プロローグ
もし、一つだけなんでも願いが叶うとしたら、その願いは誰に使いますか?
自分? それとも、あなたの一番大切な人?
そして、それはどんな願いですか?
遥か遠く、海に囲まれ浮かんでいる、ある一つの小さな島があった。
島の名は、青空島。
その島で生まれた人たちは、皆一生に一度だけ願いを叶えることができる。
それが、たとえどんなに幸福なことでも。そして、どんなに過酷で苦しいことでも。
しかし、その願いも一つだけ叶えることができないことがあった。
それは、死者を甦えさせること。
一度死んでしまった者は、もう二度と生き返ることはできない。
そして、一度叶った願いは、二度と元には戻らない。
人々は、それは空からの贈り物と称し、『スカイ』と名付けた。
あれは、とても寒い日の夜だった。
この日はクリスマス。
街や商店街は、綺麗に飾り付けられ、広場の真ん中には大きなクリスマスツリーが立っていた。
どこの店もクリスマスバージョンという限定商品ばかり販売しており、店の注目を少しでも上げようとしているのが分かる。
路上では、サンタの衣装に着替えたバイトであろうという女性が、チラシの束を持って行き交う人に一枚一枚丁寧に配っていた。
小さな子供は、両親と手を繋いで楽しそうに笑っていた。
他にも、熱々のカップルは、一つのマフラーを二人で巻いてくっつきながら歩いていた。
どの人たちも、今が幸せ、今が楽しい、そんな思いをしていのだろうと感じられた。
すると、空から小さな白いものが降ってきた。
雪だ。
綺麗な柔らかい塊がみんなの頭に落ちてくる。
最初はそんなに降っていなかったが、少しずつ本格的になってきた。
この勢いなら、明日は一面銀世界になってそうだ。
みな、この雪を見て嬉しそうな顔をしていた。
しかし、一人だけ違う者がいた。
商店街から少し離れた住宅街は、どこからも楽しそうな声が聞こえた。
全ての家から中からの電気が外に漏れ、外灯がいらないほど歩道は明るかった。
お金に余裕があるものは、外にまでイルミネーションを飾り付けているところもあった。
そんな中、一つだけ電気も付けす、静まり返っている家があった。
二階建ての洋風で、小さな庭のある家。そこだけ別空間のようだった。
ここの家は、誰も住んでいないのだろうか。いや、ちゃんと住んでいる。
その証拠に、郵便受けには一つの新聞が入っている。
それに、車庫の前には雪が少し積もった自転車が置かれている。
そこには、一人の少年がいた。
一人暗い中、誠は部屋の真ん中で体育座りをして床に座っていた。
暖房器具を一切付けず、服装も薄着だった。
テーブルにはたくさんの料理やケーキが並べてあり、部屋の端には小さなクリスマスツリーがあった。
誠は何度拭っても溢れ出てくる涙を流していた。
部屋からはすすり泣く声しか聞こえない。
苦しくて、悲しくて、歯を力いっぱい噛み締めていた。
頭の中では、ある一つの真実が何度も繰り返されていた。
受け入れたくないが、受け入れるしかない真実。認めざるを得ない事実。
誠は拳に力を込めた。
どうして自分がこんな想いをしなければならないのだろうか。なにか悪いことをしたのだろうか。
誠はわけがわからず、混乱状態に陥った。
心も体を冷え切っている感じがした。すべてが悲しみと寂しさに包まれていた。
この気持ちを鎮めたい。この気持ちを癒されたい。そればかり考えていた。
そのとき、ある人物の言葉を思い出した。
『お前の望みはなんだ? お前の叶えたい願いはなんだ?』
「……俺の、望み」
誠は小さく呟くと、潤んだ瞳をそっと閉じた。そして……。