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第二章 part5:噂話

 今日も変わりようのない一日を過ごした。


香と無駄話をして、一緒に昼食を食べて、聞いても耳に入らない授業は寝る。


 そして放課後、さっさと帰ろうとするが香の姿が見えなかった。


いつもならまっさきに来るのだが今日は来ない。


鞄はまだ机の上にあるから帰ったわけではないようだ。


 誠は何もすることがないので、香が来るのを待つことにした。


すると、数人の女子生徒が誠のところに来た。


「ねえ、清水くん。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」


 どの女子生徒も知らない人だった。いや、同じクラスの人もいるが話したことはない。


「なに? なんか用?」


「清水君って、朝倉さんと仲良いの?」


「仲良いっていうか、友達ではあるな。それがどうかした?」


「清水くんは、あの噂知らないの?」


「噂? 噂ってなんだよ」


「うん、それはね……」


 すると、突然大きな声が聞こえた。


「誠! 一緒に帰ろう!」


 香は誠にむかって大きく手を振っていた。


香の存在に気づいた女子生徒たちはそそくさとどこかに行ってしまった。


「どうしたの? 何話してたの?」


 誠も首をかしげて答えた。


「いや、わかんない」


「もしかして、告白されてたとか?」


「そ、そんなわけないだろ!」


 二人は一緒に笑いながら帰っていった。


しかし、香はすでに誠の心を読んでいた。




 次の日の朝。


下駄箱を開けると中に手紙が入っていた。


誠は見た瞬間もしかしてと思った。


「俺にもようやく春が来たか」


 誠はさっそく中を開けて読んでみた。


そこには、


『今日の放課後、屋上に来て』


 と書かれてあり、差出人の名前は書いてなかった。


誠は気にすることなく、放課後になるのを楽しみに待った。


 そして、放課後。


香に一言告げ、誠はさっそく屋上にむかった。


屋上にはすでに女子生徒が来ていた。


それも三人も。


しかし、そこにいた女子生徒は以前誠に話しかけて来た生徒だった。


「来てくれたのね」


「ああ、呼ばれたからな。でも、言わなくても分かってるぞ」


「え? もう内容分かってるの?」


「まあ、俺もバカではない。まずお互いのことを知るのが先じゃないかな? まだよく知らない同士だし。最初は友達から」


「あの~、何の話?」


「だから、俺とお前らの誰かが付き合う話だろ? この手紙ラブレターじゃないのか?」


「……バカだ」


「違うわよ。話しはあの朝倉さんのことよ」


 それを聞いた誠は心底がっかりした。


「なんだよ、告白じゃなかったのか。ドキドキして損した」


「勝手に間違えるのが悪いんでしょ。まあ、お互いのことを知らないのは当たってるけど。まずは自己紹介ね。私は一河岬いちかわみさき。」


 一河岬は香と同じくらい髪が長いのが特徴だった。


「私はさつき。同じクラスだよ」


 皐は三人の中で一番背が低く、髪もショートヘアーだ。


「私はみなみ。私も同じクラス。よろしくね」


 南もショートヘアーで、しっかりとした真面目そうな生徒だった。


 お互いの自己紹介が終わり、コンクリートの上に座りこむと本題に入った。


「それで、話ってなんだよ。香のことか?」


 最初に口を開いたのは岬だった。


「話しっていうか、ちょっとした助言かな。清水くん、何も知らなさそうだし」


「助言? 何を助けるんだよ」


「朝倉さんが、人の心を読めるって知ってる?」


 皐が言った。


「それくらい知ってるよ。まあ、知ったのは最近だけど」


「え? それでも一緒にいるの?」


 3人は驚いた表情になった。


「あ、ああ、まあな。でも、人の心が読めるっていっても、別に悪くないだろ?」


「でも、勝手に読まれるって嫌じゃない? 知られたくない秘密が知られちゃうんだよ」


 南はいかにも嫌そうな顔をしていた。


「それに、あいつが黙っているなんて保障ないし」


 岬は心底香を信じていないようだ。


「でも、あいつけっこう口堅いと思うぞ。一緒にいる間、誰かの秘密とか話したことないし、聞いたこともない」


「清水くんは、あの噂知ってるの?」


 皐は恐る恐る誠に聞いた。


「あっ、そういえば、前もそんなこと言ってたな。その噂ってなんだよ」


 それを岬が教えてくれた。


「うん。あの、朝倉さんね……中学のころ人の心を勝手に読んで、いろんな人に話していたらしいの」


 誠はぼうぜんと聞いていた。


人の心を勝手に読んで話した? 


今の香を見てそんな感じにはとうてい見えない。


「嘘だろ?」


 それを岬が強く否定した。


「いいえ、嘘じゃないわ。それに、知りたい情報があれば、お金を払えば簡単に教えてくれるっていうのもあるわ。それほど汚れた人なのよ」


 誠はバカらしくなって手を上げた。


「おいおい、ちょっと待てよ。そんなのたかが噂話だろ。誰かが勝手に流したんだよ。香がそんなことするはずないぜ」


「それだけじゃないわ。朝倉さん平気で人を騙すでしょ。それで友達いないみたい」


 南は多少怒っているような話し方だった。


「……確かに、俺はあいつが俺以外のやつと話しているところを見たことがない。でも、あいつはいいやつだぜ。俺は香に助けられたんだ」


「確かに、少しは良いところもあるみたい。前に傷ついた友達を助けたって聞いたことがある」


 皐は二人とは違って良いことを言った。


「もしかして、それ俺のことかもな」


 誠は笑みを浮かべながら喜んだ。


しかし、岬はまだ続けた。


「でもね、一番やばいのはあれよね」


「ま、まだあるのか?」


「うん。朝倉さんね、前に一人の男子生徒に近づいて仲良くなったんだけど……その男子生徒は、数週間してノイローゼ状態になったみたい」


 誠はその話しを聞いて生唾を飲んだ。


ノイローゼ? 


精神がおかしくなったのか? 


それほど何かあったのか? 


今の香を見てそんなこと、少しも思えない。


「私たちからは以上よ。ただこれだけを伝えたかっただけ。清水くんがそれでも朝倉さんと仲良くするのなら別に止めるつもりはないわ。でもね、嫌な目に合いたくないなら、離れたほうがいいよ」


 岬はそういうと、皐、南と共に屋上から出て行った。


 誠はその場に座り込んだまま動かなかった。


さっきの話しが頭の中で繰り返していく。


人の心を勝手に読む。


それでお金をもらう。


人を平気で騙す。


そして、ノイローゼ状態に持っていく。


 誠は怖くなってきた。


香はいったい何者なのだろうか。


今の噂話は本当なのだろうか。


香の過去になにがあったのだろうか。


「香……」


 誠が座っている姿を、香は屋上の入り口で静かに見ていた。

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