表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/63

第一章 part5:宝物

 朝になると、眩しい太陽が小屋や近くにある泉など辺り一面を照らした。


その光が反射して泉はきらきらと輝いていた。


 誠は泉で顔を洗った。


冷たい水が一瞬にして眠気を吹っ飛ばした。


 昨日は本当に驚いてしまった。


泉からあんなふうに思われているとは知らなかった。


でも、自分の気持ちを出してくれたのは嬉しかった。


誠のことを認めているという証拠だ。


もう、あんなこと言わせてやらないためにも頑張らないと。




 泉はまだ寝ているようなので、一先ず朝食の買出しに行った。


コンビニで適当にパンやおにぎり、飲み物を買って小屋に帰った。


 戻ると、泉はすでに起きていた。


なにもすることがなかったからか、携帯でテレビを見ていた。


丁度朝の星座占いが始まろうとしていた。


そばによると、泉は誠に気がついた。


「占いか。ちょっと見てみようぜ。泉は四月だから牡羊座だな」


 占いが始まった。さまざまな景色が映し出され、それを背景にランキング一位から紹介された。


今日の一位は見事に牡羊座だった。


「やったな。一位だぞ」


 内容は、一日中良いことがあり、思い出に残る楽しい一日になるでしょう。


ラッキーカラーは茶色、ラッキーアイテムはぬいぐるみだそうだ。


「よかったな。今日はいいことあるぞ」


「うん」


 泉は気まずそうにだが、嬉しそうにうなずいた。


昨日のことはすでに気にしておらずいつもどおりのようだ。


「さて、俺の天秤座はなにかな」


 誠の誕生日は十月十日なので天秤座だ。


いまかいまかと待っていたが結果は残念ながら最下位。


お金をつかう一日になるでしょう。気にせず出しておくのが吉。


ラッキーカラーは白、ラッキーアイテムはハンカチだそうだ。


「この占い当たるって評判なんだよな。今日はお金を使いそうだ」


 そのあとは、二人で朝食を食べ、一日何をするかを考えた。


明日から誠はまた学校が始まるから一緒にいる時間が減ってしまう。


メールをすれば授業中でも会話はできるが、実際にそばにいるのといないのとでは違う。


ということで、今日はどこかに遊びに行くことにした。


楽しそうなところといえばあそこしかない。


二人は準備をすると早速その場所に向かった。


 山を降り、バスに乗ってゆられること1時間。


目的のバス亭で降り二十分歩いてようやく辿り着いた。


その場所とはこの街一番大きい遊園地のことだ。


この遊園地は、さまざまな乗り物とアトラクションやゲームセンター、ちょっとしたお店やレストランもある。


 二人はお金を払いフリーパスを買って中に入っていった。


時刻は11時だからか大勢の人たちが来ていた。


子供のはしゃぐ声や楽しそうに話すカップルの声、ジェットコースターの轟音で耳が痛くなりそうだ。


泉も少し方耳を抑えていた。


すぐになれると思うので気にせず、まずは定番ものを一通り乗ってみることにした。


コーヒーカップやメリーゴーランド、ゴーカートなどを乗り楽しい一時を過ごした。


「そろそろ飯にするか。あそこのレストランで食べよう」


 二人は適当に見て選んだレストランの中に入り、誠はラーメン、泉はカレーライスを注文した。


「楽しかったな。次は何に乗ろうか」


 二人は次のことを考え、注文したものをすぐにたいらげてしまった。


食べている途中、誠は隣の店の窓際に並んでいるものが目に入った。


誠は良いことを思いつき多少のお金を残しておこうと財布から少し取り出し、別のポケットに収めた。


 レストランから出て、まだまだたくさんある乗り物に乗っていった。


「次、あれにしようぜ」


 誠が選んだものはお化け屋敷だった。


黒い小屋の前には骸骨の人形や壁にドラキュラの絵が書かれており、赤い字でホラーハウスと書かれていた。


誠は気軽な気持ちで中に入っていった。


泉はちょっと困ったような表情をしていた。


中は冷房が効いているのか涼しいが少し寒すぎていた。


並んで奥に進んでいくといきなり白い着物を着た女性の幽霊が井戸から出てきた。


それを見た泉は小さな叫び声を上げ誠の腕にしがみついてきた。


誠は腕が熱くあり、涼しかった体が熱をおびた。


「だ、大丈夫だって。さ、行こう」


 泉は誠にしがみついたままさらに奥のほうへ進んでいった。


次は火の玉が上から出てきたり、お墓からゾンビや手が出てきたり、本物のこうもりが紐で体を結ばれたままばたばたと羽ばたいていた。


誠はおもしろく笑っていたが、泉はさっきからずっと目を固くつぶり、誠の腕にうずくまっていた。


 ようやく出口が見えてきて外に出た。誠は大きく背伸びをした。


「けっこうおもしろかったな。泉はどうだった?」


「……こ、怖かった」


 泉は半泣きだった。泉のような人が入れば脅かす人も満足するだろうな。


そう思うと、誠はずっと泉を慰め、変わりにソフトクリームをおごった。


 食べ終わり、他になにがあるか見渡すと、泉が誠の肩を叩いた。


「あれ」


 泉が腕を上げて指を立てた。指したのは誠が苦手な絶叫系のジェットコースターだった。


このジェットコースターは、高さが三百メートルもあり、時速八十キロと大人気だった。


「あれに乗りたいの?」


「うん」


 昔から絶叫系が嫌いな誠は意地でも乗りたくはなかった。


だが、泉はどうしても乗ってみたいようだった。今始まった人たちを見て、目を輝かせていた。


