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第四章 part10:守護

 誠と雫のお父さんは外に出た。そして神社の前で向かい会う。


あのときの、雫のときと同じように。


空は今にも雨が降りそうだ。霧のような滴が頬に当たるのを感じる。


「おい、話ってのは何だ! さっさと言え!」


 雫のお父さんがタバコの煙を吐きながら怒声を上げる。


それに怯むことなく、誠は立ち向かっている。


「僕は雫の友達の誠と言います。今回は、あるお願いがあり参りました」


「お願い? なんだ、そのお願いってのは」


 すると、誠は軽く息を吐いて意を決すと前に進み出た。


そして、雫のお父さんに近づいていく。その距離が数十センチになると、誠は地面に膝を着いた。


「ああ?」


 雫のお父さんは誠の行動が理解できず見下していた。


誠は膝の次は手を着き、最後に頭を下げた。


誠は土下座をしたのだ。


「お願いです。この家から出て行ってください。雫とは、もう会わないでください。それが、お願いです」


「はあ?」


 雫のお父さんは怒り狂った声を上げた。


「何勝手なこと言ってるんじゃボケ! 関係ないだろうが!」


「関係なくても、お願いです! どうか、雫から離れてください」


「そんなことできるか! あれは俺の家だ! 身内が一緒に住むのは当たり前だろ!」


 たしかにその通りだ。それでも、誠は立ち向かう。


「お父さんは雫に暴力を振るってますよね。虐待をしている。それがわかれば、雫とは一緒に住めないんだ!」


 そこで雫のお父さんの眉がぴくっと動いた。


「お前、なんでそのこと知ってやがる。まさか、あいつが教えたのか?」


 そこで誠は間違いを犯したことに気づいた。このままでは、雫が危なくなる。


「ち、違います。自分で知ったんです。この前、こっそり部屋に入って、それで……」


「ちっ!」


 雫のお父さんはタバコの吸い殻を落とすと靴で踏みつけた。


「知ってるなら、痛い目にあわせないとな」


 すると、雫のお父さんは足を上げて、誠の頭の上に力強く落とした。


「うぐっ!」


 誠の顔が地面に埋まる。硬く目を瞑ってこみ上げてくる痛みに耐えた。


鼻が痛く、穴の中で液体が通るのを感じる。おそらく鼻血が出たのだろう。


「くそ……」


 誠は顔を横に動かし、足から逃れた。そのとき、目の前に足が出てきておもいっきり顔を蹴飛ばされた。


「うわっ!」


 誠は転げ回るとぐったりと横たわった。


「おい、まだ終わりじゃねーぞ。起きろよ」


 そういって雫のお父さんは軽く笑みを浮かべ近づいてくる。誠はよろよろと立ち上がると血が溢れ出てくる鼻を抑え、じっと雫のお父さんを見た。


「……お、お願いします。俺は何されてもかまいません。……だから、どうか雫の家から……」


「うるせぇんだよ!」


 雫のお父さんは誠の腹をおもいっきり殴った。


「ぐふっ」


 誠は腹を抑えるとその場にうずくまった。


「まったく。ガキが大人に楯突くんじゃね! 今のままでいいんだよ。あいつが俺に食い物と酒、お金を持ってくる。これがうちのルールだ! 女は男の言うこと聞けばいいんだよ! あんなバカな女、それしか使い道ねーからな」


 そこで誠は怒りを覚えた。


それがうちのルール? 女は男のいうことを聞く? バカな女? 雫がバカ? 


この言葉が頭の中で繰り返され、どうしようもない怒りが込み上げてくる。


歯を食いしばり、拳を硬く握る。そしてうずくまったまま、顔を上げて雫のお父さんを睨みつけた。


「それでも……、それでも、あんたは雫の親なのかよ。それでも、あいつの父親かよ! あいつは、あいつは一度だってあんたのことをそんな風に言わなかった。バカにせず、言うことを聞いてきた! あいつは今でもあんたのことを家族と思って接しているんだ! あんたを父親だと思っているんだ! なのに、なのに……、あんたは自分の娘を傷つける気かよ!」


