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16 寄り道

魔水晶を、直径五センチメートルの真円に加工する為の魔法陣を設置した。

宝玉にした後、魔法鞄の魔法陣を刻み込むと、宝玉から異空間が広がった。三十センチメートルの靄がその場所に渦巻いている。闇が魔力の拡散を防いでいる。


【左手の銀色の魔法陣は闇だ。右手は言わずと知れた光。使い方はこれからゆっくり覚えていけば良い】


ご先祖様に言われなくとも何となく分かっていた。

銀色は闇の色だ。金色は光。そして火は赤、黄色は風、茶色は土、水は緑。多分空属性は青だろう。


錬金魔導師の薄い白や灰色の魔法陣は、属性の複合の色だ。

ルシオの目の薄青は空属性が多く複合されたせいだろう。


それが仕事に直結しているところを見れば、魔導師の得意な属性を色で表わしているのかも知れない。

異空間の中心は濃い黒色だ。そこが異空間の入り口になっている。

そこに左手を入れてみる。

左手の魔法陣から目の魔法陣へ情報が流れてきた。この異空間は、時間がゆっくり流れている。異空間の大きさは、直径五メートルだ。


「収納力はまあまあだな。時間遅延効果も付いたし、魔法鞄の基礎が出来上がった!」

魔水晶の大きさを変えれば異空間の大きさが変えられる。

 

どの鞄でも、この宝玉を入れれば、魔法鞄になる。

これはグランデ大陸の魔導師が作った魔法鞄より、使い勝手が良いだろう。

鞄が劣化したら、宝玉を入れ変えれば良いだけだ。

然も闇の属性が刻印されているため、魔力は長持ちする。補給は五十年単位だ。魔力を補給すれば、また五十年は持つはずだ。


「小さめの魔水晶ならポケットにだって異空間が作れるかも……面白いものが出来上がった! 革のコートのポケット総てが異空間なんて凄くないか?」


だがそれは売れないだろう。魔水晶が高価なせいだ。

直径五センチメートルの真円を作るには少なくても十センチメートルの魔水晶が必要になる。魔水晶は細長の結晶だからだ。


クラックなどがない綺麗な部分を吟味して真円にするのだ。

宝玉の中に小さなひび割れでもあれば、魔法の効率がガクンと落ちてしまう。そのため、大きくなればなるほど真円の宝玉は高価になる。


かと言って、小さな宝玉に魔法陣を入れるのも高価になるだろう。小さい魔法陣を刻むのにかなりの魔力と集中力と時間を使うはずだ。


【一般の商人や狩人が使うのに、そこまでの品質は必要か? お前が目指しているものは、もっと手頃なものだったはずだ】


「そうだった! 大量生産が可能で、十年も持てばいい安価な鞄だった……やり直しだね」


――ご先祖様が軌道修正してくれなかったら、また思考が枝分かれして、おかしな方向へ行ってしまうところだった。


「魔物素材は、ここでは魔水晶より希少だしな。もっと安価に出来る方法を考える必要がある」


グランデ大陸はきっと魔物が溢れているのだ。この島だけが特別なのか、それとも、かの大陸が特別なのか。

大陸に住んでいる人達は、日々魔物の脅威にさらされているのだろう。


ルシオは、目的が達成したので王都へ帰ることにした。


魔法鞄の基礎が出来上がったので、パブロ魔導師にも報告したい。

ここからブルホ市国ヘは馬で行けば、3日もあれば着くだろう。

ブルホ市国の錬金魔導師なら、別の方法で、品質をもっと上げ、単価を抑えることが出来るのではないか。そんな思惑もあった。


「ブルホを出て行くと言って置きながら、すぐに戻ったら笑われるかな」

【つまらない心配しおって。誰もそんな風には思わんぞ】

「……そうかな」


一ヶ月ぶりのブルホ。今ではここがルシオの故郷だ。

王都で生れたが、三年しかいなかったのだ。

ブルホには十年以上世話になったし、ここで大きくなったのだから。

まずはウゴの所へ行って、馬を預かっても貰おう。ウゴの家には小さな庭がある。

あの場所に、即席の厩を作って少しの間、ウゴに面倒を見て貰うつもりだ。


「おい、馬。これから行くところで暴れるなよ。暴れたら、僕はお前を飼わないからな。そうなったら馬屋の親父に、お前は肉として売られてしまうぞ」

「……ヒン」

馬には、まだ名前がない。買ってから、名前を付けてやるつもりだ。


「ルシオ、もう帰ったのか。え、馬をここに預かるだって?」

「ウン、厩は僕が作るし、飼い葉も一杯置いておくから、水だけタップリやってくれれば……大人しい馬なんだ。少しの間だけお願いできないかな?」

「良いよ! 馬の世話は知っている。預かっている間俺が乗っても良いのか? あ、エート、運動させないとダメだろう?」

「……大丈夫……なはずだ」(多分)

「そうか、久し振りに馬に乗れる!」


ウゴは馬が大好きなのだそうだ。幼い時、家にいた馬によく乗ったり、世話をしたりしていたそうだ。

ウゴが昔世話したのは、大人しい農耕馬だろうけど……。大丈夫だろうか? 