それに、泉が今日初めて自分から要望したのだ。裏切りたくはない。


「よし、じゃあ乗ってみるか。あんなの楽勝だぜ」


 内心そんなこと言えるはずないと思いながら、すでにがくがく震える足を引きずって列に並んだ。


 泉はとても楽しそうだからいいのだが、誠は故障でもしろと密かに祈っていた


。だが、その祈りは実らず、二十分して自分達に回ってきた。


しかも、一番前だった。最悪だ。


 泉は席に座ると珍しそうにあちこち見ていた。


誠は神に祈って生きて帰れますようにと願った。


女性の係員が安全ベルトの着用を確認すると、ブザーを鳴らしてもっとも怖い乗り物は少しずつ進んでいった。


ゆっくりと坂を登って行く。まるで天国に行くようだった。


下を見ると人が蟻のようだった。たくさんの点がこっちを見ている。


誠は破裂しそうな心臓を必死になっておさえた。


そして、とうとう一番高いところに着いた。


これで十分楽しめたからもう降ろして欲しかった。それを無視した機体は少しずつ下に傾いてきた。


やばい。もうすぐ来る。


次の瞬間、ものすごい勢いをつけて機体は下に下っていった。


風が顔にあたり、目を開けることができなかった。耳も轟音や後ろからの叫び声ばかりが聞こえた。


チラッと横を見ると泉は固く目をつぶっていたが叫び声は上げなかった。


怖くないのだろうか。誠は十分に怖かった。


さっきのお化け屋敷での泉の恐怖もこんな感じだったのだろうか。


泉を怖がらした神様の罰のようだった。


誠は必死に謝りながらこの恐怖が終わるのを待った。


ごめんなさい、神様。


 機体はすぐにもとの位置に戻った。


一緒に乗っていた人たちは楽かった、怖かったなど感想を述べ、小さな子供は泣いていた。


自分もできれば泣きたい。


誠は目にしたくない機体から降りるとふらふらと歩いた。


泉は上機嫌だった。


これには一生乗らないと心から誓った。


 最初は誠が引っ張っていたが、いつのまにか泉が誠を引っ張るようになっていた。


乗りたいものを瞬時に見つけ、誠の意見は聞かず次々に乗っていった。


だが、楽しい時間はすぐに過ぎ、あたりはだんだんと暗くなり客も最初と比べたら随分と減った。


「そろそろ帰るか」


 誠が泉に聞くと、泉は顔を上げなにかを見つめていた。


それは観覧車だった。


一つ一つ乗るところが光、真ん中ではいろいろな形で輝いていた。


綺麗だなと思い、誠も見ていると泉が突然口を開いた。


「あれ……なんだか懐かしい感じがする」


「えっ、懐かしいって?」


「よくわからない。今まで見たことないし、乗ったこともない。けど、懐かしい感じがする……」


 もしかして、記憶は消えても、心や体は覚えているということだろうか。


いや、きっとそうだ。


誠は泉の手を掴んだ。


「最後にあれに乗ろうぜ」


「うん……」


 泉も賛成して、観覧車に向かった。


運良く観覧車にはすぐに乗れた。


二人は向かい合って座り外を眺めた。少しずつ高くなり、見えなかった街も見えてきた。


「わああ」


 街は綺麗に輝いていた。いろいろな色が光、住宅やお店の電気でいっぱいだった。


「綺麗だな」


「うん。とても懐かしい。前にもこんなふうにして見ていたみたい」


 誠は泉をそっと見た。


「泉……」


 泉の目は涙で溢れ、一滴一滴頬を伝って落ちていった。


「おい、泉。どうしたんだ?」


「わからない。涙が止まらない」


 誠はポケットから白いハンカチを渡した。


泉はハンカチで目を拭くと、誠に向き直った。


「せっかく来たからには、楽しまないとね」


 そういうと泉は再び外を眺めた。


だが、誠は泉の涙が気になり外よりも泉のほうを見ていた。


 出口に向かう前に、誠はあることを思い出した。


「悪い、泉。ちょっとここで待っていてくれ」


 誠は走ってあの店に向かった。


お店は今閉めようとしているところでぎりぎり間に合った。


望んでいるものをレジに持っていき、すぐに泉のもとに戻った。


 帰りに温泉とコンビニで夕飯を買い小屋に戻った。


ろうそくに火を着け、遅くなった夕飯を食べ、一段落したときだった。


「泉。今日は楽しかったな」


「うん」


 泉は満足そうな顔をしていた。


誠はさっきお店で買ったものを袋から取り出し泉に渡した。


「はい、プレゼント」


「え?」


 泉はそっとそのプレゼントを貰った。


プレゼントとは熊のぬいぐるみだ。



茶色で大きさは70センチもあり、ふわふわした毛が特徴でけっこう高かった。


「これで俺がいなくても寂しくないだろ」


「うん、ありがとう」


 泉はぎゅっと熊のぬいぐるみを抱きしめた。


それを見た誠は立ち上がり、家に帰った。


泉は熊の手を掴んで一緒に手を振った。




 家に着くと、湊はまたもや閑々になって怒った。


どうやら、誠がいなくて寂しかったようだ。


だが、遊園地でぬいぐるみのついでに買った安物の小さなぬいぐるみを渡すとすぐに機嫌が良くなった。


 誠は疲れたので、すぐに自室に行きベッドに倒れた。


今日も泉の笑顔を見ることができなかった。


楽しそうではあるが、笑うことはなかった。


だんだんと本当に誠がしていることは楽しいのだろうかと不安になってきた。


それにあの涙はなんだろうか。


記憶はないから何かを覚えているはずはない。では、なぜ涙を流したのだろうか。


 ごちゃごちゃ考えるといつのまにか眠っており、気づいたときは朝になっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