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第三章 part3:買物

 今日から新しく茜を迎えた生活が始まった。


これがいつまで続くかはわからない。


誠はすぐに出て行くことになるだろうという程度にしか考えていなかった。


 誠は今日も変わることなく自分が寝たいだけ寝て、ようやく正午くらいに起きた。



階段を降り、無意識に進んでしまう居間に足を踏み入れた。


そこには部活に行く準備をしていた湊の姿があった。


「はあ~、おはよ~」


「兄さん、もうちょっと早く起きてよ。私もう行くね。茜ちゃんの面倒ちゃんと見ててよ」


「わかったわかった。いってらっしゃい」


「うん。いってきます」


 そう言って湊は鞄を持つと行ってしまった。


 誠は大きく背伸びをした。


「さて、あいつは何してんだろうな」


 誠は茜が寝泊りしている部屋、床の間兼客間に足を進めた。


「茜ちゃん、入るよ」


 誠はそっと扉を開けた。


そのときだった。


「おはよう!」


 扉を開けた瞬間、茜がいきなり飛びついてきた。


誠は驚きながらも茜をなんとか捕まえた。


「ちょ、ちょっといきなりなんだよ」


「だって、元気なほうがいいでしょ? ……昨日いろいろ考えたんだし……」


 最後に何か言っているが誠には聞こえなかった。


「まあ、元気はいいことだな」


 昨日と性格が変わっているような気がするのは気のせいだろうか。


「ねえ、お腹空いた。ご飯食べたい」


「ご飯ね。何が食べたい?」


 すると茜は険しい顔になって真剣に考え始めた。


そんなに悩むことだろうか?


「ええ~と、お子様ランチ」


「って言われても、何を作ればいいのかわからないな。しかも、めっちゃお子様だな」


「お子様の食べるものってこれじゃないの……」


 またも茜は真剣に悩み始めた。


「じゃあ、外に食いに行くか」


「うん」


 二人は外に出ると商店街に向かった。


そして目のついたレストランの中に入り昼食をとった。


「それで、本当にお子様ランチでいいの?」


 誠は茜に問い掛けたが、茜はメニューを見て大いに悩んでいた。


 最後にはハンバーグ定食を注文し食事を終えた。


 二人はレストランから出ると、買い物をすることにした。


「家に住む間、服とかいろいろ買わないとな」


「うん。ありがとう」


 すると、茜は誠の手を握ってきた。茜は当然のような顔をしている。


 誠は小さく笑みを浮かべた。


まるで二人目の妹ができたみたいだった。


湊の幼いころもこんな感じだった。いつも誠の手を握っていた。


湊はよくお店やどこかに行くと迷子になった。


湊はそれが怖く、いつも離れないように誠の手を掴んでいた。


 誠は茜に笑みを浮かべながら言った。


「迷子にならないようにね」


「うん」


 二人はいろんな店に寄った。


そこで気付いたのだが、茜は子供が行くような店には入らず、今どきの高校生などの若者が行くような店ばかりを見回っていた。


あいそうにない服やアクセサリー類、バッグやマニキュアなどを見ていた。


とても小学生とは思えない。


「ねえ、誠お兄ちゃん」


 いつしかお兄ちゃんをつけて呼ぶようになっていた。


「なんだ? 欲しいものが見つかったか?」


「ううん。誠お兄ちゃんは、湊お姉ちゃんと二人だけで住んでいるの?」


 誠はちょっと迷ったが、茜の前にしゃがみ込むと話してあげた。


「俺のお父さんとお母さんは、ずっと前に死んだんだよ」


「え?」


 それを聞いた茜は気まずそうな表情になった。


「ご、ごめんなさい……」


「いいよ。別に、もう気にしてはいない。今は俺には湊がいる。それだけで十分だよ。そして、今では茜ちゃんもね」


「うん……」


 雰囲気が悪くなっている気がして、誠は笑顔を作ると茜の頭を撫でた。


「ほら、買いたいものがあったら何でも言えよ。これから一緒に暮らすんだからな、遠慮なんかするなよ」


「うん」


 茜は笑顔を取り戻し、買い物を再開した。


 さまざまな店に寄って必要な物を買った。


荷物は全て誠が持っている。


茜は満足そうな顔をしていた。


 その帰り道、誠は一つの店が目に入った。


そこはアクセサリー店だ。


新しくオープンしたお店らしい。今ならオープン記念で割引していると書かれてある。


茜もその店を覗いていた。


「入ってみるか?」


「うん」


 茜は元気よく返事をすると中に入っていった。


 店の中はアクセサリー類でいっぱいだった。


安いものもあれば万を超える高いものもある。


「けっこういろいろあるんだな。茜ちゃんはこんなの興味あるの?」


「誠お兄ちゃんは着けないの?」


「俺はあまり着けないかな。ネックレスの一つくらいは持ってるけど」


「じゃあ、私なにかプレゼントする」


「え? いや、いいよ。そんな悪いし」


 すると、茜は財布を取り出した。


中にはたくさんのお札が入っていた。すごいお金持ちだ。


「住まわせてもらっているんだからこれくらいしないと。私が選んでもいい?」


「え、えと、……ああ、いいよ」


 せっかくのご好意だから断るのも悪い。仕方なく了解した。


「じゃあ……、これ」


 茜が取ったのは銀の十字架のネックレスだった。値段は一万近くある。


「こ、こんな高いのはいいよ。もっと安いので」


「安いの?」


 茜はまた探し出した。


自分のために感謝のしるしとして探してくれる。


ちょっと嬉しかった。感謝されるのは悪くない。


 茜は何度も高そうなものを持ってきて、最後には千円くらいの十字架のネックレスを買ってくれた。


湊にも同じようなものを買った。


「私がつけてあげる」


 誠はその場にしゃがみこむと、茜は誠の首にネックレスを取り付けた。


「ありがとう、茜ちゃん。大事にするよ」


「うん」


 茜は満面の笑顔を見せた。


「よし。じゃあ、俺も何か買ってやるよ」


「え、私はいいよ。プレゼント意味がなくなるし」


「そうか? じゃあ、いつかお礼はするよ」


「うん」


 誠はそっと十字架に触れた。


綺麗に光っている。貰ったことよりも心が伝わる。


誠はそっと笑みを浮かべた。




 家に着いたとき、すでに湊は帰っていた。


「おかえりなさい。あ、買い物してきたの?」


「ああ、必要なものは一通り買ったんだ」


「お疲れ様。あれ、そのネックレスは?」


「ああ、茜ちゃんが買ってくれたんだよ。プレゼントだって」


「はい。湊お姉ちゃんの」


 茜は湊の分のネックレスを取り出すと、湊の首に着けてあげた。


「ありがとう、茜ちゃん」


「うん」


「あ、兄さん。お風呂沸いてるから入ってきたら?」


「ああ、そうするかな」


 誠は風呂場に足を進めた。


 風呂場に入る前に、鏡の前でネックレスを着けている自分を見た。


「茜ちゃんはこういうのにもう興味あるんだな」


 誠はネックレスを外すと風呂に入り、3人で楽しい夕食を済ませ、疲れを取るために眠りに着いた。

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