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第四章 part5:神社

 誠が生徒会役員となって数日が経った。


すでに仕事にも慣れ、雫も少しずつだが難しい仕事を押し付ける。だが、誠は着実にこなしていった。


雫はよく人を見ている。前にできなかったことがいつのまにかできるようになっているのだ。


簡単なことからステップするように少しずつレベルを上げることによりできていく。


雫はやはりすごい生徒だった。


 この日も放課後は生徒会室にこもって仕事をした。


会長の雫は書類を、書記の霞はパソコンを使って進めていく。


誠は一人、道具の片付けをしていた。


そんなときに、ある人物が来た。


トントン


 ドアがノックされた。


「どうぞ」


 雫が声をかけると、ドアがゆっくりと開かれた。


「こんにちは」


 ドアの前には湊と瞳がいた。雫は立ち上がると二人に近づいた。


「ええと、何か用かな?」


「え、えと、私たち清水誠の知り合いで」


「誠くんの?」


 誠は雫に2人を紹介した。それから2人を中に招き入れ席に座らせた。


「そっか~。湊ちゃんは誠くんの妹なんだ」


 雫は肘を立ててその上に顔を乗せながら湊を見た。


「は、はい。兄がお世話になってます」


「ううん、そんなこと。いつも頑張ってるから助かってるよ」


「す、すごい。本当に本物の汐風雫さんだ」


 瞳はまるで別人のように慌てふためいていた。


「ふふ。そんなに珍しいような目で見ないで。同じ人間なんだから」


 3人の女子たちは楽しそうに話していた。誠は霞の仕事を手伝っていた。


「霞さんも話に加わったらどうですか?」


「そうね。この仕事が終わったらそうするわ。それにしても、可愛い妹ね」


「いや、いつもうるさいんだけど」


「ふふ。でも、こうやってわざわざ来たってことは心配してるんじゃないかな」


「……そうかも。俺ってそんなに頼りないかな~」


「そんなことないと思うよ。けっこう役立ってるし。やっぱり男がいないと重い荷物とか持てないからね。雫は大助かりって言ってたよ」


 誠はちらっと3人の方を見た。


心配している湊。頼りにしてる雫。どちらでもなくバカにしてる瞳。


いったい自分は役立つ人間なのかそうでないのかわからないやつだと思った。




 休日は生徒会の仕事は基本ない。そこが部活動とは違うところだ。部活動は休日でもある。案外生徒会は楽なものだ。


 湊は部活があるからさっさと昼食を食べて行ってしまった。誠は外に出かけてレストランに向かうことにした。


 レストランで適当な物を食べ、腹を満たすと、帰り道の途中で雫を見かけた。


「あれ? 会長じゃん。何してるの?」


「あ、誠くん。こんにちは。今買物してるの」


「へ~、偉いね」


「ちょうど良かった。ちょっと買い物に付き合ってくれない? 荷物が多くて困ってたの」


「え?」


 誠はなぜか荷物持ちとして一緒に行動することになった。


雫は事前にメモした内容を確認し、いろんな店を回る。どうやら今日はあらゆるところで安売りをしているらしく、今の内に買いだめをしたいそうだ。


そして2時間くらいしてようやく買い物が終わった。


「けっこう買ったな~。……重い」


 大きなビニール袋が誠の手に2つずつ提げられてある。雫は1つずつ持っていた。


「うん。買いたいものが全部買えて良かったよ。誠くんのおかげだね。私一人じゃこんなに持てなかったもん。ありがと」


「まあ、これも会長のサポートだと思えば苦にならないかな」


「あ、あのさ、前から思ってたんだけど、何で私のこと会長って呼ぶの?」


「え? そりゃ、会長は会長だからだろ?」


「普通に雫でいいよ」


「そうか。じゃあ、雫で」


「うん」


 雫は満足そうに笑みを浮かべた。


 2人は商店街から少し離れ、あまり人気のない道を歩いていく。そして長い階段の前に着き、雫はその階段を登って行く。


誠はこっちにはあまり来たことがなく、この階段の上の何があるのか知らない。


 重い荷物を運びながら階段を登って行く。そしてようやく一番上に辿り着いた。


二人の目の前には大きな神社があった。


「なんで神社? 雫の家って、ここの近くなの?」


「ううん。ここが私の家だよ」


「え? だってここ神社だろ?」


「実はね、私の家系は代々この神社を引き継いでいるの。母屋はこっちだよ」


 雫の後に続き、誠は母屋に向かった。母屋は神社から少し離れた隅のほうにあった。


母屋はごく普通の家と変わらなかった。ただ違うのは、隣に根が張られた井戸があるくらいだった。


「さ、どうぞ」


 雫は玄関を開けると誠を中に入れた。


中も普通の家と変わらなかった。奥のほうに進み、居間に入ると荷物を置いた。


「本当にありがとね。何かお礼しなくちゃね」


「いいよ、別にこれくらい」


「そうね。じゃ、ちょっと待ってて」


 雫はお茶を誠に渡すといそいで二階の方へとかけて行った。そして数分して現れた。


「おまたせ」


 誠は雫を見た。そこで思わず飲んでいたお茶を吐き出しそうになるほど驚いてしまった。


「な、なんだよ、その格好」


 雫はあの巫女の姿になっていた。白い服に赤い袴。手には白い紙とお札が張られた棒らしきものを持っている。


「どう? この姿。可愛い?」


「可愛いも何も、何でそんな格好?」


「今からお払いしてあげる。お礼の代わりに」


「できるの?」


「まかせてよ。じゃ、そこに座ってじっとしててね」


 誠は言われたとおりにした。じっと座り、目を瞑って心を落ち着かせた。


後ろで雫はぶつぶつ何かを唱えながら持っていた棒を左右に振り回した。そして最後に誠の頭を軽くぽんぽんと紙を当て終えた。


「終わり?」


「うん。これで何か良いことあるよ」


「本当かな? 俺そういうのあまり実感しないんだよな」


「実感しなくても良いことあるよ。せっかくだし、何か食べる?」


「いや、いいよ。さっき食べてきたし」


「そう。じゃあ、ゆっくりしていってね」


 雫は買ったものを整理し、食事の準備をし始めた。


「なあ。雫は一人暮らしなの?」


「うん。そうだよ。お父さんもお母さんもいないの。でも、よく霞ちゃんが来るから寂しくないよ。たまに泊りにも来るし」


「そうなのか。俺と同じだな」


「え?」


「俺も両親いないんだ。俺が小さいころに交通事故で。それで、湊と二人暮し」


「そうなんだ。寂しくない?」


「大丈夫だよ。湊がいるし。毎日楽しくしてるよ」


「そっか」


 雫はそっと笑みを浮かべた。


 日が傾き始めると、誠は家に帰ることにした。雫は満面の笑顔を浮かべ、誠を見送った。


 そんな光景を、一人の男がじっと見ていた。


この男が、幸せな日々を崩れ去せることを知らずに。


最悪の事件が、今襲いかかり起ころうとしている。

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