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第二章 part10:和解

 元気を取り戻した香は次の日から学校に来るようになった。


誠も香と前のように楽しく話すようになった。


湊と瞳も喜んでいた。


 ついでに、誠は皐と南に香と友達になるように頼んだ。


二人は最初は少し困った表情をしていたが、誠が手助けしたり、一緒の時間を作ることで、壁はすぐになくなった。


おかげで3人は仲良くなり今では毎日のように一緒にいる。


あの噂話もでまだとわかりみんな香を悪く言わなくなった。


「香がこんなおもしろい人ならもっと早く友達になればよかった」


「本当。あの噂も嘘だもんね。ごめんね、香」


「ううん。いいよ。気にしてないから」


 3人は楽しそうに会話を弾ませながら過ごした。


誠も安心して見守っていた。


 その様子を岬はそっと見ていた。


怨みがこもった目で、ある人物をじっと睨みつけていた。




 それから、誠のまわりに異変が起き始めた。


 誠が朝教室に入って席に着こうとしたときだった。


「な、なんだよ、これ……」


 誠の机は無残な姿になっていた。


机は赤いペンキがかけられており、中に置いてあった教科書などには落書きされたり刃物か何かで無残に切り裂かれていた。


誠の机の周りには、何人もの生徒たちが群がっていた。


「俺たちがきたときには、すでにこうなってたぜ」


「私、今日一番最初に教室に入ったけど、すでにこうなってた」


 周りにいる生徒たちが誠に言ってくる。


しかし、そんなことは耳に入らず、自分の机を呆然として見ていた。


「ねえ、誠くん。誰かに心当たりはないの?」


 隣にいた皐が問い掛けてきた。


「いや、まったくないな。でも、これは酷すぎるな」


 すると、香はその場にしゃがみ込み、一冊の教科書にそっと手に触れた。


「香。何か分かったか?」


 すると、香は驚きの表情になった。


「まさか……」


 香は突然立ち上がると急いで教室から出て行った。


「お、おい! 香!」


 香はある場所にむかっていた。


それは隣のクラスにいるある人物の場所に。


 香は教室のドアを勢いよく開け、外を眺めているある人物の前に立った。


「どの顔で私の前に現れたの? プライバシーの侵害者さん」


 ある人物とは岬のことだ。


香は今までに見たことがないくらいの怒りに満ちた顔で岬を見ていた。


「話があるの。ちょっと付き合いなさいよ」


「いいわよ。今日ではっきりしましょうか」


 二人は教室から出て行くと、ある場所に向かった。


 誠はめちゃめちゃになった自分の机を整理していた。


そして、ようやく片付け終わったときだった。


「ああ、授業前から疲れたぜ」


 誠は大きく背伸びして言った。


「私たちも手伝ったんだから感謝しなさい」


 皐と南の手伝いのおかげですぐに片付いたのだ。


「わかってるよ。ありがとう。昼休みにジュースでも奢ってやるよ」


「ほんと? ありがとう」


 皐は嬉しそうに笑みを浮かべた。


 すると、一人の生徒が誠に話し掛けた。


「おい、清水。さっき朝倉がいたぞ」


「え? どこにいたんだ?」


「どこにいったかわかんないけど、階段を登って行ってたな」


 階段を登るならあそこしかない。


誠は教室から出ると、急いで目的地に走って行った。




 香と岬はある場所に来ていた。


そこは屋上。


少し強い風が吹き、二人の制服と髪をなびかせていた。


 香は真ん中で立ち止まると、後ろにいる岬に向き直った。


二人の姿は、誠と香のときみたいだった。


「それで、話って何? 私も暇じゃないの」


 冷たい目を向ける岬。



今考えれば、岬と話をしたのはあのとき以来。


久しぶりに声を聞いて懐かしく思えてしまった。


だが、今はそんな場合ではない。


岬に言いたいことはいくらでもある。


「誠にいたずらをしたのはあなたね」


 それを聞いた岬は鼻でふっと笑った。


「その証拠はどこにあるの?」


「証拠なんていらないわ。私は何でも心が読める。今の岬の心は自分がしたって言ってるよ」


 岬は観念したのか、あっさりと認めた。


「ええ、そうよ。やったのは私。でも、それを誰が信じるのかな?」


「信じてくれるよ。少なくとも、一人は」


「誰よ。そんなバカは」


 香は自信に満ち溢れたかのような表情でその人物の名前を言った。


「誠。私の一番の友達の清水誠。誠なら、私のことを信じてくれる。だって、約束したもん。絶対に裏切らない。私のこと信じてくれるって」


 それを聞いた岬は、大きな声で笑った。


「そいつが信じたから何だって言うの? 別にいいわよ、そんなこと。それで、あんたの目的はなに?」


 香は拳に力を込めるとはっきりと言った。


「岬。もう誠にいやがらせをするのは止めて。私にするのはかまわない。でも、誠にだけは止めて。もう、私の大切な人を傷つけるのはやめて」


「それは無理ね」


 岬はすぐに否定した。


香は恐る恐る問い返した。


「……ど、どうして?」


 すると、香は鬼のような形相な顔つきで香を睨みつけた。


「どうしてなんてこっちが聞きたいわね。……なんであんたばかり幸せになるの? どうしてあんたばかり信頼されるの? どうして私は信頼されないの?」


「……岬」


「なんで敦くんはあんたなんかを選んだのよ! 私を選んでおけば、転校するはずなかった。全部あんたのせいよ! あんたが私を騙したから! あんたがそんな力を得てしまったからこうなったのよ!」


