エピローグ
誠は学校の反対側にそびえ立つ山を登っていた。
横には恋人であり、妹の湊がいる。
約束どおり今誠のお気に入りの場所に向かっているのだ。
今思えば始まりはここからだった。
この頂上で泉と出会い、小屋に住んで守ることと愛情を知った。
暗くなった気持ちを助けてくれたのは香だった。そして、動物の気持ちや人の心を教わった。
寂しい気持ちを和らげ、楽しい日々とスカイの怖さを教えてくれた茜。
本当の幸せとは何なのかを教えてくれた雫。
そして、湊の真実。
全てここから始まった。
頂上に着くと、誠は辺りを見回した。
今も残っている綺麗な泉、木造ベンチ、周りに生えてある雑木林、さらさらとした芝生。そして、思い出の小屋。
すべてそのままだった。変わりようのない風景。何も変わっていない。あのときのままだ。
「兄さん、いつもここに来て学校サボってたんだね」
湊が口を開き、誠はうなずいた。
「ああ。俺の一番好きな場所。ここに来ると落ち着くんだ」
誠はそっと空を見上げた。
青い空が広がっていた。白い雲が自由に泳いでいる。全てを照らす太陽が輝いていた。今日もいい天気である。
「綺麗な空だな」
「うん。ほんとうに吸い込まれそうに綺麗」
湊も空を見上げた。
誠は再び歩き出した。そして、前みたいにふかふかの芝生に座った。
その横に湊も座った。
「いいところね」
芝生からは街全体が見渡せた。
学校も、商店街も、病院も、神社も、そして、自分たちの家も。
「湊」
「ん?」
「俺、わかったんだ。なぜ、この島にスカイがあるのか」
誠は空を眺めながら話した。
「スカイって、努力させるためにあるんじゃないのかな」
「努力?」
誠はうなずいた。
「スカイは何でも願いが叶う。でも、人って簡単に自分の願いが叶うと努力しなくなる。どうせスカイで叶うんだから、頑張らなくてもいいと思ってね。そして、そのスカイがなくなるとどうすることもできない。だから、そのことに気づいてもらうためにスカイは存在し、一回しか使えないと思うんだ」
すると、湊はそっと誠の肩に寄り添った。
「私もそう思う。兄さんが努力しなかったら、私たちはこうしていなかったもんね」
「ま、瞳のおかげだけど、俺が諦めてたら、こうならなかったかもしれないな」
湊は誠の手を握るとそっと口を開いた。
「スカイって、もしかしたら、空からの贈り物じゃないかな」
「空からの?」
「うん。空が頑張れって言ってるんだよ。努力して、自分の力で勝ち取れって」
「そうかもな」
誠はふっと笑みを浮かべると決意した。
話そう。全てを。この一年間にあったこと全て。
「湊。これから話すことを一つ残らず聞いてくれ。俺の、最高の一年を」