 誠は迫力のある大声で訴えた。それを聞いて雫のお父さんは鼻でふんと笑った。


「知るかよ。あいつが親の言うこと聞かないから悪いんだ。あの母親みたいに、こき使ってやるよ」


 そこで誠は鋭い目つきで睨みつけると、勢い欲襲いかかった。拳を握りおもいっきり顔面めがけて振るう。


それを雫のお父さんは苦もなく手で掴むと膝で誠の腹を蹴った。


「うっ」


 誠はその場に崩れ落ちた。


「くそ……。こんなやつ、雫のそばにはおけない……。こんなやつが雫の父親なんて認めない……」


 誠はゆっくりと足に力を入れて立ち上がる。


「うるせー。死ね!」


 雫のお父さんは拳を握ると誠の顔を殴ろうとした。


そのときだった。


「やめて!」


 雫のお父さんは手を止めて声のした方向を見た。そこには買い物袋を提げた雫が立っていた。


「し、雫……」


 誠はうっすらと見える雫を捉える。そして力が抜けて仰向けになってその場に倒れた。


それを見て雫が駆け寄る。


「誠くん。大丈夫? しっかりして!」


 雫は誠の体を揺すって声をかけた。


誠は力を入れて体を起こすと、中腰になって雫の肩に手を置いた。


「ま、待ってろよ。今、……お前を助けてやるから」


「誠くん……」


 そのとき雨が降り出した。大粒の冷たい雫がその場にいる3人に襲い掛かる。ゴロゴロと雷鳴も聞こえてきた。


 誠はふらふらと立ち上がると雫のお父さんに声を上げながら立ち向かった。


しかし、簡単にやられ、その場に倒れる。それでも、誠は何度も立ち上がり襲いかかる。


殴られようと、痛かろうと、ボロボロになろうと、誠は何度も立ち上がった。


「止めてよ……」


 雫がうつむきながら小さな声で呟いた。目には涙を浮かべ、ふるふると震えていた。


そして顔を上げると大きな声で言った。


「もう止めてよ! 誠くん!」


 そのとき、誠は力強く吹っ飛ばされ、雫の前に倒れた。


「ま、誠くん!」


 雫は誠に駆け寄ると、誠の顔を上げて自分の太ももの上に置いた。


誠はボロボロだった。制服は泥だらけで、顔や体は腫れている。ところどころ怪我もしていた。


「誠くん、もう止めて。もう……」


 雫が涙を落としながら訴える。


すると、誠は手の平で自分の顔を抑えた。


雫はその隙間から滴が落ちるのに気づいた。


誠は小さく口を動かした。


「ごめん……」


「え?」


 雫はそっと誠を見た。


誠は悔しそうに涙を流し、片手はぎゅっと拳を握りしめ、体は震えていた。


「……雫、ごめん。俺、勝てなかった。俺、……雫を助けられなかった。……助けることができなかった。……俺、俺、もう一度、お前の笑った顔が見たかった。幸せそうな顔、見たかった。……でも、俺、弱いから。……何も、できないから」


 誠は両手で顔を覆った。そして悔しそうに歯を食いしばり、大粒の涙を流した。


「誠くん……」


「ごめん。……ごめん。……俺、絶対、助けるから……。お前を安心させて、……元どおりにするから」


「誠くん、もういいよ……」


 雫は誠の体を起こすとぎゅっと抱きしめた。


「もう、いいよ。十分だよ。その気持ちだけで、私は嬉しいよ。……それよりも、誠くんが傷つくほうが見たくないよ。……私は、今のままで幸せだよ」


 雫も目から涙を流し、頬を伝わせながら力いっぱい誠を抱きしめた。


誠は、さっきの言葉が脳裏に焼きついた。


幸せという言葉が。


「雫……。お前の幸せって、何だ?」


「え?」


 誠と雫はそっと離れると、誠は雫の肩を掴みながら問い掛けた。


「お前にとって、幸せって何だ? いつも人の幸せを考えているけど、お前の幸せはどこにあるんだ?」


「え……?」


「雫、正直に言ってくれ。お前は今幸せか? 今、お前は幸せなのか? 人のことは考えず、自分の幸せを考えるんだ!」


「私の幸せ……」


 雫は考えた。自分の幸せは何だろうか。今の生活で幸せだろうか。


虐待を受け、暴力に耐える毎日。学校にも行けず、友達にも会えない生活。


言うまでもない。そんなの、幸せではない。


私にとっての、幸せは……。


雫は誠の顔を見つめるとはっきり言った。


「私は、今の自分は、……幸せじゃない!」


 雫が言った瞬間、誠はそっと雫を優しく抱いた。


「よく言った。雫……」


 誠はそっと自分の胸に手を添えた。


「雫、お前がくれたスカイ、今使うよ。最初から、これで助けようと思った。でも、気づいたんだ。簡単に使って解決していいのかなって。やっぱり、スカイに頼らず、自分の力で解決しないといけないんだ。雫もそう思うだろ?」


 雫はそっとうなずいた。


「だから、これは雫が意思を見せたとき、使おうと思ったんだ」


 誠は目を閉じると願いごとを言った。


「雫が、誰からも傷つきませんように」


 その瞬間、青白い光が生まれ、雫の体を包んだ。そしてゆっくりと収まる。


それを見届けた誠は笑みを浮かべると携帯を取り出した。そしてある人物にかけた。


「あ、守山さん。今すぐ来てください。雫は、……意思を見せましたよ」


「誠くん……」


 誠は雫の頭に手を置いた。


「……これで、助かるから」


「おい!」


 後ろで雫のお父さんが声を上げた。


「お前、今何した? 誰を呼んだ!」


 誠は立ち上がると雫をかばうようにして手を広げた。


「これで終わりだ。お前は、時期捕まる」


「何?」


 すると、遠くのほうから音が聞こえた。パトカーの警報の音だ。


「警察? お前!」


「さようなら」


 誠は笑みを浮かべながら手を振った。


「くそ!」


 雫のお父さんは慌てるようにその場から逃げようとした。だが、すぐに警察たちがきて、雫のお父さんは捕まった。


それを見た誠は安心したのか、その場に倒れてしまった。


「ま、誠くん!」


 雫は慌てて誠に駆け寄った。誠は仰向けになりながら、大の字になって空を見上げた。


いつのまにか、空は黒い雲が掻き消え、青い空が広がっていた。


誠は安堵の息を吐くと呟いた。


「雫、生徒会の仕事、ちょっと休むわ」


 雫はそれが可笑しく、くすくすと笑みを浮かべてうなずいた。


「うん」


 そこで誠は目を閉じた。


すると、目から一筋の涙が流れた。


やっと、笑顔が見れた……。

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