 岬の怒声を香はじっと聞いていた。


確かに、こうなってしまったのは自分の力のせいかもしれない。


でも、それはこんなことのために願った力ではない。


自分の親友を助けるために願った力だ。


「岬。あのときは本当にごめん。私だって、あんな嘘吐きたくなかった。でも、真実は言えなかった。だって、言えば岬は……」


「そんなことはどうでもいいの!」


 岬はさっきよりも大きな声で叫んだ。


香はその威勢に身をたじろぐと黙り込んだ。


「……そんなことはどうでもいいの。そんなことは……。あんたはそれで私を傷つけないようにしたつもりなの? それであんたは満足なの!」


「み、岬……」


「……あんた、まだわからないの?」


「え?」


「いい加減私の心を読みなさいよ!」


 香は岬が言ったとおり心を読んだ。


そして今分かった。


岬の本当の気持ち。本当の苦しみ。


岬は敦のことなんてどうでもよかった。


それよりも重要なことがあったのだ。


「み、岬……。ごめん。ごめんなさい。……本当に、ごめんなさい」


 香は止まらない涙を流すと、その場に座り込んでしまった。


岬も、目じりからこぼれる涙を流し歯を食いしばりながらじっと香を見ていた。


 すると、突然屋上のドアが開き、誠が姿を表した。


二人は誠の存在に気づいた。


「ま、誠……」


「誠くん……」


 誠は無言のまま足を進めた。


そして香の前に立つと、しゃがみ込んで肩に手を置いた。


「全部聞いてたよ。お前らのこと。……香、今の岬の気持ちわかったろ? お前は岬のことを誰よりも信じてた。でも、お前は信じしすぎていた。岬を傷つけないようにしようとしてた。それが、裏目に出てしまった」


 それを聞いて、香はコクッとうなずいた。


「香、岬を裏切ったのはお前だ。岬がお前を裏切ったわけじゃない。お前がしてしまったんだ。岬はお前を信じてた、全て正直に、真実を話してくれるって。でも、お前は岬を騙してしまった。お前らは、ただ信じてただけなのに」


 香は涙を流しながら何度もうなずいた。


自分の責任。


自分の過ち。


全てを受け止めた。


岬のせいでも、スカイのせいでもない。


全部自分自身のせいだったことを知った。


 香はゆっくりと立ち上がると、岬のもとによった。


岬も涙を流しており、近づいた香をじっと見ていた。


「ごめん。岬。本当にごめん。……私が、岬を騙した。私が岬に嘘を吐いた。それが嫌だったんだよね。……岬は、敦くんが私のことを好きだったことよりも、私が嘘を吐いたことが嫌だったんだよね。……ごめん、岬」


 香は岬に深く頭を下げた。


岬は香をじっと見ていた。


自分の心の整理がつかないのであろう。


誠は軽くため息を吐くと、岬に言った。


「岬。香はな、お前を憎んだことなんてないんだって」


「え?」


 岬は少し驚いた顔になった。


誠はあのときの夜のことを話した。




「なんだよ、香。言ってみろよ」


「う、うん。私ね……岬とまた前みたいに仲良くなりたい。たしかに、岬はいろいろ苦しい目にあわせた。でもね、やっぱり……岬は大事な親友だもん。それは、今でも変わらない。……岬と仲良くなりたい、前みたいに一緒に帰ったり、楽しく話したい。だから、転校して逃げたりせず、その機会が来るのを待って通い続けた。これが、私のあの学校でやり残したこと。私……岬に心から謝りたい。ごめんねって……」




「誰だってあんな噂が流れたり、ずっと一人ぼっちなら逃げたくなるよな。俺だってそうだ。でも、香は逃げなかった。誰よりも親友を大切にする気持ちを持っているから。岬もそうだろ? お前だって香を信じてた。だったら、許してやれよ」


 岬はそっと香に視線を向けた。


今でも香は動かずに頭を下げていた。


岬は小さく笑みを浮かべると、香に顔を上げさせ抱きついた。


「み、岬?」


「香、やっとわかってくれたね。私、信じてた。香が気づいてくれるのを、ずっと待ってたんだよ」


「うん……うん……」


「……私こそごめんね。香」


 誠は二人の様子を暖かい眼差しで見ていた。


これで、二人の絆は再び元に戻ったはず。


ただ、信じすぎたせいで糸が空回りしてしまっただけだったようだ。


絡まった糸を解けば離れる。


だけど、離れればまた繋げればいい。


ただ、それだけのこと。


 誠は空を眺めると、そっと笑みを浮かべた。


 今の空は、二人の和解を祝福しているかのように、空からの贈り物ということで晴れ渡っていた。

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