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第三章 part8:情報

 旅行に着てから二日目の朝が訪れた。眩しい光が部屋いっぱいに差し込んでくる。


誠はその眩しさのせいで起き上がった。


眠たい目をこすりながら隣を見ると、湊や茜はまだ寝ていた。未だにぐっすりと横になっている。


いつもよりずっと早く起きたようだ。湊よりも早く起きたのはそうとう珍しい。


時間を確認すると8時を回ろうとしていた。


「まだ、8時かよ。もう目が覚めちゃったな」


 誠は立ち上がると大きく背伸びし、せっかくなので朝の温泉を満喫することにした。




 朝の温泉も格別だった。


明るい内からお湯に浸かることがこんなにも贅沢なことだとは知らなかった。やはり来て良かった。


誠はふ~と息を吐いて空を見上げた。


青い空が広がっていた。雲一つない空間。昇っている太陽が眩しい。


しかし、この景色を独り占めできるのは満足感があった。




 温泉を後にし、自分の部屋に戻る途中、またもや時雨さんと出会った。


「あら、おはようございます」


「おはようございます」


 時雨さんも同じ灰色の浴衣を着ており、髪が塗れていることに気づくとさっきまで温泉に浸かっていたようだ。


「清水さん……でしたね。あなたも朝風呂ですか?」


「はい」


「そう。やっぱり温泉はいいわね。疲れが取れるわ」


 時雨さんはふっと息を吐いた。


いろんなことがありすぎて困っているだろう。


誠は時雨さんにある疑問をぶつけた。


「あ、あの時雨さん。ちょっとお尋ねしていいですか?」


「ええ、どうぞ」


「もしかして、時雨さんは秋野茜の母親ですか?」


 その質問に、時雨さんはすぐに返答し、首を縦に振った。


「その通りです。私の娘が行方不明になっているのです」


 そう言って時雨さんはうつむいてしまった。


「まだ、見つかっていないんですか?」


「ええ。もう考え付くところを探し回ってるんですけど、なかなか見当たらなくて……。ここも、最後の賭けでした」


 そこで誠はある言葉に気づいた。


「時雨さんは、前に秋野茜とここに来たことがあるんですか?」


「ええ」


 そう言って時雨さんはある方向に指を指した。


「あっちに大きなひまわり畑を見ませんでしたか?」


「はい。見ました。すごく綺麗でした」


「その景色を、あの子と前に見に行ったことがあるんです。あの子、もう忘れているかもしれませんけど。ずっと幼いときのことですから」


 誠はそれを聞いて茜の言葉も思い出した。


『ここ……前に来たことがある』


 茜も確かにそう言っていた。なら、茜は……。


 誠は生唾をごくっと飲み込むと恐る恐る口を開いた。


「あ、あの……」


「なにか?」


「もし、よろしければ、秋野茜について話してくれませんか? 何でもいいです。幼いときのことや、学校生活とか」


 その頼みに、時雨さんはゆっくりとうなずいた。


「いいですよ。いくらでも話してあげます」


 そう言って、二人は歩き出した。




 2人は旅館の入り口にあるソファに座った。


向かい合いながら座り、時雨さんは飲み物を持ってきて座った。


「それじゃ話すわね。……そうね、あの子は小さいころからレッスンをさせてたわ」


「レッスン?」


「そう。アイドルになるために。毎日、ダンスや歌、演技やいろいろなスクールに通わせたわ。そして、中学生からアイドルとしてデビューしたわ」


 誠はそれを聞いて感心した。努力は報われると思った。


「茜も喜んでいました。アイドルになれた。やっと夢が叶ったって。でも、少しずつ時が経つに連れてあの子に異変が生じ始めたの」


「異変?」


 時雨さんはそっとうなずいた。


「最初はやっぱり新人だから、CMか小さな雑誌に出るくらいで、そんなに忙しくなかった。けど、少しずつ人気が出始めて仕事の量も増えていってしまったの。それでも、茜は苦もなくこなしていったわ。でも、茜は当時16歳。高校生になったばかりのときだったわ。そのときはごく普通の高校に通っていたの。あなたも知ってるかもね。茜は『桜楼学園』に通っていたの」


「桜楼?」


 誠はその言葉で違和感を覚えた。


たしか茜は以前、桜楼学園を知っているかのような素振りを見せたことがあった。


「やっぱり、仕事と学校の両立は難しいから、ちょっと勝手だけど辞めさせたの。高校を中退して、仕事に専念しなさいって。それから茜は、仕事に専念したんだけど、前のようにいきいきとした表情ではなかったわ」


