第四章 part11:運勢
雫の事件は無事解決し、今では前のように学校に来て楽しく過ごしている。
雫のお父さんは守山さんたちによって捕まった。雫は最後まで心配そうな目を向けていた。
久しぶりに学校に来た雫は、いろんな生徒に歓迎の言葉をもらい、嬉しそうに笑みを浮かべて接していた。
霞は一番心配していたらしく、会った瞬間涙を流しながら抱きついた。意外な一面を見た気がした。
生徒会長としての仕事も復帰し、また放課後は忙しくなった。
「ああ~、だるい。もう帰らない?」
誠は机に屈服しながら言った。
「まだ仕事あるよ。早く終わらせないと、次の仕事ができなくなるよ」
雫は今までしていなかった分の仕事を必死にこなしていく。けっこう溜まっていたようだ。
少しは霞さんがしていたが、難しくあまりできなかったようだ。
「ねぇ、雫。何でけっこう休んでたの? 連絡もつかないし」
霞はパソコンで資料の整理をしながら言った。
「う、うん。ごめんね。ちょっと親戚のおじいちゃんが倒れて……」
雫は苦笑いを浮かべてごまかした。あのことは、誠と雫だけの秘密にすることにしたのだ。
「そっか。まぁ、これからはずっと一緒だもんね」
そこで雫はうつむいてしまった。
「う、うん……」
なぜか雫は悲しみの表情をしている。それを誠は見逃さなかった。
放課後。一緒に帰っているとき、雫が口を開いた。
「ねぇ、ちょっと寄り道していかない?」
「ん? なんだよ、生徒会長がそんなことしていいのか?」
雫は可愛らしい笑みを浮かべて言った。
「いいの。学校から出ればただの人間だもん」
それを聞いて誠も笑う。
「じゃ、遊んでくるか」
「うん」
雫は嬉しそうにうなずき、元気よく走り出した。
2人は商店街に来た。そこで買い物や、ゲームセンターなどに行き、楽しく過ごした。
時間が過ぎるのを忘れ、ずっとこのまま続けばいいと思うくらいに。
「ねぇ、誠くん。あれ、取って」
雫が指したのはユーフォーキャッチャーの中にあるぬいぐるみだった。なんのキャラクターなのか、へびのような、かえるのようなぬいぐるみだ。
「おいおい、あんなのどこがいいんだ?」
「何言ってるの、かわいいよ」
「それはお前だけだ」
誠は財布からお金を取り出すとゲームを始めた。
「頑張れ、誠くん」
誠は集中して進める。そして上手くお目当ての商品を手に入れることができた。
「やった! すごいね、誠くん」
「ま、あれくらい簡単だぜ」
誠は自慢げに言った。そして雫は嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめた。
「やっぱりかわいい。この目なんて誠くんそっくり」
「なんだよそれ、バカにしてんの?」
「ふふ、誠くんもかわいいってことだよ」
そこで誠の顔が赤くなった。
「あれ~? 誠くん照れてるの?」
「うっ、うるさい。ほら、次行こうぜ」
誠は先にずかずかと外に出る。雫は可笑しそうに笑うと後ろを追いかけた。
2人は雫の家の神社に着いた。階段を登り、目の前にお寺が見える。
誠は立ち止まるとその光景を改めて見た。
ここで自分は雫を助けた。あの地獄から救うことができた。そう思うだけで心底安心してしまう。
もう、誰も雫を痛めつける者はいない。
誠の瞳はうっすらと潤っていた。
「誠くん、どうしたの?」
雫が誠の顔を覗き込む。誠は袖で乱暴に拭くと笑みを浮かべた。
「いや、何でもない。そうだ。おみくじ引いてみようぜ。ここのおみくじ、引いたことないんだ」
「うん。いいよ」
雫はおみくじの箱を持ってきた。
「はい。この中から引いて。言っとくけど、ここのおみくじ、けっこう当たるって評判なんだよ」
「へぇ~、そりゃすごいな。よし、だったら俺を幸せにしてくれ」
誠は箱の中に手を突っ込むと一枚引いた。
「じゃ、私も」
雫も同じように引く。
「一緒に開くぞ。せーの!」
2人は同時に紙を開いた。なんと、2人とも大凶だった。
「え?……うそ」
誠は呆然とした表情でその紙を見ていた。
「ははは、2人とも大凶なんてすごい偶然だね。ある意味大当たり」
雫は誠と違って余裕の表情で笑っていた。
「で、でも、大凶はないだろ。俺、どうなっちゃうの?」
「大丈夫だよ。ちゃんとお払いしてあげるから」
誠はため息を吐くとあらためて大凶を見た。
そこで気づいた。誠の運勢は、近々そばにあるものが無くなると書いてあった。
「何がなくなるんだ?」
誠は気にせず、近くにあった樹木の枝に結びつけた。
「おーい、誠くん。ご飯作ってあげるから中においで」
雫は母屋のほうに歩きながら手招きしていた。
「おう」
誠は笑みを浮かべてかけていった。
雫の手料理を食べ終えると、誠は寝転がった。
「ああ~、けっこううまかったな。雫は料理うまいな」
「まぁね。これでも一人暮らししてるし」
誠は時間を確認した。今の時刻は夜八時。そろそろ帰らなければ。
「雫。俺、そろそろ帰るわ。湊が心配するし」
誠が帰ろうと立ち上がったときだった。
「待って!」
雫が誠の手を取って止めた。
「雫?」
「え、えと、もう遅いし、今日は泊まっていきなよ」
「え? でも、悪いだろ」
「い、いいの。だって、私一人だと寂しいし」
「でも……」
「ね、お願い」
雫は誠の目をじっと見つめ訴えてくる。誠は困った表情になり、最後はしぶしぶ了解した。
「わかったよ。今日は泊まらせてもらうわ」
雫は嬉しそうに笑みを浮かべてうなずいた。
「うん。ありがとう」
2人は雫の部屋で寝ることになった。
誠は別々の部屋にしろと言ったが雫がそうさせなかった。
雫は自分のベッドで、誠は床に布団を敷きそこで寝る。
電気を消し、暗くした。窓から注がれるつきの光が部屋を照らす。
「ねぇ、誠くん。なんで、私を助けてくれたの?」
「うん? そりゃ、あんなことになってるなんて知ったら、誰だって助けようと思うだろ」
「そう……」
雫は笑みを浮かべると誠のほうを向いた。
「ね、一緒に寝る?」
「ば、バカか! 俺はもう寝る!」
誠は顔を真っ赤にして雫に背を向けた。
雫は可笑しそうに笑みを浮かべ、今日引いたおみくじを見た。
「誠くん、……ごめんね。私、幸せにはなれないかも」
雫は目を擦ると眠りについた。雫のおみくじにはこう書かれてあった。
大切な人との別れの日が来るでしょう、と。