ウゴに早速撫でられている馬を、疑わしい目でじっと見ると、


「ヒッ、ヒヒン!」


なんか、『任せてくんなせぇ』と言っているようだったので、土魔法で簡易厩舎を作り、大神殿へ向かうことにする。

 

 ※


「パブロ魔導師、早々に戻って参りました」

「よく戻ったルシオ。私も丁度話したいことがあったのだ」


パブロ魔導師の住居棟に入ると、ミゲル魔導師とミゲルの弟子だったレオ魔導師、ルーカス魔導師、アレハンドロ魔導師が集まっていた。


「ルシオ! もう帰ったのか。さては寂しくなったな!」

「そんなわけないだろ、魔法鞄の目途が付いたんだ。その報告に来た」


何時ものようにアレハンドロとふざけあって、会話のやりとりをした後、ルシオは異空間収納から、出来たての魔法鞄と男爵の壊れた鞄を出してみせる。


「もう出来たのか!」

「まだです。大体のものは出来ましたが。この壊れた魔法鞄の魔法陣を参考にして。宝玉に刻んだだけです。だけど、これだと高価な物になって仕舞う……」

「ん? 魔法鞄だろう? 高価になるのは当たり前ではないのか?」

「他国には売れるでしょうが、ロマゴは経済が低迷しています。買える人が殆どいないかも」

「……確かに。貴族でも今は厳しいだろうな」

「なので、違う方法がないのか相談したくて」

ルシオは、今では貴族が所有していた魔法鞄が使えなくなっていることを話した。


「魔法鞄が安価になれば、商人達が買うでしょう。そうなれば流通が流れるようになる。少しはロマゴの経済の立て直しの助けになりませんか?」

「……お前の考えは分かった。しかし、魔力の問題なのだろう? 魔水晶を使わないとなれば、容量が小さくなって意味が無い。かと言って魔物素材はもっと高価になる。迷宮で偶に取れる程度では数も足りない。話にならん」


