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第一章 part2:秘密

 誠は屋上で二人と別れると、またあの小屋にむかった。


ドアをノックすると、彼女がゆっくりと開けてきた。


最初は不安そうな顔をしていたが、誠だとわかると少し安心したような表情になった。


 中に入ると、誠が買ってきた食べ物はすべてたいらげていたことに気づいた。


やはりお腹は空いていたのだろう。どれも一つ残らず綺麗に食べていた。


食べてくれたので、若干安心感が生まれた。


誠は学校から勝手に持ってきた箒を使い、少し小屋を掃除した。


彼女も手伝い、小屋は多少綺麗になった。


掃除が終わり、誠と彼女は向かい合って床に座った。


「今からする質問に答えてね。まず、君の本当の家はどこなの?」


 彼女は俯いたまま首を横に振った。


「じゃあ、次の質問。いつからここに住んでるの?」


 彼女は少し戸惑いながらも掌を上げ、重い口をそっと開いた。


「……二日前……」


 どうやら春休みからここにいるらしい。ならば春休み中になにかあったはずだ。


「次の質問。自分のことが分からなくなったのはいつから?」


 この質問には彼女はしばらく考えたが、覚えてないらしく首を振った。


 誠は大きくため息を吐いた。


どうやら彼女を知るには親に会いにいったほうがいいのかもしれない。


しかし、家がどこにあるのか分からない。


ならば、彼女をいじめていたやつらに聞く。それなら少しの手がかりは掴めるかも知れない。


しかし、もし彼女がここにいることがばれたらまたいじめられてしまうだろう。


それはなにがなんでもかわいそうだ。


誠は他にいい案はないか必死に考えた。


「あ、あの……」


 今度は彼女のほうから話し掛けてきた。


「ん? なに?」


「あ、あの……あなたは、私のことで何か知っているのですか? 私と、どういう関係なのですか?」

「え? 関係って……別になにもないよ。今日初めて会ったし」


「そうですか……」


 それだけ聞くと、彼女は口を閉ざしてしまった。


たしかに見ず知らずの人を助けるようなことは普通しない。


でも、誠はそんなことはできなかった。


人一倍孤独と言う苦しさを知っているから。




 時刻は6時を過ぎた。


そろそろ帰らないと湊が心配する。


誠は彼女を家に連れて行こうとしたが、彼女はここから頑として離れなかった。


誠はまた明日ここに来ると約束して小屋から出て行った。


 外はすでに暗くなっていた。


空には星が無数に輝き月は満月だった。


数個ある電灯を頼りに泉の脇を通ると誰かが立っていることに気づいた


。その人は誠に手招きをしている。


誠は疑問に思いながらもその人のもとに近寄った。


近くで見ると、その人は老人だった。


頭にニット帽を被り、きりっとした眉毛に目、白い髭を生やし茶色のジャンバーを着ていた。


「……ついてきなさい」


 老人は懐中電灯を手に小屋の反対側の雑木林の中に向かって歩き出した。


誠は言われるままに老人の後について行った。


 老人と誠は暗い雑木林の中、無言で奥へと歩いていった。


枝にふくろうが止まっており、数匹のこうもりが宙を待っていた。


しばらく歩いて、懐中電灯の先に十字に結ばれた木の枝が土の上に立っているのが見えてきた。


月の光が十字の木を照らしているように見える。


老人はその前で立ち止まると誠も立ち止まった。


「これがなにか分かるか?」


 老人の質問に、誠は一度ありえないと思ったが正直に答えてみた。


「……お墓?」


 老人はゆっくりとうなずいた。


「この墓は、あの小屋に住んでいる子の母親の墓じゃ」


「えっ?」


 誠は老人を見た。


老人は近くの木の下に腰を下ろすと語り始めた。


誠はその場に立ったままじっと老人を見た。


「三日前じゃ。わしは、この山の電灯の明かりを確認しに来たのじゃ。すると、ある親子が夜遅くにここに来て星を眺めておった。二人は手を繋ぎながらいつまでも眺めておった。しばらくして、母親は子供に向かって語りかけた」




『私はもう疲れた。夫のせいでずいぶん苦労した。こんな人生は嫌だ。もう終わりにしたい』


 母親は泣いていた。そして子供に向き直り、その場にしゃがむと問い掛けた。


『叶えて欲しい願いはなに?』


 子供はうつむきながらも答えた。


『記憶を消したい。今までの思い出を消したい』


 母親は首を縦に振ると子供に向かって願いごとを唱えた。


『この子の思い出を消して欲しい』


 すると、子供の体が青白く光始め、光が治まるとその場に倒れた。


母親は子供を抱えベンチに寝かした。


そして、暗い雑木林の中、あの場所に足を進めた。


老人はゆっくりと気づかれないように後を追った。


 母親はある場所に着くと、自分で穴を掘り、木を十字に結ぶと土の上にさして穴の中に入った。


足から腰まで土を被せると、懐からナイフを取り出し自分の胸を躊躇することなく指した。


 その光景を見ていた老人はしばらくして、母親に土を被せてやった。


そして、子供のほうへ歩み寄った。


子供は女の子だった。


彼女はとてもかわいらしく静かに眠っておった。


老人はどうすることもできず、その場から去ってしまった。




「まさか、あの小屋に住み着くとは思わなかったがな」


 老人は深く息を吐くと語り終えた。


誠は確信した。


その女の子とは彼女のことだ。


といことは、彼女の父親は捕まり、母親は子供を残して死んでしまったことになる。


身よりも友達もおらず、自分が誰なのかもわからない。


こんな不幸なことがあっていいのだろうか。


誠はそっと口を開いた。


「母親は……スカイを……使ったんですね。それで、彼女の記憶を……」


「……そうじゃ」


 誠は墓の前に膝を着くと目を閉じそっと手を合わせた。


老人は立ち上がり誠の横に立った。


「わしは、あの子を児童施設に預けようと思っておった。このままじゃと、いつか死んでしまうだろう」


 老人は一息吐き、誠にそっと問い掛けた。


「……あの子を、お前に救えるか?」


 誠はそっと目を開いた。


「救ってみせます」


「簡単なことではないぞ。高校生のお前になにができる」


 誠はその場に立ち上がり老人に向き直った。


「彼女の笑顔を作ってやる。そして、少しでも生きてよかったと思わせてやる。二度と記憶を消したいなどと思わせないために。人生がどんなに楽しいか分からせてやる」


 誠は彼女を心の底から助けたいと思った。


孤独が、一人がどんなに悲しいことなのか。


それは自分も知っている。


その孤独感を、彼女に味合わせたくない。もっと楽しい人生を送って欲しい。


自分の力で、彼女を幸せにしたい。


 老人はじっと誠の目を見た。


誠の目は真剣そのものだった。


老人は誠の誠意を見届けふっと笑うと背を向けた。


「あの小屋は自由に使ってよい。母親のことも時期話すがよかろう。彼女を救ってやりなさい」


「……はいっ」


 そこで誠はある疑問を抱いた。


「あなたはいったい……」


「わしは、この近くに住んでおるものじゃ。この山の持ち主でもある。お前のことも知っておるぞ。よく学校をサボってはここに来る」


 誠は顔が少し赤くなり頭を掻いた。


「わしはこの先に住んでおる。なにかあったら訪ねなさい」


 老人は来た道をたどり、闇の中へ消えていった。


誠はその姿を最後まで見送った。


見えなくなると、誠はそっと夜空を見上げた。


「あの孤独を味わうのは、俺一人で十分だ……」


 誠は拳を強く握り締めると固く誓った。彼女を救ってやる。


 誠と彼女の物語が今、始まった。

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