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9 魔物が落した素材

ルシオ達は順調に五階層まで進んだ。


「今日はこの階層で終わる。最後だから少しここで時間を取る」

五階層は今までの迷路風の通路と違い、広い部屋のようになっていた。

壁から一体ずつ魔物が湧き出してくる。ルシオ達は円形に陣取り、湧き出した魔物を倒していった。


ミゲル魔導師は、この階層を周回し、何度も魔物を出現させている。

アレハンドロは積極的に魔法で倒している。手に負えなくなったときだけミゲル魔導師や養い子の二人が手を貸す形だ。


「ルーカス、レオ、余り手出しし過ぎないようにな。ルシオにもやらせるように」

「「はい」」

ルシオもゲジゲジの魔物を「風鎌」で足を狩り、その後剣でとどめを刺した。

教えて貰ったように魔力を多めに練って発動する。魔物は普通の獣よりも堅いため魔法は魔力を多く使わなければならない。


ルシオの場合一日に使える魔法は五回が限度だ。魔力の節約の為、なるべく剣を使うようにした。これから成長すれば、アレハンドロのように魔法だけで倒せるようになれるはずだ。


三十体ほど倒し終わると、中央に黒い靄が集まりだし、魔魔物が湧き出してきた。

「さあ、また親玉が出てきた。ルシオは離れて見ていなさい。護衛はルーカス。頼んだぞ」

「はっ!」


ルシオの護衛にルーカスが付くようだ。

離れた場所で見ていると、魔物が周りを睥睨して、ピタリと止り、ルシオをじっと見た。

背筋がぞくりとする。ルシオはルーカスの影に隠れるように後ずさった。


――何度見ても大きい! 今までの魔物の比ではないな。ここはボス部屋だ。


ここにいる人間で一番弱いルシオを、組み安しとでも思ったのか。

今までは黒かった魔物が、このボスは赤黒かった。身体は三倍ほどある、二メートル弱はあるだろう。

ゲジゲジの形だが、体表はダンゴムシのように堅い殻に被われていて、赤黒く光って居た。

ゲジゲジはルシオの方へ突進しようとしたが、ミゲル達が魔物を取り囲み三方から火魔法を放ち始めた。


――火の槍だ。


アレハンドロの火槍はミゲルと同じくらいの威力だ。

アレハンドロが得意な火魔法なだけある。師匠に迫る威力。

「凄いよなアレハンドロは。今の時点でミゲル魔導師と同じだなんて。これからあいつはどれほど凄い魔導師になることやら」

ルーカスは羨ましそうな声音で評価を下した。

「……そうだね」

周りから魔法を集中攻撃されて間もなく魔物は消えた。

後に残されたのは十㎝程の赤黒い魔水晶だった。

暫く待つとまた壁から魔物が湧き出してきた。

――ここは何度でも湧き出すボス部屋か?