 時雨さんは一息を吐いた。そして目の前にある飲み物に手を伸ばした。冷たいコーヒーを一口含んだ。


時雨さんは多少うつむきながら口を開いた。


「あの子、突然アイドルを辞めたいって言い出したの」


「え?」


「初めてだったわ。あんなに真剣に話す茜は。いつも言うとおりにしてくれて、ずっと頑張ってきたのに」


「それで、辞めたんですか?」


 時雨さんは首を振った。


「そのときは、仕事が忙しくなったから、一時的な気の迷いと思ったの。でも」


「でも?」


「……ある日、この島でドラマの撮影を行うっていうときに、突然姿を消したの」


 おそらく、それから茜が行方不明になった始まりに繋がるのだろう。


それにしても、茜はなぜ姿を消したんだろうか? やはり、アイドルの仕事がきつくなったから? いや、まだ何かあるはずだ。何か……。


 誠は時雨さんが買ってくれた飲み物を飲み干すと席を立った。


「ありがとうございました。いろいろと話してくれて」


「いえ、こちらこそ、こんな退屈な話しに付き合ってもらって」


 時雨さんも席を立った。誠は背を向けると入り口目指して歩きながら口を開いた。


「お子さん、きっと見つかりますよ。……近いうちに」


 その言葉を、時雨さんは呆然とした表情で聞き、誠の背中を見送った。




 誠は部屋に戻ると、すでに湊と茜は起きており朝食を食べていた。


「あ、兄さん。遅いよ。何してたの? もうご飯食べてるよ」


 湊は少し怒っていた。それを見て茜は笑みを浮かべてフォローした。


「まあまあ、湊お姉ちゃん。誠お兄ちゃんも用事があったんだよ。ね」


 茜がこっちに顔を向ける。誠は笑みを浮かべると湊と茜の反対側の席に着いた。


「まあ、ちょっと人と会ってたんだ。湊も知ってるだろ? 秋野茜っていうアイドルが行方不明になったニュース。そのアイドルの母親と会ってたんだ」


 それを聞いた瞬間、茜の箸の動きが止まった。それを誠は見逃さなかった。


「でも、兄さん。いつからその母親と知り合いになったの?」


「ああ、この前、その人に行方不明になったアイドルは見ていないか聞かれたことがあるんだ。もちろん俺は知らないって言ったけど。それからちょくちょく会うようになってな。ここにも、捜しに来たらしいんだ」


「へ~」


 湊は食事を取りながら誠の話しに耳を傾けていた。


しかし、茜の箸はさっきから止まっていた。


「おい、茜ちゃん。どうしたの? 食べないの?」


「え? あ、た、食べるよ」


 誠の言葉に我に帰った茜は無理に作ったと思われる笑顔で食事を進めた。


誠は少しずつだが、自分の考えが確信に繋がっているように感じていた。




 食事を終え、湊と茜が一緒に遊んでいるとき、誠は一人縁側に出て携帯を取り出した。


「やっぱ情報力のあるあいつに聞いたほうが、何かと知れるからな」


 誠はある人の番号を入力すると耳に持って行った。そしてすぐに繋がった。


すると、突然大きな声が耳に響いた。


「何で! 何で! 何で私は誘わなかったの!」


 誠は咄嗟に携帯を耳から外した。しかし、耳の中はキーンという音がまとわりついている。


その声に湊も茜も気づいた。


「兄さん、どうかしたの?」


「い、いや、なんでもない……」


 誠はもう一度携帯を恐る恐る耳に近づけ話し始めた。


「わ、悪かったよ。瞳。今度誘うから」


 携帯の先の人物とは瞳のことである。


瞳は本当に泣いているのかわからないすすり泣く声を出していた。


「絶対だよ。もし破ったら湊は私のものだからね」


「どういう意味だよ……」


「それで、私に何か用? 旅行の自慢でもしに来たの?」


 ここからが本題である。


誠は茜を一目見た。湊と無邪気に遊んでいる茜を見て再び携帯に戻った。


「ちょっと聞きたいことがあるんだ。うちの学園に、アイドルになった生徒いるだろ?」


「アイドルになった生徒? ああ、秋野茜ですね。それがどうかしましたか?」


 さすが瞳だと思った。その情報力は学園ナンバーワンだろう。


「その秋野茜について教えて欲しいんだ」


「ええ、いいですよ」


 そして秋野茜の話が始まった。


 話し終えると、誠は礼を言って携帯を切った。


やはりそうだった。誠の考えは合っていた。


誠は茜に目をやった。


楽しそうに笑っている茜が目に映った。誠はそれを悲しげな目で見ていた。


これで9割はわかった。あとは、茜本人に聞くだけだった。

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