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10 神官の仕事

ルシオは神官になるための教育をされるようだった。

――錬金術は暫く出来そうも無いな。迷宮も行けなくなってしまった。


自分の魔力では神官になることはないと考えていたルシオだった。だが、パブロ魔導師は、

「お前の性質は神官向きだ。物事をじっくり考える姿勢や、真摯な態度は好ましい。成長すれば魔力の問題は無くなる」

そうルシオを高評した。


神官魔導師になったとしても、空いた時間に錬金をしても構わないと言われ、ルシオは素直にパブロの指示に従った。

従わざるを得なかったのだ。

たかが十二歳の子どもが、世に放り出されて何ができよう。ルシオは売られてここへ来たのだ。帰る家などとうに無くなったのだ。

売られてきた自分の意思など通るはずもない。


パブロ魔導師は、この世界の大雑把な地理をルシオに話して聞かせた。

ここはペケーニョと呼ばれる島で、海を隔てた西隣には大きなグランデ大陸があると言う。

ペケーニョには四つの国があり、その中でも一番小さな貧しい国がロマゴ国なのだそうだ。

ただ、ロマゴ国からは魔水晶が取れる。魔水晶は、ここブルホ市国でしか取れないのだ。


百年前は、魔水晶のお陰で、ロマゴ国は小さい国にも関わらず、他国に大きな影響力があったそうだ。

「今は殆どの人が忘れてしまったことだが、このブルホ市国は巨大な水晶の鉱床の上に作られたのだ。私も見たことは無いが、十メートル以上のロッククリスタルが林立していたという。百年前には直接地下深く潜り、採掘できていたのだ。災厄後は採掘できなくなってしまったが」


地下に大量の水が流れ込み、魔水晶は水深三十メートルの下に沈んでしまった。今もあるはずだとパブロ魔導師は言った。


「災厄とは一体なんですか?」

「……過去にグランデ大陸から渡ってきた魔導師がいた。大陸一の魔導師という触れ込みだった。彼は魔水晶の力を利用して、巨大な魔道具を作ろうとしたのだ。ブルホの魔導師達はそれに賛同した」

「巨大な魔道具……何でしょう?」


「お前も潜った迷宮だ。あれは魔導師が作り出した物だが、出来上がった迷宮から沢山の魔物があふれ出し、当時のブルホ領都を壊滅に追いやった。グランデの魔導師は侵略者の先鋒だったのだろう。ここの魔導師達の力を削ぎ自分達が支配するつもりだったようだ。ここの魔水晶が狙われたのだろう」


その魔導師は捉えられ裁判に掛けられることになったが、水晶の鉱脈の中に逃げ込んだ。幾ら探しても見付からない。その内に地下のロッククリスタルは穢れていった。領都では生き残った魔導師達が踏ん張って立て直そうとしていた。魔導師にとっては魔水晶は大切なものだ。ここから離れるわけには行かなかった。当時の魔導師総出で、クリスタルを浄化するために水に沈めたのだそうだ。


 ――地下に隠れた魔導師もろとも沈めたのか。


何とかブルホは持ち直したが、国からは切り離され、魔導師達の町となって細々と生き残ったのだ。

だが、これほど尽くした魔導師達を国は切り離したというのか? 