「俺達の魔力に反応して出てくるんだ。居なくなれば出なくなるという話だ」

「そうなんだ。人間を倒すまで湧き出ると言うことかな」

「そうかもな。ただの人間と言うよりも魔力がある人間を根絶やしにするという執念めいたものを感じるよ」

「執念?」

「魔物は魔力を持った人間を憎んでいると感じるんだ。これは俺の持論だがな」


それから三度繰り返し、最後にルシオも加わって討伐することになった。

「さあ、ルシオ、とどめを刺して見ろ」

動けなくなった魔物に剣を突き刺し、無事、本日の授業は終わった。

「あれ? 何か違うものが残った」

「お、ルシオはくじ運があるのか? 滅多に無いことだぞ。魔物が素材を落すなんて」


魔水晶の代わりに魔物が纏って居た甲殻が落ちていたのだ。これは優秀な防具になると言う。


「記念に持って帰れ。これで防具を作ればいいさ」

堅い甲殻が二メートル。軽くて丈夫なのだそうだ。

――確かに今付けている防具は直ぐに小さくなりそうだ。一度しか着ていないけど。


ルシオ達の衣食住は総て師匠達の持ち出しだ。魔物素材があれば少しは助けになるだろうか。

欲しい人がいたらプレゼントしても良い。

魔水晶は総てミゲル魔導師にやってしまった。これほど手間を賭けて貰っているからだが、ルシオは魔物素材より魔水晶の方が良かったと残念に思う。

魔水晶が在れば、もっと自由に魔道具が作れただろうに。

一人でダンジョンに潜れるようになるまでは自由に魔水晶を使う事は出来なそうだ。


パブロ魔導師は、錬金術に使う素材は自由にしていいとは言ってくれたが、高価な物だ。実験に使えば失敗することも多いのだ。おいそれとは使えない。


虫の甲殻はくるくると纏めることが出来た。

荷物は、幾ら軽い素材と言ってもルシオに取っては大きく、持って歩くのは大変だった。

ルーカスが代わりに持ってくれると言ったが、ルシオは固持した。

手助けして貰って、おまけに荷物まで持ってもらうなど出来るはずもなかった。


「自分で持つから」

「そうか?」

帰りは来た道を戻らなければならない。隊列を組んで、魔物を倒しながらの道だ。

ルーカスとレオがまたルシオの後ろで護衛に付きながら魔物を倒していった。

もう少しで出口に着くと言うところで、それは起きた。


壁から魔物が湧きだし、ルーカスとレオが対応している。そしてそのすぐ後に、何時もは壁から湧き出てくるはずの魔物が、ルシオの足下からも湧いてでてきたのだ。咄嗟のことで対応は遅れた。


