどんどん吸収していった。


どれほど時間が経ったのか。

気が付くとプールの穴が遙か上にあった。 

真っ暗になって周りがどうなっているのかも分からなかった。

アレハンドロが機転を利かせて灯りを出す。

大きな光の球が頭上高く浮かび上がった。


「これ、終わった後どうやって上に上れば良いんだ?」

「……! そうだった。何も考えないでやっちゃった。不味いよアレハンドロ」

「まあ、その内、師匠達が来るだろう。縄ばしごを持ってきて貰えば良いさ」


水深は五十センチほどになって、周りは巨大な魔水晶の柱が無数に乱立している。直径一メートル以上はありそうな魔水晶が倒れたり斜めにかしいだりしている。

二人は、小舟から下り、膝ほどになった水の中を歩き、魔水晶の森の中を探索していった。


「過去にはここへ降りて直接魔水晶を取っていたそうだよ」

「凄いよな。これ一本で何年も持ちそうだ」


この中でも、比較的小さめの魔水晶のクラスターをポンポンと掌で打ちながらアレハンドロは、年間の魔水晶の重量を計算している。


「数本持っていこうか。今なら持って行ける。ここに水を張ってしまえば、また取れなくなってしまうよ」

「そうだな、小さいのを数本、持っていくか!」

一時間ほど歩き回り、水晶の品質を鑑定していると、アレハンドロが、


「ルシオ! 見て見ろ!」


大きな声に驚き、アレハンドロが指さす方を見ると、魔水晶の中に何かが閉じ込められている。


近づくと、ぼんやりと人型であることが分かった。

その閉じ込めている魔水晶から、禍々しい瘴気がゆらゆらと立ち上っている。


「もしかして、これが穢れの元か?」

「そうかもしれない。ここには置いてはおけない」


ルシオが作った魔法鞄に、穢れた魔水晶を収納し終わった頃、上から師匠達の声が聞こえた。


ルーカスが縄ばしごを下ろし、それに掴まりながらレオが風魔法で身体を浮かしルシオたちを抱えて上まで連れて行ってくれる。

地上に戻ったルシオ達は、こっぴどく叱られた。


「何故待っていられなかった! 準備があるからと言ったはずだ!」

「「……」」

「まあまあ、パブロ、そんなに叱ったら可哀想だ。確かに準備に手間取って明日に廻そうとしていたのだ、終わったのだから良かったではないか」

「だが、半分でいいというのに総ての水を吸収してしまうとは! 後始末にどれだけかかると思っているのだ!」

「……あの……パブロ魔導師」

「何だ!」

「もう水で清める必要は無くなりました。後始末はいらないのでは?」

「何を言っているか、全く分からん」

「穢れの元が見付かりました。俺とルシオで持ってきたので、鑑定してください」

「「「!!!!!」」」


一行は次の日、水の迷宮の一階層に来ていた。


穢れの元を出すのは危険だ。迷宮なら比較的安全ではないかと言うことになったのだ。

「これです」

ルシオが取り出した黒ずんだ魔水晶は、確かに瘴気を発散していた。

「皆、光の結界を張っておくように。この瘴気は危険だ」


それぞれが結界を張り終わって、ミゲル魔導師が魔水晶に手を翳す。

「この中にいるのは確かに人だが魔物の反応もあるのだ。不思議な文様が体中に描いてあるようだ。これは呪いの文様のようだ」

「呪い?」

「かの大陸の魔導師に掴まって、呪いによって核にされたのだろう。一体何のためにこの様な非道をしたのか」

「ここも、ダンジョンにするつもりだったのでは?」

「そうなれば、このブルホを制圧した後、自分達にも不利にならないか?」

「呪いを解く方法があるから心配ないと考えたのだろう。だがここには余りにも多くの魔素がある。呪いは強力になりすぎた。失敗したことを知り、大陸の魔導師は逃げ出したのではないか?」


「そうだろうな、然も我々は”魔水晶の森”を水に沈めてしまったのだ。魔水晶を手に入れることは、不可能になってしまった。諦めてその後は何も仕掛けてこなかったのだろうな」