「何故国は魔導師達を切り離すようなことをしたのですか?」

「魔導師の力が王よりも強くなりすぎたからだろう。この機に乗じて魔導師から権力を削いだのだと思う」

「そんな詰まらないことで……」

「ロマゴ国も当時のような勢いは無くなったのだ。地下の魔水晶が取れなくなってしまったからな。どちらにしても追々こうなったことだろう」


そして、魔導師の地位も低くなってしまったのだ。

王都で聞いた話は、本当の事だった。

穢神を大切に守っている魔導師達。


今は、迷宮を押さえるために戦闘魔導師達は日々迷宮へ潜っている。

そして魔物から魔水晶を採取することになったと言う。

しかし、迷宮から取れる魔水晶は穢れている。そのままでは使えないため、錬金術師達は浄化してから使っていたのだ。


――アレハンドロから聞いた話とは随分違うようだ。


魔導師にしか伝えられない事実なのだろう。災厄の原因が魔導師なのだから。変遷して伝わったのなら、そのままにしておきたいのだろう。外町には真実は知られたくないのだ。


「パブロ魔導師、大神殿にある塔も迷宮ですか?」

「……その内に案内しよう」


次の日は、礼拝堂のロッククリスタルの前につれてい行かれた。

「お前はこれから毎朝ここで祈りを捧げて貰う」

「祈り……ですか?」

パブロ魔導師が言う祈りとは、無心になり、ロッククリスタルに魔力を供給することだった。

今ではこのクリスタルが、ブルホ市国に残った唯一の大型の魔水晶なのだそうだ。

だが古くなって、魔力を絶えず供給しておかなければ、壊れてしまうのだとか。


「僕の魔力は少ないです。大丈夫でしょうか?」

「お前だけではない、ここには絶えず魔導師がやってきてクリスタルに祈りと魔力を捧げているのだ」

「知りませんでした」


――なんだ、これが信仰の対象ブルホ神なのか? 世界が変われば神も変わるのか。


「十五歳になれば、お前には光と闇の奥義を授ける。これからは毎日欠かさず祈りを続けて行うことになる」

「はい」

「私は暫くブルホ市国からは離れなければならない。急の仕事が出来た」

「仕事……ですか?」

「神官としての仕事だ。私が帰るまでは余裕が出来るはずだ、錬金をしたかったらしても良いのだぞ」

「! はい、ありがとうございます」


 パブロ魔導師がブルホ市国を発ち、ルシオは、近侍のマヌエロ下位神官と共に、毎朝の祈りをするようになった。


まだ夜も明けやらぬうちに、礼拝堂へ赴き、ろうそくを点し祈りという名の魔力供給だ。

ルシオが魔力を供給している間、マヌエロも一心に祈っている。

魔力を供給できないマヌエロだ。

一度、ルシオはマヌエロに尋ねたことがある。


「何をそんなに祈ることがある?」

「私は幼い頃罹った病のせいで九歳まで、目が見えませんでした。ここに来て見える様になれたのです。その感謝を捧げております」


マヌエロは、魔導師によって治癒を施された一人のようだ。

――彼のような信心深いものが魔力を持たないとは……上手く行かないな。彼なら、立派な神官魔導師になれたかも知れないのに。


彼は神に救われたお礼をしているのだと、真剣な眼差しで言うが、ルシオは神がここにいるとは考えられなかった。

どう見てもただの水晶の塊だ。然も、魔力を供給しなければ壊れてしまうという、脆くなった水晶だ。


――神は何処かにおられるかも知れないが、こんな水晶に居るとは思えない。人は心の持ちようで、悪にも神にもなるのではないのか? 第一、マヌエロに治癒を施したのは神ではなく、魔導師だったはずだ。


魔力供給を終え、食事となる。それが済むと、剣術の訓練だ。相手が居ないので一人で行うことになる。

午前中一杯掛かって訓練をし、その後は自由時間となる。

錬金部屋に籠もり、予てより試行錯誤をしていた、魔力を持たない者でも鑑定が出来るモノクルを目指して実験を繰り返していた。

以前作ったモノクルは、数回使えば効力をなくして仕舞うし、本人が魔力を持たなければ使えないものだった。


回数を増やすには、魔水晶を大きな物に変えれば良いだけだが、それでは大きくなりすぎて使いにくいし、それでも、魔力を持たない者は使えない。

魔力を持たない者は魔力を練ることが出来ない為だ。魔力は目的に応じて練り上げ、使える様に加工することが必要なのだ。


「モノクルは顕微鏡のようなものだ」


例え、物事をハッキリ見ることが出来ても、見えた物がなんなのか知るには知識が無ければ、意味が無い。

魔導師達は大量の知識を蓄えて、それを元に判断できるが、一般の人には無理な話だろう。


ルシオは、迷宮の最下層の魔物が落したという、三十㎝くらいの大きな魔水晶を二十センチの真円に加工した。これはとても高価な魔水晶だ。

だがパブロ魔導師は使っても良いと渡してくれた物だ。

失敗しても気にするなと言ってくれたのだった。


宝玉にした残りの水晶でモノクルを作ることにした。

余りにも小さなかけらは、砕いてモノクルのガラスの原料としたのだ。

モノクルは全部で五つ作った。欠片はまだ沢山残っている。他の魔道具を作る時に利用するため大切に保管する。


「知識を詰め込んだ大本があれば、それと連動できるはずだ」

この大きな魔水晶に知識を入れれば、同じ魔水晶のかけらで作ったモノクルと連動できると考えたのだ。

だが、それはとてつもなく大変な作業になる。

前世で、公夫から教えて貰った、エキスパートシステムなるものが必要だ。

知識の集積が出来て初めて、一般人にも鑑定が出来ることになる。

「もう一度、勉強のし直しをしなければな」

錬金術は一時棚上げにして、ルシオは書庫に籠もることになった。

まずは一番手頃な、動物の知識を集めていく。植物に比べて数が少ないから、取っ掛かりとしては良いはずだ。

大きな魔水晶に、本からの知識を入れ込んでいく作業だ。

「これが完成すれば、魔導師にとっても便利な道具になる」

ルシオの魔力が持つ間しか作業は続けることが出来ない。

ルシオはパブロ魔導師が戻ってくるまでの三ヶ月の間、ずっと書庫で過ごすことになった。


動物や魔物の知識を入れ終わった頃、パブロが帰ってきた。

「何を作っていたのだ?」


ルシオはこれまでの経緯を話して聞かせ、モノクルをパブロにつけさせた。

パブロは感心した。

「一人でここまで出来たとはな。大した物だ。ルシオ、私に付いてきなさい」


パブロ魔導師は、ルシオを連れて、大神殿の側にある塔へきた。

「パブロ魔導師、ここに入っても良いのですか? 僕はまだ迷宮に入ってはならないはずですが」

「ここは他とは違うのだ。まあ、黙って付いてきなさい」


塔は他の塔よりも大きく、高さもあった。

塔に入ったパブロは、地下に続く階段を降りていく。ルシオは黙って後を付いていった。

塔の壁に沿って、グルグルと階段が作られていた。手すりはあったが、底が見えないほど深い。

――落ちたら大変だ。

廉が以前落ちた奈落を思い出す。ルシオはブルリと身震いをした。

「何だ、ルシオ、高い場所が苦手だったか?」

「いえ、高い場所は大丈夫ですが……暗い場所は好きではありません」

「ふ、ふ、大人びてはいてもまだ子どもだな。ここに魔物は居ないから、心配するな」




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