荷物を抱え両手が塞がり身動きが取れなかった。

魔物はルシオの足に食らいついた。

硬いブーツ越しに魔物の牙が感じられる。


ミゲル魔導師はアレハンドロと何やら話しているし、後ろでは湧き出した魔物にルーカスとレオが対応していた。

ルシオの惨状に誰も気が付いていなかったのだ。


ルシオは荷物を放り上げ剣を抜いたことで、やっとルーカスが異変に気付き、慌てて魔法を放とうとしたが、このままではルシオに当ってしまう。

「ミゲル魔導師! ルシオが!」


ルシオは、剣で魔物を突き刺そうとしてバランスを崩し、尻餅をついてしまった。咄嗟に手で身体を支えたため、剣が手から離れてしまう。

後ろに手を突いたルシオの側にまた魔物が湧き出して、今度は手に食らいついてきたした。


余りの痛さとショックで声が出ない。

この間一分もあっただろうか。あっという間の出来事だった。

ミゲルは振り返り走り寄ってきた。

ミゲルはルシオの剣を拾い魔物を串刺しにした。

何とか両手は食われずに済んだが、凄い出血だ。

ミゲルはルシオを抱え、急いでダンジョンを抜け、治癒魔法を掛けた。



「ルシオは今どうしている?」

「部屋で休んでいる。余程ショックだったのだろう、食事もしない」

「……そうか、私が付いていながら怪我をさせてしまった。もうすぐ出口だと油断していた」

「まあ、治癒魔法で綺麗に治ったんだ。何も問題はないだろう。ダンジョンへ入れば、ままある事だ」

「まあ、そうだが、初めて潜って怪我をすれば、その後、潜れなくなってしまうかも知れない」

「それでも構わない。ルシオは神官魔導師にするのだ。戦闘はしなくても良いだろう」

「そうだが、魔力の関係はどうする? このままでは成長しないぞ」

「あれは身体さえ大きくなれば、問題は無い。魔素を取り込める体質だ。自分であのような馬鹿な真似をしなければ、今頃は神官としての修行に入れていたのだ」

「そうだが……」

「アレハンドロのこともあって、不憫だと思った私も悪かったのだ。十五歳まで待つべきだった。どちらにしても、もうダンジョンへはやらないつもりだ」

「…………」


部屋で一人休んでいたルシオは、今、総てを思い出した。

前世の記憶だ。

朧気には何となく分かっていたが、事細かく思い出した今は、自分の事なのに信じられない思いだった。


「僕は、こんな生き方をしていたのか……」


余りにも自分勝手で荒廃した生活だった。

何がトリガーになったかは、直ぐに理解した。

魔物に食いつかれて、地獄での惨状を思い出して仕舞ったのだ。

地獄へ落ちた経緯を思い出し、生前の自分の所業も細かく思い出して仕舞った。


『公夫、また一緒に行こうな』

『廉、いいよ。でも、僕なんかの趣味に付き合っても良いの?』

公夫とは、高校に入学してすぐに親しくなった学友だった。

どちらも背が低く、何となくクラスカーストでは低い位置に納まってしまった。

勉強がソコソコできる公夫と、余り勉強が得意でない廉。

だが廉の家は裕福だった。


公夫の趣味のゲームに付き合い、時には公夫が買うことが出来ないソフトも廉が買い、一緒に遊んでいた。


幼い時は虚弱体質で食も細く身体は細く弱かった廉だった。

学校も休みがちで友達など出来なかった。勉強は遅れ、体力も無い廉は、自信が無く引っ込み思案だった。

そんな廉にとって公夫は話しやすく安心出来る友だった。

だが、暫くすると、不良グループが廉を仲間に加えるようになった。

大人しく、扱いやすそうな廉は不良グループに目を付けられた。

初めは何とか抜け出そうとしたが、ここでも最下層に位置付けられてどうにもならなかった。

そのうち、廉自体も不良達といれば、クラスで幅が利くと思うようになった。


公夫は廉を何とかしようとしたが、不良グループとつるむようになった廉は、公夫とは疎遠になって行った。


不良グループとつるむ内に悪い遊びを覚えていき、何時しかいっぱしの不良になっていた。


『大人しくしていれば舐められる』

それが廉が高校生活で学んだことだった。


高校も終盤に差し掛かり、大学へは進む気にもなれない。

先が見えない不安もあった。親のことは全く頭になかった。

両親も廉のことは見て見ぬ振りをする。

両親は廉には余り関心が無いのか、何時も一万円をテーブルの上に置き仕事へ出かけていく。

その金は直ぐにギャンブルや酒、煙草で消えてしまい、昼食の金もない。

そんな時、以前親しくしていた公夫にちょっかいを出し始めたのだ。


――公夫は大切な友達だったはずなのに、俺は何をやっていたんだ。


公夫だけでは無かった。学校では皆に煙たがれるほど悪さを繰り返していた。だが、何故か退学にはならない。両親が裏で手を回していたせいなのだろう。


――人殺しをしないだけだった。あのまま俺が成長して大人になっていたら、多分最後の柵を跳び越えていただろう。


「公夫は俺にいじめられて自殺したのだろうか? それとも、俺を道連れに死のうと思ったのだろうか?」


そこは未だに疑問だが、どちらにしても二人とも死んでしまったのだ。

ルシオは今の自分の生い立ちは何となく以前に似ているのでは無いかと思った。


ルシオは親に可愛がられた記憶が無い。

兄達ばかりがルシオの面倒を見てくれていた。

もし兄達が居なければ、また廉と同じように育ったのだろうか? 

親には売られてしまったが、それで良かったのではないだろうか。


ルシオには、廉と違い魔力が備わっている。

魔力は力だ。魔道具を認められていい気になっていたのでは無いのか?

前世とは違い努力はしたが、それでもまた同じように、自分が大切なものを忘れて、調子に乗り、いい気になって周りを傷つけ、そして、また後悔するような人生を繰り返すのではないかと怯えた。


神がここに、実際いるとして、廉にまた同じような経験をさせて、試しているのではないのか?


――本当に地獄で反省したのか見られているような気がする。生まれ変わってやり直しの機会を与えられたことは、恩恵なのか? 実は新たな罪に塗り替えるだけなのではないのか?


ルシオと廉で違うとすれば、過去の記憶があると言うことだ。

「今度こそ、真っ当に生きて後悔をしない人生を送りたい。送らねばならない」


あの、永遠とも思える苦しみは、自分の作り出した悔恨だったはずだ。

胸を焼くような後悔と罪悪感……傷つけてしまった友への懺悔だった。

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