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 本日の仕事は可もなく不可もなくといったところで、今の状況の私としては上出来ぐらいだ。ただ、急いでいる時に限ってすんなりと帰れない。もちろん私のこれから予定など誰にも話していないし、だからこそ彼女にも悪気がないことは分かっているのだが、仕事が終わってロッカーで私服に着替えている際に先輩に話しかけられた。彼氏の愚痴から始まり、あかりちゃんは彼氏作らないのー?などと私の恋バナにすり替わったが、時間が間に合うかの瀬戸際で内心焦っていた私の耳には、どこ吹く風であった。まぁ、時間が迫っていなくとも、聞き流したい内容ではあるのだが。内容は何であれ、予定があれ、人の話の腰を折れるようなタチではないので、ひと段落するまで先輩の話を聞いてからデパートを後にする。駅から病院までの道もできる限り急いだつもりだったが、やはり診療受付時間内には間に合わなかった。まだ人がいる様子は見受けられ、電気もついているので、せめて予定をすっぽかした謝罪と次の予約を取れるかだけでも聞けないかなと思い、ダメ元で足を踏み入れる。おそるおそる受付に近づくと、パソコンの操作をしていた女性がこちらに気付いて顔をあげる。パーツが整った綺麗なお姉さんだな……と見惚れ、声をかけるのが一瞬遅れた隙に、

「あ、もしかして物部さんですか?」

 と話しかけられる。驚きながらも反射のようにとりあえず頷くと

「少々お待ちくださいね!」

 と受付の女性が奥に消えていく。初診で診察券も出していないのに名前を知られていたことに戸惑い、どうしていいか分からずその場で立ちつくす私に、しばらくしてから声がかかる。

「待ってたよ」

 声のする方に顔を向けると、白衣姿の男性が、壁にもたれて腕を組み、微笑んでいた。服装が異なり雰囲気が違うので一見別人のようだが、ふわりとした人好きのする表情は、紛れもなく昨日の彼のそれである。

「う……そ」

 と、思いもよらぬ再会に、様々な感情が渦巻いて思わず後ずさりしてしまう。

「あれ、怖がらないでこっちおいで。診療時間は過ぎてるけど、特別に診てあげるから。」

 ヘビににらまれたカエルさながらに固まる私の腕をつかまれ、有無を言わさず奥の診察室に連れていかれる。状況把握が出来ていない私は、頭がオーバーヒートしてされるがままだ。お、お医者さん?彼が?私服は最高にロックな服装で、ステージでは髪をツンツンに立て白塗りメイクを施し、マイクに向かって叫んでいた彼が?お医者さん?彼のプライベートとのギャップに追いつけない間にも傷の確認やガーゼの交換が終わる。白くきれいな手で行われる無駄のない所作に、素人目にも優秀な医師だと分かった。

「はい、おしまい。お大事に。」

 と言う彼の声に我に返る。

「本日は以上です。待合室でお待ちくださいね。」

 看護師に誘導され、待合室へと戻る。穏やかな美人さんだ。美容皮膚科もしているこのクリニックでは、受付や看護師さんもある程度の肌質や見た目が必要なのだろうか。みんな輝いて見える。お会計を待つ間、そんなことをぼんやり考えていた。今日の診察は終了したらしく診察室から出てきた例の彼が、他の医師や受付のお姉さん、おばさん達と仲良さそうに話す姿が目に入り、何とも心が落ち着かなくなった。仕事仲間であるはずなのに、私が友人と話す時のようなリラックスした雰囲気を感じたからだ。私だって、仕事中のみならず、プライベートでも初対面や他の人たちとあんな風に楽しく雑談出来ればなあ。


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