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分かっている。人を羨む時間があれば、自分も変わればいい。おどおどして小心者な性格も、すぐにネガティブ思考にはしってしまうことも、それ故に人をいら立たせてしまうことがあることも。自分の欠点には気付いているのだから。ツイていないことだって、私が原因である可能性が高い。職場でクレーマーの神経を逆なでしたのも、私がもごもごと言葉に詰まり、焦ってかえって対応に時間がかかり、余計にトラブルの種を作ったからだ。ロングスカートを履いているのも、足を隠したいがため。そのこと自体をコンプレックスと思うことも含め、元凶は自分だ。自分に自信が持てないせいだ。自分が情けない。変わりたい、けど変われない。変わるために何から始めるべきかすら分からない。そんな葛藤を何度も繰り返してきた。
なぜか涙が滲んで視界がぼやけてきたので、俯き気味に返された診察券を受け取った。
「次回の予約は、そこに書かれている携帯の番号に電話してとのことです。手書きの番号です。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「お大事に」
何とかお礼を告げ、顔を見られないよう足早に病院を出たが、後々考えると、直接先生の携帯に電話する必要が?という疑問がわいてきた。病院の固定電話ではだめなのだろうか。
数日後。平日であるが仕事は休みなので、自宅でたっぷりと時間を使って支度をする。カーテンを開けて太陽光をたっぷり取り入れ、好きな間接照明をつけてBGMもオンにする。仕事で培った技術を駆使してメイクアップし、お気に入りの香水を身に纏う。あぁ、生きている、幸せだと感じる瞬間の1つだ。メンタルが日和った時はこれに限る。盛大に自分を甘やかし、至極丁寧に自分に手をかけて好きなことだけするのだ。良いことがあって気分が上がっている時にも、自分をいつも以上にメイクアップして出かけたくなるが、正反対の感情を持った時にでも、いや、その時こそこれらの行動は大事なのである。自分の思う完璧な自分を作って自己肯定感を上げるというか……とにかく、私のメンタル回復術のうちの1つなのだ。昨夜から自分を甘やかす期間は始まっており、白濁色の入浴剤を入れた湯舟にゆったりと浸かったので、朝からかなり調子が良い。公共の大浴場は私にとって処刑台のようなものなので大嫌いだが、1人で入るお風呂での半身浴は大好物だ。