一番の目的は魔導師達の力を削ぐこと。

その目的は十分すぎるくらいに果されたのだ。

ロマゴ国は魔水晶の他には旨みが無い国だ。魔水晶を採ることが適わなくなって、早々に手を引くことになったのだろうか。


「パブロ魔導師、この魔水晶にどうやって閉じ込めたのでしょう?」

「ああ、それは、ここの魔水晶は成長する。だからこの者は長い時間を掛けて魔水晶に取り込まれたのではないか? 地底から水と一緒に魔素が湧き出して、魔水晶は日々成長する。採っても減ることがない奇跡の場所なのだ。水が深くなると魔導師達は吸い上げていたようだ。まあ、幾ら成長すると言っても時間は掛かる。取り過ぎてはダメだがな。過去には、年間に採る魔水晶の量が決められていたのだ」


アレハンドロが「やべっ!」と小さく呟いた。

「ん? どうした、アレハンドロ」

「す、すいません。俺達持ってきてしまいました」

「どれくらい持ってきたのだ!」

「す、数本です、小さいのを……」

「そうか、それくらいなら構わないだろう。魔水晶もかなり増えているはずだ。だが、後で神殿に納めるように、ネコババはしてはならんぞ」


ルシオはこの穢れた魔水晶をじっと見ていた。

ご先祖様が、これを浄化しろと耳元でささやいたからだ。

――僕に浄化出来るだろうか?


「パブロ魔導師、この穢れを浄化出来ますか?」

「今は無理だろうな。どのような呪いか調べてからでないと。それまでは、このまま魔法鞄に収納しておくしかないだろう」

「では、これを僕が持っていてもいいですか? 魔法鞄は僕の物ですので」

「……何があるか分からないのだぞ。危険だ」

「でも、神殿にも置いておけないし、何処へもやれないのなら、管理する人間が必要です。僕が管理をします。呪いを調べ終わるまで僕に預からせてください。あの……そのようにせよと――神からの指示が……ありました……」


「なんと、神からの!……それなら、そうして貰おう。だが少しでも異変があったら知らせるように。くれぐれも注意を怠るな」

「はい」


そこでミゲルが心配げな表情で、

「迷宮にもこの様な物があるのだろうか? 探して見なければなるまい」


最奥まで攻略済みのはずだが、迷宮は未だに生きている。

多分、迷宮の隠された部屋にあるはずだ。

「今まで、魔物が出ない通路や、不可解な部屋はなかったのですか?」

ルシオがそう言うと、アレハンドロは暫く考えてから、


「そう言えば、全く魔物が出てこない部屋があったな、最奥にいく手前のくぼみだったから、安全地帯だと思っていたが、そこを調べてみるか?」

「明日、行ってみよう。ルシオも来るか?」

「え、僕も行って良いの?」

「そうか、まだ一度しか行っていなかったな。怖くなかったら、連れて行くぞ。行きたいかルシオ」


ミゲル魔導師がルシオの目を見て気遣わしげにそう言ったが、ルシオは全く怖いとは思っていなかった。


過去に事故があったが、あの時とは違うのだ。

ルシオは成長したのだから。

魔水晶は地下にタップリあって、もう魔物から採れる魔水晶に頼る必要がなくなったのだ。

危険な迷宮はいち早く壊すべきだ。

 

※  ※  ※


パブロ魔導師とミゲル魔導師は二人で、もう水がなくなってしまった魔水晶の森の中に降り立った。


「確かに穢れがなくなったな」

「ああ、あいつらのお陰だ。過去の魔導師達は何故探し出せなかったのだろう。あれほどの瘴気を放っていたのに」

「初めは瘴気を出していなかったのではないか? 多分隠蔽の魔法も掛かっていただろう。探しても見付からない事に焦ってもいただろうしな」

「水に沈めたのは、結果的には英断だった、ということだな」


今となっては真実を知るものは生きていない。

あの頃の魔導師達も、かの大陸の魔導師も。

パブロ魔導師は自分が生きている内に、この魔水晶の森を見ることが出来たことに感慨を覚える。


――ルシオのお陰だな。あれほど叱るんではなかった。可哀想なことをした。


「しかし、ルシオとは不思議な子ども……いや、もう立派な青年だが。次々と魔道具を発明したり、魔導師達の憂いを消し去っていく。何なのだろうなあいつは……パブロ魔導師」

「神からの恩恵なのだろう。惜しむらくは神官として神に印を付けられなかったことだ」

「いや、錬金魔導師の素質は神から与えられた物だ。立派に役目を果たしておる。神のなさることに不満など言ってはダメではないか」

「確かに。私のつまらない小言など、神に言ってはならないな」


魔導師の知識の源、一番立派に聳える大魔水晶に手を置き、パブロ魔導師と、ミゲル魔導師は神に祈った。





挿絵(By みてみん)

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