結局は魔物素材が肝になってしまう。堂々巡りで出口がなくなった。


「それにしても、パブロ魔導師、僕は不思議でなりません。幾ら戦争の後とはいえこれほど長く経済が低迷するのは何故ですか? ロマゴが直接戦争したわけでもないのに」


「北のノルディゴ国と南のカリーダ国が同盟を結んだせいだ。我が国と隣国マヨールが同盟を結んだようにな」


南のカリーダ国から輸入していた食糧の値段が、二倍になったのだという。

マヨール国も、ロマゴと同じように苦しいそうだ。

戦争に勝っても、かえって苦しくなったとは。

北のノルディゴ国と南のカリーダ国が同盟を結んだことで、ロマゴ国を囲い込む形になったようだ。


ペケーニョ島は元々一つの国で成り立っていたそうだ。

マヨール国が昔、国の中枢だったが、有力貴族同士の内乱で四つに分かれ、今に至っている。


「北のノルディゴ国は、また一つの国に纏めようと画策しているようだ」

「……そうだったんですか」


それは良いことではないのか。

一緒になって一つの国に纏った方が世の中平和になる。 

ルシオは、ふとそんな感想を持ったが、口には出さなかった。


「ノルディゴ国からの使者がブルホ市国に来るようになった。神殿長の意向によってはブルホはノルディゴ国の傘下に下るかも知れん」

「もし統合された暁には、ロマゴの王族は粛正されるであろうな」


ぽつりとミゲル魔導師が呟く。

ロマゴ王は必死に攻勢に出ようとしているが、ブルホ市国としては手出ししないようにしている。

国から切出されたのに、都合よく使われてきたブルホ。

そのブルホが、今まで義理立てしてきたように、これからも助けになるとは思えない。


今、ロマゴ国は存続の危機に陥っているようだ。

どちらにしても、自分達がどうこうできるはずもないのだ。

話が行き詰まり、皆しんみりとしてしまった。


「話は変わるが、この魔法鞄は、時間遅延があるようだ。しかし精々が三分の一程度か?」

ミゲル魔導師が、壊れた魔法鞄の魔法陣を鑑定している。

彼の鑑定はルシオよりもレベルが高そうだ。

「そこまで分かるのですか?」

「ああ、鑑定は得意でな。闇の停滞効果か。これをもっと強く入れ込めば時間の遅延はもっと大きくなりそうだな」

それからは皆で、ああでもない、こうでもないと言い合い、魔法陣の強化をする話合いになった。


「まあ、値段が高くなっても売れるだろう。これを錬金術師に作って貰おう」

「ルシオ、凄いな! お前、また神殿に貢献したことになったぞ」

「そうかな、助けになった?」

「ああ、今まで研究したくても、ロマゴの貴族達が手放さなかった。研究も進まずに忸怩たる思いがあったのだ。魔導師に作れないものを貴族達が持っていたのだからな」

「これは以前よりも性能が良いものが出来るな。あまり高価になりすぎて魔導師が持てない結果になりそうだ」

「え? 魔法鞄は、魔導師には必要無いでしょ? 自分の意識の中に作れば良いだけだもの」

「……! どう言うことだ?」

「あれ、僕、パブロ魔導師に報告しましたよね。空属性で意識下に異空間収納が作れることを」

「ああ、あの仮説か。夢物語の話ではないか。そんなことは出来るはずがな……! まさか、出来たのか!」


「はい、イメージすれば良いだけです。空属性の理論は殆ど出来ていますよね。それを元に空間をイメージしながら魔力を練れば出来ます」


「イメージ? たとえばどんな?」

「アレハンドロは得意なはずだよ。土魔法もそうやっていたはずだ、君は」

「そうだったかな……」


「兎に角、どのくらいの大きさまでイメージ出来るか、それと、魔力の大きさも関係してくる。そうして時間が止った空間を想像し、空間を創造するんだ」


今度は皆無口になって、眉間にしわを寄せ一点を見つめだした。三時間ほどそのままの格好で一言も交わさずにじっとしている。


「あ、出来た!」


やはりアレハンドロは、一番早くできたようだ。彼は間違いなく、天才だな。


「私にはまだ無理なようだ、暫くかかりそうだな」

他の魔導師達はそれぞれ何日か掛けて挑戦するようだ。

多分すぐに出来る様になる筈だ。

イメージさえ出来てしまえば、それほど難しくない魔法なのだ。


後日、魔導師達があちこちで立ち止まり、固まっている姿を見かけるようになった。時間さえあれば異空間を作ろうと、皆必死になったのだ。


「これほど便利なものは無いな。荷物を総て持ち歩ける」

パブロ魔導師も出来たようだ。大きさを聞いてみると、神殿の規模だそうだ。


アレハンドロは、ブルホ市国全体を想像したようだ。


ミゲルはルシオが始め失敗したように、無限を想像しようとして中々出来ないと悩んでいたので、助言をした。

その後、すぐに出来たようだ。パブロ魔導師と同じような大きさに収まった。


皆が異空間を作るのに手一杯になっていたころ、ルシオは一人、神殿の地下に来た。

「ここの水は、魔素を多く含んでいる。これを利用出来るのでは?」

突然ひらめいたのだ。魔素を含んでいれば獣のの皮でも、魔物素材と同じになるのでは、と。


異空間収納から獣の革を取り出し、盥に魔素を含んだプールの水を入れる。

その水に革を浸す。


「暫く置かないとダメかな」

【闇は停滞、光は促進だ。ルシオ】

「そうか、光を当ててみれば良いんだね」

 魔力を練り光の促進を掛ける。

一分ほどして革を取り出し乾燥させる。そして鑑定を掛けてみた。


「魔素が染み込んでいる!」


この革で、鞄を作ってもらうため、皮革製品を扱っている工房へ行った。

外街にある工房だ。次の日には出来上がるというので今日はウゴの家に泊めて貰うことにした。


馬は大人しくしていたようだ。

馬の世話を暫くして、その後はウゴの仕事の手伝いをした。


「ウゴ、魔法鞄、欲しくない?」

「魔法鞄だって! 高いだろう、俺には買えないぞ」

「今試しに作ろうと思っているんだ、出来たら使ってみてよ」

「ああ、くれるというなら貰ってやる」


鞄が出来上がってきたので、それに魔法陣を描く。

壊れた魔法鞄と同じ方法で作れば宝玉は使わなくて済む。

魔法陣に書くための特殊インクには、砕いて粉になった魔水晶が入っているため、インクは買えば結構な値段だ。


ウゴの処には沢山のくず魔水晶の粉が有る。それを使い自作のインクで魔方陣を描くので、実質材料費は微々たるものだ。

出来上がった魔法鞄は、ルシオが想定したより性能が良かった。

鑑定を掛けてみると、二メートル四方の空間が出来上がっている。

「長くは使えないけど……精々が十年、二十年は持たないくらいか?」

「十分だよ。凄いなこれ、本当に貰って良いのか?」

「うん、使ってみて感想を聞かせて」


パブロ魔導師に、早速この事を報告する。


「ほう、一般用の魔法鞄か。それは良い。皮革を仕入れてプールの水につけ込むだけとは、簡単だし手間もかからない。良い物を作ったな」

「相談なのですが、王都のマテオさんが作ると思うので、プールの水を分けて貰えませんか?」

「ああ、総て持っていってもいい位だ。そろそろ水の入れ替えの時期だ」

「プールの水の入れ替え……ですか?」

「これは秘密にして欲しいのだが、プールの中に魔物が湧くのだ」

「え、気が付きませんでした!」

「時おり倒しているから今はいないだろう。魔素が濃くなると中にいる小動物が魔物に変質するようだ。近いうちに穢れが増した水を抜き、入れ替えることになる」


確かにこの話が外に漏れれば『穢神』と言われているここブルホは、益々忌避されてしまうだろう。


水を抜く作業まで、ルシオはここにいることになった。







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